この記事は2001年3月に掲載されたものです。
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公演企画書の書き方・送り方
はじめに
公演企画書には2種類のタイプがあります。一つは公演概要がすべて決まった段階で、宣伝用にプレス等に配布するもの。もう一つは公演の準備段階で、出演者やスポンサーを探す際に用いるものです。ここでは前者について述べます。
公演企画書の必要性
公演をするのに企画書が絶対必要かと問われると、絶対ではないかも知れません。ただ世の中は紙社会ですから、プレス相手に宣伝をする場合に、公演データ及びなんらかの内容紹介を紙で配布することは必要になります。ならば体裁を整え、カンパニーの資料としても使ってもらえる企画書という形にしたほうがベターだと思います。
プレスからの資料請求で最も多いのは「企画書をFAXで、写真を郵送で」というパターンです。また、ライターや編集者に取材をお願いする場合も、先方はまず企画書で概要をつかみます。その意味で企画書は宣伝の必須ツールと言えるでしょう。
企画書はプレスに配布するだけが用途ではありません。スタッフや出演者に配布することで、関係者全員が作品の詳細をより深く理解するのに有効です。特に作家・演出家が原稿やコメントを寄せている場合は、全員が目を通すべきでしょう。
いつまでに用意すべきか
一般的なチケットの前売開始時期は公演2か月前です。情報誌等で前売開始を告知してもらいたいと思えば、最低その1か月前には情報提供する必要があります。逆算すると公演3か月前には用意すべきでしょう。もちろん早いに越したことはありません。未決定事項があり、どうしても企画書が出来ない場合は、まず情報誌に対してプレスリリースのような形でデータだけを提供し、企画書は完成しだい発送すればいいでしょう。
体裁
判型
A4縦が多いようです。現在、企業の企画書はPowerPoint等でA4横にするのが主流ですので、横にしてもいいかも知れません。B判はほとんど使われませんので、避けたほうがいいでしょう。
ページ数
あまり厚いのは好まれません。過去の上演記録等はコンパクトにまとめ、多くても10ページを超えないようにすべきでしょう。
カラーでないと不利か
カラープリント/コピーもずいぶん安価になりましたが、企画書は部数が必要ですので、モノクロで充分でしょう。必然性なしにフルカラーにすると、予算の余っているカンパニーと思われますから、逆にマイナスになるのではないでしょうか。もしカラーにするなら、作品のために描き下ろしたイラストをカラーで見せたい、客席配置が特殊で色分けされた図表が必要などの必然性が欲しいと思います。
構成
一例として、次のようなパターンが考えられます。
1ページ | 表紙 | タイトル、作・演出、連絡先等 |
2ページ | イントロダクション | 企画意図等 |
3ページ | データ | 日時、会場、料金、チケット販売方法、問い合わせ先等 |
4ページ | クレジット | スタッフ、キャスト、協力等 |
5ページ | 物語 | あらすじ、みどころ等 |
6ページ | プロフィール | カンパニーの紹介、作・演出の紹介等 |
もちろんこれは決まりではなく、デザインも含めてカンパニーの個性を出すべきものです。しかしながら構成要素としては、最低限この程度のものが必要だと思います。
データ項目
- 開演日時
- 開場時間
- 会場名
- 会場電話番号
- 会場への交通(あまり知られていない会場の場合は地図も掲載)
- 前売料金
- 当日料金
- 扱いプレイガイド
- プレイガイド電話番号
- 前売開始日
- 問い合わせ先
複数会場で公演する場合は、会場分だけ記述が必要です。
物語をどこまで書くか
新作の場合、企画書にあらすじをどこまで書くか、どこまで書けるかが重要な問題になります。演劇の場合、戯曲執筆が遅れて企画書段階では台本は1ページもないということがめずらしくないでしょう。しかし、作家や出演者のネームバリューだけで記事になるような有名カンパニーならともかく、小劇場のカンパニーで物語が全く不明では、プレスも記事の書きようがありません。制作者が作家から物語の構想を取材したり、作家自身に作品世界を予告させるような文章を書いてもらうなど、期待感を抱かせる努力が必要です。
問題なのは物語の全容が見えている場合です。それを事前にどこまで明かすかは、作家・演出家との調整が必要でしょう。人によっては「先入観を持たせたくないので、なにも公表したくない」という考えもあるでしょう。しかし私の場合、演劇を選択する要素というのは他ジャンルの表現に比べて非常に少ないと感じていますので、いわゆる〈ネタバレ〉にならない限り、物語は積極的に予告すべきだと思います。
