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公演日程ほどセンスの出るものはない

公演日程を左右する要素には様々なものがあります。仕込み・リハーサル・バラシをどの程度取るかに始まり、曜日や祝日、季節や年中行事との関係、劇場立地や上演・退出時間を考慮した開演時間を決めます。公共ホールの場合は休館日が設定されている場合もありますし、公演期間が長くなれば休演日も必要でしょう。最近はポストパフォーマンストークやワークショップといった付帯イベントを設ける公演も増えましたが、公演運営に負担をかけず、集客に貢献するものでなければなりません。

週末数日間だけの公演が多い若手カンパニーにとって、公演日程は選択の余地がないものに映るかも知れません。しかし、たとえ数日間の公演であっても、注目を集める日程の組み方や集客のテクニックは存在します。現状は、多くの若手カンパニーが週末数日間の公演日程では工夫を凝らす努力をしていません。だからこそ、逆にちょっとした工夫でも目立つ可能性があります。多くの選択肢があることを自覚して、制作者一人一人が発想の幅を広げてください。

仕込み・バラシの確認

公演日程を決める場合、最初に確認すべきことは仕込み日をどれだけとるか、バラシの搬出時間が決まっているかです。小劇場系の場合、仕込み後にリハーサル日を設ける余裕があるところはごく少数ですので、現実には1日または2日の仕込み日ということになるでしょう。

中劇場クラスでも2日仕込みが取れれば問題ありませんが、逆に1日となると物理的な限界があります。小劇場でも凝った装置や、現場作業が必要な仕掛けがあると、1日では難しくなります。公演日程を決める段階で美術プランまで配慮するのは困難ですが、あらゆる事態を想定して、舞台監督と打ち合わせましょう。仕込みが押して結果的にゲネが最後まで通せなくなり、初日がゲネになってしまう公演が後を絶たないのですから。

バラシの場合、通常の退出時間とは別に、搬出時間が決まっている劇場があります。テナントビルでは、入居している店舗の営業終了まで搬出禁止の場合がありますので、千秋楽をマチネだけして早めにバラしても、深夜まで搬出出来ないことがあります。逆に住宅地の劇場では、近隣に騒音を出さないため、搬出の門限が決められているところがあります。劇場側とも相談して、千秋楽を何時開演にすればよいか、効率のよい時間の使い方を考えましょう。

まずは日曜千秋楽をやめよう

若手カンパニーが公演をする場合、多くが週末数日間で、公演は金土日に集中しています。日曜に千秋楽を迎える場合がほとんどで、月曜が祝日でもない限り、千秋楽が月曜にこぼれる日程は稀だと思います。逆に公演経験を重ねたカンパニーだと、千秋楽が週の前半になるケースがめずらしくありません。これは公演期間が長いために曜日にこだわらないこともありますが、経験的に月曜火曜に動員があることを知っていることも影響しています。そのため日曜千秋楽よりも、逆に月曜火曜にこぼれるほうがありがたいくらいに考えているのです。

月曜火曜に動員がある要因としては、次のことが考えられます。

  1. 週末だけの公演の場合、旅行などをしている観客、サービス業などで土日勤務の観客には観劇機会の完全な喪失となる。週末明けの公演を用意することで、物理的に観劇不可能な観客に機会を提供出来る。
  2. 週末に観劇した観客の評判がクチコミで伝播する時間を確保出来る。週末だけでは、たとえどんなに素晴らしい作品でも、クチコミが広まったときには公演終了になっている。
  3. 一般的に平日前の休日夜は外出を控えがちで、日曜ソワレは動員が伸びない場合が多い。月曜火曜まで公演があると、そうした出不精の層もつかむことが可能。わざわざ休日に自宅から外出することが億劫でも、平日の仕事帰りならという層をとらえることが出来る。

千秋楽を先に延ばすことは劇場費の増加につながりますが、東京の人気劇場を除くと、全国ほとんどの劇場は週の前半が空いているのが実態と思われます。ならば交渉次第で、月曜を安く借りることが可能かも知れません。火曜も空いているのなら、月曜千秋楽でバラシは火曜にやらせてもらう手もあるでしょう。

若手カンパニーの場合、劇団員は別に仕事を持っている場合が多いと思いますので、週末だけで公演が完結するほうが兼ね合いもつけやすいでしょう。しかし、それは演じる側の都合であって、観る側にすれば様々な曜日があったほうが行きやすいに決まっています。公演日程を月曜火曜にこぼすことは、そのカンパニーが幅広い客層を求め、本気で演劇活動をしていることの決意表明になります。日曜千秋楽をやめること、それが差別化の第一歩だと思います。

千秋楽は月曜にこぼれさせよう

日曜祝日ソワレは追加公演に

日曜ソワレの動員が薄いことは前述しました。同様の理由で、祝日ソワレも集客に苦戦しがちです。ならば、わざわざ売れにくい回を最初から設定することはありません。前売開始時点では日曜ソワレを設定せず、他の回がある程度売れてきてから「追加公演決定」という形で追加する方法があります。

追加公演は人気カンパニーだけのことで、自分たちには縁がないと決めつけていませんか。そんなことはありません。最初から少なめのステージ数にしておき、観客に飢餓感を与えておいてからステージを追加するのも立派な戦術です。「追加公演決定」自体は事実ですから、堂々とアピールすればよいのです。観客は追加公演=人気があると思い込みがちですので、追加公演すること自体がカンパニーの存在を印象づけることになります。

同様の戦術に、プレイガイドへの配券数を少なくしておいて、それが完売したら「完売につき追加席決定」と大々的に告知して追券する方法があります。前売券が売れないのは、その公演のチケットがいつでも買える、売り切れることがない、当日券でも充分入れると思われているからです。この観客の意識を変えない限り、前売券中心の売上に移行することは困難です。全席指定や価格差で前売券そのものに価値を持たせると同時に、飢餓感を煽るために公演日程やステージ数をうまくコントロールしてください。

ステージは商品です。商品が売れずに山積みになっていたら、誰も買う気が起きないでしょう。在庫は倉庫にしまっておいて、店頭にはちょうどいい数を並べておく。演劇のステージも全く同じなのです。

日曜祝日ソワレは追加公演にしよう

若手カンパニーの犯しやすい失敗は、千秋楽のあとに追加公演を入れることです。動員を読みきれずに、仕方なく追加公演となるようですが、これは観客心理を考えると逆効果です。観客にとって千秋楽は特別な意味を持っており、そのために意識して千秋楽のチケットを取っているのですから、それを変更することは背任行為になります。観客が入りきれずに追加公演することを勲章のように考えている制作者もいると思いますが、それは単に動員をコントロール出来なかっただけです。

(この項続く)

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