この記事は2010年10月に掲載されたものです。
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制作者の役割
はじめに
制作者はその所属先により、カンパニーの制作者、劇場の制作者、制作専門組織(プロダクションやフリーランス)の制作者に大別されます。公演の制作を担うという意味では同じですが、所属する組織に対する関わり方がそれぞれの立場によって異なってきます。ここでは、小劇場演劇で最も多いカンパニーの制作者について述べていきます。
三つの役割
カンパニーの制作者には次の役割があります。
- 公演の制作
- カンパニー全体の運営・戦略決定
- カンパニーに所属する俳優・スタッフのマネジメント
1は公演そのものの制作です。公演準備は、規模が大きい場合は2年前から始まりますので、年2回公演を打つカンパニーの場合、平行して3~4本の公演準備を抱えていることになります。
2はカンパニーそのものの運営・戦略決定です。組織として活動する以上、それを維持する日常業務があるはずです。多くのカンパニーが劇団費を徴収して事務所・稽古場を借りていると思いますが、そうした継続的な会計業務や事務手続きがまず必要になります。そして1と密接に関係しますが、カンパニーの将来像を見つめながら、どの時期にどんな活動するのか、長期計画を立てることが求められます。新しいメンバーを補充するカンパニーの場合、若手の育成も求められる役割の一つです。本公演とは別に、若手公演やワークショップを企画することも必要になるでしょう。最終的には主宰者が判断することですが、そのための検討材料を提供したり、提言をしていくことが重要だと思います。1は制作なら当然の役割ですが、プロデューサーを名乗る場合は2にどれだけ関与するかがポイントになってくるでしょう。
3は所属するメンバーが外部活動する場合のマネジメントです。メンバー個人が外部のプロダクションと契約する場合も少なくありませんが、そうでない場合はカンパニーが対応することになります。たいへん手間暇のかかる業務ですので、カンパニーによっては外部のプロダクションに一括して委託する場合もあります。この場合、カンパニー自身はマネジメント収入を放棄した形になりますので、カンパニーがなにで食べていくのかを決断する重要な選択となります。カンパニーがプロダクション機能を有するか有しないかは、ビジネス観や人生観によって大きく異なってくるでしょう。
公演の制作
公演での制作業務を時系列で並べると、概ね次のとおりになります。
- 公演企画
- スタッフ・キャスト交渉
- 劇場契約
- 予算管理
- 票券管理
- 宣伝計画
- 稽古立ち会い
- 劇場・スタッフ打ち合わせ
- 本番運営
- 精算及び決算
1は公演の立ち上げです。どのような作品なのか。いつ、どこで、どれぐらいの規模でやるのか。そうした基本構想を主宰者・作家・演出家と練り上げていきます。作家・演出家を外部から招く場合は、その交渉から始まります。
2~4は、1とほぼ同時期に進行します。1の内容に従ってスタッフ・キャストを決め、劇場を押さえ、予算規模を決定します。
5~6は、早ければ1年前、遅くても6か月前には動き出します。票券管理はチケットの配券計画、プレイガイド委託、手売りの管理などです。宣伝計画は最も効果的な宣伝方法を検討し、各種印刷物の制作やプレスへの情報提供を行ないます。
7~8は、稽古場に常時立ち会って、演出家・出演者との連絡を担当します。平行して演出家とスタッフとの打ち合わせもセッティングします。専任の演出助手がいる場合は、そちらが担当することもあります。ただし予算や劇場契約に影響する部分ですので、打ち合わせには制作者が必ず参加します。
9は公演期間中のオペレーションです。楽屋の世話、ケータリング、受付、客入れ・客出し、打ち上げなどです。旅公演の場合は移動・宿泊の手配も必要になりますが、この準備は6か月前ぐらいから動き出します。
10は請求書や立て替えられた領収書の精算と、それらがすべて完了したあとの決算です。プレイガイドや助成金の入金を待っての作業になりますので、公演後2~3か月かかることになります。
制作業務をフローチャートにする
制作者の役割と制作業務をまとめたフローチャートを提供します。「制作者の役割」は業務明細と業務同士の関連性を矢印で示したものです。「制作者の役割×業務明細」は業務明細を時間軸に配置したものです。業務明細は制作業務のように時系列どおりに並びませんので、このチャートでは8種類の業務グループに分けています。それぞれがまとまっていますので、役割分担する場合はこの業務グループごとに分けたほうが現実的でしょう。
- 企画進行業務
- 公演会計業務
- 公演準備金調達業務
- 票券管理業務
- 広報宣伝業務
- 編集業務
- 本番運営業務
- ツアー業務
役割分担
制作者が一人しかいない場合は、以上の業務を全部担当しなければなりませんが、それでは負担が大きいので、カンパニー内で分担することが一般的です。しかしながら出演者が制作業務を兼任すると、負担増による演技面への影響や演出家へ接し方などで新たな問題を招く懸念があります。業務の性格とボリュームを見極めながら、カンパニー内で適切な分担を心掛ける必要があるでしょう。
商業演劇の場合、票券管理や広報宣伝は専門の担当者を置いて分業化することも多いようです。小劇場の場合も、票券管理や広報宣伝はある程度独立した業務ですから、外部に委託する場合があります。もちろん、作品内容とかけ離れたチケット販売や宣伝はあり得ませんので、制作チーム内でイメージを統一しておくことが前提条件となります。
いずれにせよ、公演準備が2年前から始まるとすると、年2回公演のカンパニーの場合、制作者は常に3~4本の作品を抱えていることになります。各作品の準備の度合いは異なりますが、常に新しい正念場を迎えることになるわけで、その精神的疲労はたいへんなものがあります。
他のスタッフが自分の専門分野だけを担当するスペシャリストなのに対し、制作者はそれ以外のことをすべて担当するゼネラリストですから、能力のある制作者ほど新しい作業を生み出してしまうという傾向があります。小劇場界で熱心な制作者ほどボロボロになって辞めていくと言われるのもこのためです。制作者の負担を少しでも軽くし、演劇と長く付き合えるような環境を整備するため、このサイトでも真剣に考えていきたいと思います。