『シアターアーツ』「2024AICT会員アンケート」ユニットからカンパニーへの回帰

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●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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3月発行予定のAICT(国際演劇評論家協会)日本センター『シアターアーツ』(晩成書房)69号に掲載される「2024AICT会員アンケート」に参加させていただいた。前回まであった「新人アーティスト」は、「優れていたアーティスト」に一本化された。

2024年は小劇場演劇でユニットからカンパニーへの揺れ戻しを実感した年だった。コロナ禍以降も観客が戻らず、費用高騰で公演の存続自体が危ぶまれる状況で、劇団であることの意義が再確認されてきたと思う。特に首都圏はユニット化の傾向が顕著だったので、私自身は本来の姿に戻ってきたのではないかと感じる。

作品では、ウンゲツィーファ『8hのメビウス』が突き抜けていたと思う。10周年記念公演となる新作は、まさに初期への原点回帰となる内容で、元々の魅力である狭さを逆手に取った多重空間演出、ヒリヒリした人間模様を描く会話劇がさらに洗練され、これまでの観客を選ぶ作風が、個性を損なわないままウェルメイドな世界になった。まさにアーティストが殻を破る瞬間を目撃した心境。スタジオ空洞だからこその魅力もあったが、さらに多くの観客に目撃してほしかった。この作品とコンプソンズ『岸辺のベストアルバム!!』で強烈な印象を残した近藤強氏は、「優れていたアーティスト」にも入れた。

あやめ十八番『雑種 小夜の月』は、いつものエンタメを描く熱量を等身大の家族劇に向けたシリーズ。作家の生家である参道の団子屋をモチーフに、両親と地域の過去を描いた内容が愛おしい。東京にこにこちゃん『ネバーエンディング・コミックス』は、読者が先に死ぬかも知れない超長期連載マンガにどう向き合うかを描く。テーマ自体が人生の哀愁を感じる発見で、ギャグとシリアスのバランスが絶妙。ハラスメントの現場を切り込むことで観客からも議論が起きたモダンスイマーズ『雨とベンツと国道と私』、同年代のリアルを追求したかるがも団地『三ノ輪の三姉妹』が続いた。次点は木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』。

■優れていた作品(5本、順位あり)
(1)ウンゲツィーファ『8hのメビウス』スタジオ空洞
(2)あやめ十八番『雑種 小夜の月』座・高円寺1
(3)東京にこにこちゃん『ネバーエンディング・コミックス』駅前劇場
(4)モダンスイマーズ『雨とベンツと国道と私』東京芸術劇場シアターイースト
(5)かるがも団地『三ノ輪の三姉妹』三鷹市芸術文化センター星のホール

■優れていたアーティスト(3名まで)
○天野天街(劇作家・演出家/少年王者舘)
○ニシサトシ(西悟志)(演出家/TEP+steps)
○近藤強(俳優/青年団)

■年間回顧(400字程度)
 小劇場演劇で主流になっていたユニットから、カンパニーへの揺り戻しが起こっているようで興味深い。コロナ禍を経て、改めて集団の意義が見直されているのだろうか。一方で、公演費用の高騰で主宰の負荷が高まり、若手を中心に集団を維持する困難さが聞こえる。劇場の相次ぐ閉館、チケット代の値上げは観客の観劇本数を確実に減らすことになり、日本独自の小劇場演劇を裾野としたインキュベーション機能が失われるかも知れない。演劇界の集合知が、若手にロールモデルを示せることを願う。
 創作には厳しい状況で、若手が「これが最後の作品になってもよい」との思いで上演する作品群の強度に心を動かされた。ベストに挙げた作品以外にも多数あり、その意味で二〇二四年は収穫の年だった。それら団体の多くにスポットを当ててきた三鷹市芸術文化センターの森元隆樹氏が読売演劇大賞選考委員に就任したことは、つくり手だけでなく劇場関係者の励みにもなるだろう。

■年間の観劇本数
約70本