この記事は2015年5月に掲載されたものです。
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小劇場系カンパニーの最新国内ツアー公演状況分析、リストもExcelでダウンロード可――都市部以外や新劇場の台頭目立つ
旅公演を行なうカンパニーにとって、地域の劇場がどのようなツアーを受け入れているかは重要な情報だ。公演状況を知ることは、ツアー先選定や買取公演交渉などの参考になるだろう。
fringeでは最新の動向を分析するため、2013年から現時点までに判明している主な小劇場系カンパニーの国内ツアー公演先(首都圏及び本拠地での公演を除く)をリスト化し、公演数と多様性でランキングを行なった。その結果とリストを掲載する。リストはExcelで提供するので、各自でダウンロードして自由に分析してほしい。
(抽出条件)
- 2013年以降に国内ツアー公演を実施した全国の小劇場系カンパニー及び制作会社から、助成金採択状況・マスコミへの露出等を参考に、公式サイトまたは「CoRich舞台芸術!」で上演記録が確認可能な69団体(個人含む)を選んだ。団体名の記載は、助成対象団体名や制作実態などから総合的に判断した。団体は本拠地・設立年数にかかわらず、幅広く選ぶことを心掛けた。これにパルコ、世田谷パブリックシアター、東京芸術劇場、SPAC(静岡県舞台芸術センター)、可児市文化創造センターを加え、合計74団体とした。
- この74団体が制作主体となり、2013年以降に実施または実施予定(2015年5月6日現在)の国内ツアー公演で、公演先の道府県名が明らかな622公演を対象とした。ツアー状況分析が目的のため、本拠地での公演は対象外とする。首都圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)が本拠地の場合は、首都圏での公演は含めない。京阪神(京都府、大阪府、兵庫県)が本拠地の場合は、京阪神での公演は含めない。中京圏(岐阜県、愛知県、三重県)が本拠地の場合は、中京圏での公演は含めない。
(例)京都市が本拠地のカンパニーが京阪神と首都圏のみで公演している場合は、対象の69団体に含めない。- 本拠地を複数持つ団体は、対象外のエリアも複数とする。2013年以降に本拠地を変更した場合は、それを反映した。
(例)このしたやみは京都市が本拠地だが、津市の劇団Hi!Position!!との合同公演「このしたPosition!!」は、
京阪神と中京圏を本拠地とした。
劇団子供鉅人は2014年夏に本拠地を大阪市から東京都へ移したため、
それ以前を京阪神、それ以降を首都圏とした。- 新劇や商業演劇に該当する公演も含まれるが、小劇場系のスタッフ・キャストを起用することも多く、現代演劇のツアー状況分析のために必要なデータとして加えた。同様に若手カンパニーのギャラリー公演やカフェ公演も対象とした。
- 同一施設が複数の劇場・スタジオを持つ場合は名称を揃えた。この場合、同一敷地内とは限らない。
(例)津あけぼの座、津あけぼの座スクエア ⇒津あけぼの座
in→dependent theatre 1st、in→dependent theatre 2nd ⇒in→dependent theatre
梅田芸術劇場メインホール、シアター・ドラマシティ ⇒梅田芸術劇場- 次の場合は対象外とした。
- 演劇以外の舞踊公演、音楽主体のコンサートなど。
- 短編演劇祭やショーケースイベント等への参加。ただし、C.T.T.試演会はトライアウト公演として含める。
- 公演に伴う付帯イベント、事前のプロモーションイベント。ただし、単独のプレビュー公演は含める。
- 同一ツアー内での複数作品上演。ただし、別会場で公演する場合は含める。
- 市民劇やワークショップ等の成果発表。ただし、カンパニー内の若手公演は含める。
- 一般発売がないクローズド公演。
- 巡演自体が困難な企画(プライベート演劇祭、カウントダウンイベント、その他特殊イベントなど)。
まず、622公演を道府県別と会場別に公演数でランキングした上位20位の結果である。
道府県 | 公演数 | 会場 | 公演数 | ||
1 | 大阪府 | 109 | 1 | りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)(新潟県) | 33 |
2 | 愛知県 | 67 | 2 | 北九州芸術劇場(福岡県) | 28 |
3 | 福岡県 | 65 | 3 | 森ノ宮ピロティホール(大阪府) | 17 |
4 | 兵庫県 | 42 | 4 | 兵庫県立芸術文化センター(兵庫県) | 16 |
5 | 新潟県 | 40 | 5 | 穂の国とよはし芸術劇場PLAT(愛知県) | 15 |
6 | 北海道 | 36 | 三重県文化会館(三重県) | 15 | |
7 | 宮城県 | 33 | 7 | シアターBRAVA!(大阪府) | 13 |
8 | 三重県 | 25 | 梅田芸術劇場(大阪府) | 13 | |
9 | 香川県 | 24 | AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)(兵庫県) | 13 | |
10 | 京都府 | 16 | 10 | ABCホール(大阪府) | 12 |
11 | 石川県 | 15 | 11 | 愛知県芸術劇場(愛知県) | 11 |
12 | 広島県 | 13 | 12 | アステールプラザ(広島県) | 10 |
13 | 長野県 | 12 | 13 | 生活支援型文化施設コンカリーニョ(北海道) | 9 |
14 | 岡山県 | 11 | 西鉄ホール(福岡県) | 9 | |
15 | 福島県 | 10 | 15 | 名鉄ホール(愛知県) | 8 |
茨城県 | 10 | 津あけぼの座(三重県) | 8 | ||
