この記事は2015年2月に掲載されたものです。
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いま入手出来る、制作者が絶対に読んでおくべき演劇関連書10冊
2015年2月14日現在、アマゾン(マーケットプレイス含む)で購入可能な書籍から、小劇場演劇に関わる制作者なら絶対に読んでもらいたい10冊を選びました。「fringe blog」「fringe watch」で紹介したものも多いですが、再度本棚を眺め、いま若手制作者に推薦したいものを再考しました。順不同です。
1. カンパニーの5か年計画のロールモデルに
平田オリザ著『地図を創る旅―青年団と私の履歴書』(白水社、2004年) ※2013年新書化
白水社
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制作者の勉強会やワークショップで定番の課題になっている「カンパニーの5か年計画作成」。若手カンパニーにとって、なにが起こるかわからない中長期計画の策定は難しいと思います。だったら他の先達カンパニーが歩んできた道程を年表に落とし込み、5か年計画のロールモデルにしたらどうでしょう。成功事例を追体験するのです。本書は青年団創生期の詳細な内情を描き、得難い経験を伝えてくれる貴重なテキストです。
2. 制作者のキャリアデザインを思い描く
高萩宏著『僕と演劇と夢の遊眠社』(日本経済新聞出版社、2009年)
劇団夢の遊眠社の裏側を赤裸々に描いた回顧録ですが、注目すべきは派手な資金繰りよりも、経験と共に著者の視野が広がり、制作者から国際交流コーディネーター、そして公共ホールのプロデューサーへと転身していくキャリアでしょう。後述の『だから演劇は面白い!』で「途中で投げ出してしまった」と書かれている遊眠社退団ですが、カンパニーよりも演劇界全体の創造環境整備を選んだ著者の生き方が伝わってきます。
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3. 俳優の信頼感を勝ち取る
小学館
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高萩氏の退団後、劇団夢の遊眠社の制作を引き継ぎ、解散後はNODA・MAPをプロデュースしたシス・カンパニーの歩みです。俳優から制作者に転身した方なので、俳優の扱い方にブレがありません。特にマネジメントで欠かせない営業努力は圧巻です。制作手法では高萩氏を反面教師にしている部分もありますが、プロデューサーの数だけスタイルがあるということです。『僕と演劇と夢の遊眠社』と続けて読んでください。
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4. 本の中の〈米屋ゼミ〉に通う
米屋尚子著『演劇は仕事になるのか? 演劇の経済的側面とその未来』(彩流社、2011年)
彩流社
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演劇を巡る創造環境を、最新の文化政策や公共ホールの動きと絡めながら紹介し、演劇を「業」として成立させるための道筋を見せてくれる画期的なテキストです。柔らかい語り口はまるで〈米屋ゼミ〉の生徒になったようで、読むだけで制作者の基礎知識も一緒に得ることが出来ます。芸団協という支援組織で客観的な分析を続けてきた著者だから書けた、過去を語るのではなく、未来を変えていくための一冊です。
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5. 小劇場界の現況を把握しておく
徳永京子+藤原ちから著『演劇最強論―反復とパッチワークの漂流者たち―』(飛鳥新社、2013年)
小劇場界をまとめたガイド本として最も新しいものです。「反復」「パッチワーク」という視点でポストゼロ年代のカンパニーを(敢えて)分類し、新しい小劇場界の姿をコンセプチュアルに伝えようとしています。多数のインタビューや論考を交え、注目カンパニーの立ち位置を紹介しています。最新のガイド本は新聞と同じです。制作者の教養として、一通り目を通しておくべきだと思います。
6. スタッフと話せる知識を身に着ける
伊藤弘成著『ザ・スタッフ舞台監督の仕事』(晩成書房、1994年)
制作以外のスタッフワークの基礎知識をイラスト入りでわかりやすく解説したもので、「高校演劇のバイブル」と言われています。1994年発行で掲載内容が古くなっている部分もありますが、後継書が発売されず、現在も古本として人気があります。劇場は死亡事故が発生してもおかしくない場所という自覚を持ち、スタッフと正確な意思疎通が出来るよう、制作者もここに書かれている程度のことは知っておきましょう。
7. 宣伝美術を考える際の〈課題図書〉
世田谷パブリックシアター『SPT08』特集「演劇のグラフィズム――最初に幕を開けるもうひとつの舞台」(工作舎、2012年)
ポスター、チラシを中心としたグラフィック関係者へのインタビューで構成。宣伝美術を巡る思いと課題を浮き彫りにします。単なるデザイン論ではなく、チラシという媒体をどうすればいいかを真剣に考える出発点になるテキストです。宣伝美術に関するワークショップやパネルディスカッションを開催する際は、本書を事前に〈課題図書〉に指定し、読了してからの参加を義務づけるべきでしょう。
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8. こんなにノウハウをもらっていいのか
加藤昌史著『拍手という花束のために』(ロゼッタストーン、2005年)
第1章「キャラメルボックスが20年間続いた秘密」が必読です。カンパニーの経営や観客動員を考えるとき、これほどリアルなデータを提供してくれる本はないでしょう。規模や作風が違っても、演劇集団キャラメルボックスが重ねてきた試行錯誤は、得難い先達の参考事例です。必ず応用出来るところがあります。先入観で目を通していない制作者がいたとしたら、いますぐ手に取ってほしいと思います。
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9. 制作者に贈る〈心のビタミン〉
中川真+フィルムアート社編集部編『これからのアートマネジメント “ソーシャル・シェア”への道』(フィルムアート社、2011年)
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コンパクトな体裁にアーツマネジメントに関する様々な知見が詰め込まれ、まるで情報のシャワーを浴びているようです。関西の事例も豊富です。現場の躍動が伝わり、読者も元気のおすそ分けが受けられます。制作者の〈心のビタミン〉になると思います。制作者にとって最も重要な才能である企画力をきちんと言語化した、中村茜氏(プリコグ)の「企画/制作の進め方」は特筆に値します。
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10. これぞ「制作者のバイブル」
岡田芳郎著『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』(講談社、2008年) ※2010年文庫化
講談社 (2010-09-15)
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集客のために現在の制作者が思いつくアイデアのすべてを、1950年代に山形の映画館で実行した人物がいました。これを読めば、私たちが動員に苦労している話など、甘え以外の何物でもないような気がします。創客とはなにか、サービスとなにかを、真剣に考えさせられます。演劇書ではない波瀾万丈の一代記ですが、自信を持ってオススメします。これぞ必ず読んでおくべき「制作者のバイブル」です。
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(次点)
佐藤郁哉著『現代演劇のフィールドワーク―芸術生産の文化社会学』(東京大学出版会、1999年)
東京大学出版会
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発行時点では類例を見ない「制作者のバイブル」でしたが、今回挙げた10冊で制作者が知っておきべき点はカバーされていると思いますし、1999年の発行で内容が古くなっている部分があります。なるべく現場の制作者自身が書いた本からパワーを受け取ってもらいたいと思い、次点とさせていただきます。古本になっても高値を維持している名著です。第43回日経・経済図書文化賞、第5回AICT演劇評論賞受賞。