例えば映画と比較してみてください。プレス試写会をして、作品のすべてを知ってもらった上で記事を書いてもらっています。チラシの裏面にも、相当詳しい物語や解説を載せています。こうした内容の事前公開は、作品の魅力を減らすどころか、逆に動員力を上げているはずです。プレスもプロですから、伏せるべきところは伏せるはずです。どうしても心配なら、企画書に「ここから先は本番時まで秘密でお願いいたします」と書き添えればいいことです。
多くの観客に足を運んでもらうには、出来るだけ情報を提供することです。情報がないと観客は選択すら出来ません。小劇場演劇では、内容に関する記載の全くないチラシも散見しますが、これでどうやって新しい観客を開拓出来るのでしょうか。CDのジャケ買いと同じ感覚を狙っているのかも知れませんが、レコード会社はそれ以外のプロモーションを多数しています。メディアでの露出が少ない演劇の場合、チラシや企画書に求められる意味が異なっているのではないでしょうか。
作成上のテクニック
なによりもまず、データを間違えないことです。一人だけで書いている場合、思い込みでどうしても間違いに気づかない場合があります。自分では完璧だと思っても、一晩寝かせて翌日再チェックしたり、別の人に見てもらうことが大切です。それで企画書の完成が多少遅れても、間違いを防げると思えば価値があります。
開演日時がイレギュラーな場合は、企画書の記載が正しくても、受け取ったプレスが誤植をしてしまう危険性があります。ゲラ校正をさせてくれないプレスがほとんどですので、カンパニーは媒体が発売されるまで間違いがわかりません。プレスが間違える恐れのある個所は、フォントを大きくしたり、注釈を付けるなどの配慮が必要です。開演・開場時間は、24時間制より12時間制で書いたほうが安全だと思います。プレスも人間ですので、ミスがない保証はどこにもありません。念には念を入れるぐらいでちょうどいいのです。
一般的な傾向として、イントロダクションや物語にキャッチコピーやキーワードとなる語句が書かれていると、プレスにとっても記事にしやすいものです。作家や演出家と打ち合わせ、それらの情報を盛り込むとよいでしょう。ただし、親切心が高じてそのまま記事に転用出来るような文章を用意するのは逆効果です。プレスにもプライドがありますので、カンパニーが用意したお仕着せの文章は決して使いません。あくまで記事を書いてもらうための参考資料、背景説明としての文章になるよう心掛けましょう。
公演企画書は文字中心になりがちですが、レイアウト次第でずいぶん違った印象になります。必要に応じて写真や図表を用いると、視覚に訴えることも出来ます。プレスは多数の公演企画書を受け取っていますので、その中で埋没しない工夫を凝らしましょう。
発送方法
企画書だけをポンと送り付けるのは、失礼だと思われます。面倒でも送付状を別紙で用意し、同封するように心掛けましょう。最初から宣伝写真を送る場合はここに同封し、別途請求していただく場合はその旨を送付状に書いておきましょう。過去の公演ビデオや台本など、請求に応じて提供出来る資料がある場合も明記しておくとよいでしょう。
宣伝写真の裏面には、カンパニー、タイトル、作・演出など必要最低限のデータをラベル貼付しておきましょう。写真だけになってしまうと、どの公演のものかプレスでわからなくなってしまうからです。また、宣伝写真のフォトグラファーが著作権表示を希望する場合は、フォトグラファーの氏名を必ず入れておきましょう。ローマ字で掲載する雑誌もありますので、下記のようにしておくとよいでしょう。
撮影/山田太郎 (C)2001 TARO YAMADA
企画書は折って小さい封筒に入れるのではなく、郵送料が高くなっても折らないで送るべきです。多数の郵便物を受け取るプレスでは、小さい封筒は埋没しますし、折り目が付いた企画書は扱いにくいものです。封筒には「企画書在中」「写真在中」と朱書きするなどして、企画書であることを強くアピールしましょう。最近DMで多くなった透明の封筒も効果的だと思います。
プレス1社に複数の担当者がいる場合、郵送料がかかっても各個人ごとに発送すべきでしょう。プレスは不在が多く、個人活動中心ですので、回覧や情報の共有は期待しないほうが無難です。必要な情報は直接伝わるようにしましょう。
(2014年6月29日追加)
fringe watch「DMを透明封筒で送る場合、料金別納/後納表示・ゆうメール表示・宛名は封筒の内側から透けて見えればよい」も読んでください。