17 | 滋賀県 | 9 | HEP HALL(大阪府) | 8 | |
18 | 岐阜県 | 8 | キャナルシティ劇場(福岡県) | 8 | |
19 | 愛媛県 | 7 | 19 | 扇谷記念スタジオ・シアターZOO(北海道) | 7 |
長崎県 | 7 | まつもと市民芸術館(長野県) | 7 | ||
宮崎県 | 7 | サンケイホールブリーゼ(大阪府) | 7 |
道府県別では大阪府が109公演で1位となった。5位の新潟県は、会場別で1位になったりゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)の公演数が要因である。8位に三重県、9位に香川県がランクインしたが、前者は三重県文化会館と津あけぼの座、後者はサンポートホール高松、四国学院大学ノトススタジオ、小豆島でのままごと滞在制作が要因である。
会場別では前述のとおり、りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)が33公演で1位となった。多彩な施設を持ち、首都圏からの旅公演も多い。2位はツアー受け入れに積極的な北九州芸術劇場が入った。5位の穂の国とよはし芸術劇場PLATは13年オープンだが、若手小劇場系から商業演劇まで積極的にツアーを受け入れており、いま最も勢いのある公共ホールの一つと言える。愛知県ではこれに加え、愛知県芸術劇場や長久手市文化の家など多数の公共ホールで小劇場系カンパニーの上演が行なわれており、民間劇場も加わって道府県別2位となった。
民間の小劇場では、13位に生活支援型文化施設コンカリーニョ、15位に津あけぼの座とHEP HALL、19位に扇谷記念スタジオ・シアターZOOがランクインした。他の複合施設に並んで入ること自体が賞賛に値するだろう。
次に、公演数ではなく公演の多様性(どれだけの種類の団体が上演したか)でランキングした上位20位の結果である。
道府県 | 団体数 | 会場 | 団体数 | ||
1 | 大阪府 | 31 | 1 | りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)(新潟県) | 17 |
福岡県 | 31 | 北九州芸術劇場(福岡県) | 17 | ||
3 | 愛知県 | 22 | 3 | 三重県文化会館(三重県) | 12 |
4 | 新潟県 | 20 | 4 | 穂の国とよはし芸術劇場PLAT(愛知県) | 11 |
5 | 北海道 | 19 | 5 | AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)(兵庫県) | 8 |
6 | 宮城県 | 17 | 西鉄ホール(福岡県) | 8 | |
7 | 三重県 | 15 | 7 | 生活支援型文化施設コンカリーニョ(北海道) | 7 |
8 | 兵庫県 | 14 | シアターBRAVA!(大阪府) | 7 | |
9 | 京都府 | 13 | 9 | まつもと市民芸術館(長野県) | 6 |
10 | 岡山県 | 9 | 愛知県芸術劇場(愛知県) | 6 | |
11 | 石川県 | 8 | 11 | せんだい演劇工房10-BOX(宮城県) | 5 |
長野県 | 8 | 大垣市スイトピアセンター(岐阜県) | 5 | ||
広島県 | 8 | 長久手市文化の家(愛知県) | 5 | ||
香川県 | 8 | 津あけぼの座(三重県) | 5 | ||
15 | 長崎県 | 7 | ABCホール(大阪府) | 5 | |
宮崎県 | 7 | in→dependent theatre(大阪府) | 5 | ||
17 | 茨城県 | 6 | 梅田芸術劇場(大阪府) | 5 | |
岐阜県 | 6 | アステールプラザ(広島県) | 5 | ||
滋賀県 | 6 | 四国学院大学ノトススタジオ(香川県) | 5 | ||
愛媛県 | 6 | シアターねこ(愛媛県) | 5 |
道府県別では、大阪府と並んで福岡県が31団体で1位となった。公演数では愛知県と僅差の3位だったが、多様性では愛知県を大きく離している。この結果から、同一団体が繰り返しツアー先に選ぶのが愛知県、様々な団体がチャレンジ公演するのが福岡県という傾向が見える。筆者の経験とも合致するデータとなった。三重県は多様性でも7位にランクインした。10位の岡山県は維新派、劇団唐組が公演地に選ぶなど、野外公演も含めた多様性の結果である。
会場別では、1位のりゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)、2位の北九州芸術劇場は公演数と同じだが、3位の三重県文化会館、4位の穂の国とよはし芸術劇場PLATは順位を上げた。会場が固定化されがちな商業演劇に頼らず、若手カンパニーを積極的に招聘しているためだろう。5位には小劇場文化を支えてきたAI・HALL(伊丹市立演劇ホール)と西鉄ホールがランクインした。
民間の小劇場では、7位に生活支援型文化施設コンカリーニョ、11位に津あけぼの座、in→dependent theatre、四国学院大学ノトススタジオ、シアターねこが同数で入った。シアターねこは、対象期間中にチェルフィッチュ、250km圏内、青年団、このしたやみ、燐光群が公演または公演予定だ。
622公演のリストは下記からダウンロード出来るので、様々な観点で分析してもらいたい。ギャラリー公演やカフェ公演で使用されている会場は、近隣の制作者でも知らないところがあるかも知れない。公演可能な会場リストとしても参考になるだろう。
- 小劇場系カンパニーの国内ツアー状況(2013年~2015年5月時点判明分)(Excel:53KB・ZIP形式)
データ項目は都道府県コード、道府県、会場、制作主体、上演年、作品。首都圏以外の制作主体は背景色を水色にしている。