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申請する側の視点ではなく、選ぶ側の視点になって書く

これは助成申請に限ったことではありません。人が誰かに選ばれるとき、合否を決めるのは選ぶ側の視点に立てるかどうかということです。申請する側には唯一無二の申請書であっても、選ぶ側には大量に届く申請書の1通に過ぎません。つまり、申請する側の視点のままでは、いつまで経っても選ぶ側の心理は理解出来ないということです。制作者自身が選ぶ側の気持ちになって、「こういう申請なら採択したい」と思える申請書を書けばいいのです。これがすべてです。

選ぶ側の気持ちが想像出来ない人は、選ぶ側がなにを考えているかを知りましょう。ネットで読める貴重な資料として、ネビュラエクストラサポート(Next)が2013年にあうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)と共催したセミナーのリポートが公表されています。

舞台制作PLUS+/Next舞台制作塾オープンセミナーvol.3「舞台芸術にとって助成金とは何か?~助成金の目的から申請書の書き方まで~」レポート

久野敦子氏(公益財団法人セゾン文化財団プログラムディレクター)、ヲザキ浩実氏(あうるすぽっと制作統括チーフプロデューサー)を招き、助成制度の説明、質疑応答などを実施していますが、注目は第2部「助成金申請書記入レクチャー」です。的確なアドバイスがあります。

ヲザキさん:
まず「趣旨・目的」のところでチラシの宣伝文句をそのままコピペしている方が多かったりします。これは違うんです。お客様に足を運んでもらうための魅惑的な宣伝文と、我々が何をしたいのかを明確に示す文、というのは全く文章としての性格が違うので、そこは頑張って制作者は書き分けて下さい。次に、例えば「新進気鋭の」という修飾語などは、申請書で使うのに適していない表現だったりします。「斬新な」も同様で、基準がはっきりしない非常にきらびやかな表現は、こういった申請書では望ましくないということがあります。

要は客観的に書けということです。主観的な表現は自己満足と同じで逆効果でしょう。選ぶ側は大量の申請書に目を通すので、主観的な表現ばかり並んでいると「客観的な文章が書けない団体」として、それだけで落とす理由になります。ここで重要なのが、選ぶ側にも説明責任があるということです。理由もなく落とすわけではなく、落とす場合は第三者に理由を説明出来るかどうかを考えながら落としているはずです。その際、「客観的な文章が書けない」は正当な理由になってしまうということです。

客観的に書くのは決して難しくありません。主観的な表現を具体的な事実に改めればいいのです。

(例1)
新進気鋭の ⇒ 設立2年目で動員数800名を突破した
斬新な   ⇒ 交渉を重ねて大劇場の舞台上に客席を特設し

(例2)
新進気鋭の ⇒ 第X回××戯曲賞最終候補にノミネートされた
斬新な   ⇒ これまで演劇の題材になったことがない××業界を描いた

本当に「新進気鋭」「斬新」なら、具体的な事実をそのまま書けば伝わります。逆に、第三者が納得する事実を書けないなら、それは客観的に見て「新進気鋭」「斬新」ではないのです。

選考では、段階的に書類審査で数を絞っていくのが一般的です。選ばれる申請書を書くことより、落とされない申請書を書くテクニックが身に着けば、最終段階まで残る確率が高まるでしょう。落とされない=落とすべき書類上の瑕疵をつくらないことが、その第一歩です。選ぶ側の視点に立って、「この申請書を落としたら、理由を第三者に説明出来ない」と思えるような申請書を作成するのです。

例えば、芸術文化振興基金「舞台芸術等の創造普及活動」助成金交付要望書には「本活動の企画意図」という欄がありますが、あらすじや団体概要については別途専用の欄に記入するよう説明があります。にもかかわらず「本活動の企画意図」にあらすじを書いてしまうと、それだけで落とす理由になります。落とす口実を選ぶ側に与えないことを心掛けてください。

神は細部に宿る

申請書の記入内容一つで、差はどんどんついていきます。

ヲザキさん:
「実施時期・実施場所・実施回数」はしっかり書いて下さい。なかなか一年後とか一年以上後の計画を立てるのは難しいと思いますが、ここが詳細に書かれているか否かというのは、上演の実現性という観点で重要です。
ここがぼんやりしていると、公演計画が大幅に変わる可能性があるし、公演をやらない可能性・リスクが高まるので、どれだけこの段階で計画が綿密に練られて準備されているか示す必要があるんですね。なので、是非、頑張って申請時期までに公演計画をがっちり練っていただきたい。

選ぶ側の視点に立つと、公演計画が定まっていないところは助成出来ないということです。場所と回数は予算規模を左右するものなので、そもそもこれらが固まっていないと予算案が策定出来ません。助成申請の目的の一つに旅公演があると思いますが、その場合はツアー詳細が明記されていないと、申請理由自体が不明瞭なものになります。時期的に作品内容の詳細が決まっていなくても、興行としての公演計画は制作者として申請段階で決められるようにしましょう。

未来のことを書くのは困難でも、過去のことなら詳細に書けるはずです。申請書にある沿革、公演実績、代表者略歴などは差別化されやすい項目です。選ぶ側の視点に立って、どんな情報を書けば落としにくいと思うか、他カンパニーと差別化されて映るのかを考えてください。

例えば、公演実績が自由記入欄だったとしたら、どう書けば選ぶ側の琴線に触れることが出来るでしょう。

(例1)
第X回公演『××××××××』(作・演出/××××)
20XX年X月X日~X月X日 ××市民会館小ホール

第X回公演『××××××××』(作・演出/××××)
20XX年X月X日~X月X日 ××××劇場

第X回公演『××××××××』(作・演出/××××)
20XX年X月X日~X月X日 ××××シアター

(例2)
第X回公演『××××××××』(作・演出/××××)
20XX年X月X日~X月X日(Xステージ) ××市民会館小ホール
動員数:XXX名

第X回公演『××××××××』(作・演出/××××)
20XX年X月X日~X月X日(Xステージ) ××××劇場
動員数:XXX名

第X回公演『××××××××』(作・演出/××××)
20XX年X月X日~X月X日(Xステージ) ××××シアター
動員数:XXX名

(例3)
第X回公演『××××××××』(作・演出/××××)
20XX年X月X日~X月X日(Xステージ) ××市民会館小ホール(公共ホールでの主催公演)
動員数:XXX名(うち有料動員:XXX名、有料動員率:XX.X%)

第X回公演『××××××××』(作・演出/××××)
20XX年X月X日~X月X日(Xステージ) ××××劇場(民間劇場での依頼公演、主催:××××株式会社)
動員数:XXX名(うち有料動員:XXX名、有料動員率:XX.X%)

第X回公演『××××××××』(作・演出/××××)
20XX年X月X日~X月X日(Xステージ) ××××シアター(民間劇場での主催公演)
動員数:XXX名(うち有料動員:XXX名、有料動員率:XX.X%)

例3になるほど赤字で加筆した情報が加わり、より詳細になります。申請書のフォーマットによって記入内容が制限されることもありますが、自由記入欄なら例3になるほど説得力があります。選ぶ側の視点に立てば一目瞭然でしょう。

申請書を手書きするのも避けましょう。どんなに字が美しくても、パソコンが使えない団体と思われてしまいます。申請用紙がWordやExcelで提供されている場合は当然それを使えばいいですし、PDFで提供されている場合もフリーソフトで簡単に記入出来ます。

PDFに文字を記入する場合は「PDF-XChange Viewer」がオススメです。有料のPRO版もありますが、PDFへの記入・保存・印刷だけならフリー版で全く問題ありません。「タイプライターツール」という機能があり、PDF上のどこにでも文字が記入出来ます。

申請書で差別化されやすい項目を挙げておきます。

  • 制作者を他の劇団員が兼ねている場合(専任制作者がいない場合)
  • 団体の連絡先が固定電話ではなく携帯電話になっている場合
  • 団体のFAX番号がない場合
  • 団体の公式サイトが独自ドメインでない場合
  • 申請書全体で表記が乱れている場合(文体の不統一、全角半角の統一、表記等のブレ)
  • 申請書全体で文字フォントや大きさが乱れている場合(勝手にフォントを変えている場合も)
  • スタッフ・キャストが個人名で明記されていない場合(未定や劇団員一同などと書かれている場合)
  • 沿革、公演実績、代表者略歴などで途中の年代が空きすぎている場合
  • 記入欄を使い切らず、余白が目立つ場合
  • 予算書を他の助成申請と使い回している場合
  • 助成対象経費の費目が正確でない場合(その助成団体の規定と異なる場合)
  • 金額の積算根拠が雑な場合
  • 詳細が未定なのに金額だけ積算されている場合

予算書の使い回しはフォーマットを見ればわかります。

久野さん:
あと、注意点は、民間の財団の助成申請するときに、文化庁や芸文のフォーマットで作成した予算書を添付してくる人がいるんですよ。
みなさんすごい力を込めて作っていらっしゃると思うんですけれど、あまりに力を入れ過ぎて万能だと思っちゃうのかな?
これはやめた方がいいですね。一気に熱が冷めてしまう。助成申請する団体ごとに、きちっと別の申請書を作っていかないと、失礼になります。

客観的な理由を明記する

芸術文化振興基金「舞台芸術等の創造普及活動」助成金交付要望書にある「本活動の企画意図」「本活動の社会に対する波及効果」などは、採択を左右する重要な項目です。特に後者は公的助成にふさわしいかが問われています。主観的ではなく、いかに客観的な理由を明記するかを、選ぶ側の視点で考えましょう。

企画意図はカンパニーとしての芸術面の目標があるでしょうから、それを中心に主観的な表現を排して書けば、決して難しくないと思います。例えば、旅公演を初めて行なう場合は下記のようなイメージです。

(例)
20XX年の団体設立以来、本拠地の××市周辺のみで公演活動を継続してきたが、設立5年目を迎え、×××市との2都市ツアーを企画した。×××市は年間約XXX本の演劇公演が実施されており、他地域からのツアー公演も約XX本行なわれている。上演作品には、最新の観客アンケートで再演希望が8作品中1位である当団体のオリジナル作品を選定した。本作品は東日本大震災以後顕在化している××××××××をテーマとし、私たちの日常生活で起こり得るエピソードを織り込んで舞台化したもので、初演時からの社会状況の変化も踏まえて改訂再演する。新たに××××××××に関する視点を追加することで、複雑化した現代社会の課題を×××市の観客とも共有することを目指す。

初めての旅公演なので、「新たな観客と出会いたい」「新たな評価を獲得したい」と書きたくなりますが、それは旅公演なら当然のことですし、カンパニーにとっての意図であって、助成団体の期待する意図ではありません。書くべきことは、新たな観客と出会ったあと、どういう影響が与えられるのかということです。

ツアー先の×××市は演劇が盛んですが、「演劇が盛んな×××市」と書くのではなく、年間公演数を数値で示しました。再演作品も「再演希望が最も多い」と書くのではなく、「最新の観客アンケートで再演希望が8作品中1位となっている」と具体的なデータを示しました。

続いて「本活動の社会に対する波及効果」をどう書くべきか、詳しく考察していきます。

(この項続く)

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