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悪意を持った人物が捨てメアドを使って当日精算を大量予約し、そのまま無断キャンセルして、予約上は満席なのに客席がガラガラになる事件が繰り返し起きてきた。これを抜本的に防止するための対策を紹介する。

こうした大量予約が行なわれるのは、当日精算が可能なフリーの票券管理システムからだ。メールアドレス登録が必要でも、複数の捨てメアドを使っていると未然に防げないという課題があった。そこで注目したのが、ヤフーが運営するソーシャルチケットサービス「PassMarket」である。他のソーシャルチケットサービスは、メールアドレスやSNS連携による会員登録機能があるため、捨てメアドや捨てアカウントを使った登録を防げないが、PassMarketは「Yahoo! JAPAN ID」でしかログイン出来ない設定にすることが出来る。Yahoo! JAPAN IDなしでも購入出来る「ゲスト申し込みを許容」という機能もあるが、これはデフォルトがオフなのでそのままにする。こうすれば、Yahoo! JAPAN IDを持っている人しかログイン出来ない。

PassMarketは、Yahoo! JAPAN IDを持っている人しかログインさせない設定が可能(クリックで拡大)
※PassMarket「イベント管理メニュー」⇒「イベント管理」⇒「イベント編集」⇒「②チケット情報」⇒「チケットオプション」より
PassMarket管理者画面

Yahoo! JAPAN IDを新規発行するには、現在は携帯電話番号によるSMS認証が義務づけられている。1人が2台以上の携帯電話を持っている場合もあるが、携帯電話自体の本人確認が厳格になっているため、SMS認証は本人が特定されるのと同義である。また、同じ携帯電話番号を使って複数のYahoo! JAPAN IDを取得しようとしても、下記の注意事項のとおり制限がかかっている。ネット上では、登録したIDから「携帯電話番号ログイン設定の解除」をすれば、複数のIDを登録出来ると指南しているサイトもあるが、その方法だとアカウントがロックされてしまう可能性があり、非推奨としているサイトもある。不可能ではないが、不正のために複数のYahoo! JAPAN IDを新規作成するのは、かなり難しいはず。そもそも捨てメアドとは異なり、Yahoo! JAPAN IDはPassMarket以外のヤフー各種サービスでも必要なもので、悪意を持った人物自身にとっても大切なIDのはず。不正に使ってアカウントロックされては、元も子もないだろう。

すでに別のYahoo! JAPAN IDに登録している携帯電話番号を使って新規にYahoo! JAPAN IDを登録した場合は、既存のIDから携帯電話番号が削除されます。携帯電話番号が削除されたIDはYahoo! JAPANにログインできなくなる可能性があります。ご注意ください。

ソーシャルチケットサービスには、無料イベントは手数料無料で利用出来るという特徴がある。さらに有料イベントでも、システム上は予約のみにして決済機能を使わない無料イベント扱いにすれば、手数料が発生しない取り扱いになっているところが多い。つまり、有料公演でも当日精算ならソーシャルチケットサービスを手数料無料で使えるのだ。PassMarketも下記のとおり明記されている。

有料公演でも、決済機能を使わなければ手数料はかからない(クリックで拡大)
PassMarketヘルプ「イベント作成の手数料(主催者向け)」より
PassMarketヘルプ画面

実際の設定画面はこんなイメージだ。PassMarketは1種類のチケットに複数の価格を設定する「共通在庫」機能はないため、複数券種を設けた場合は売れ行きに応じて在庫を変えていく必要があるが、特に難しいことはないだろう。

当日精算は「無料チケット」として登録する(クリックで拡大)
※PassMarket「イベント管理メニュー」⇒「イベント管理」⇒「イベント編集」⇒「②チケット情報」⇒「チケット」より
PassMarket管理者画面

複数IDではなく、同一IDからの大量予約を未然に防ぐことは可能か。PassMarketは1回の購入枚数上限に加え、同一IDからの公演全体の購入枚数の上限も設定出来る。例えば、1回の購入枚数上限を3枚、公演全体の購入枚数を4枚に設定すれば、そのIDからは公演全体を通じて4枚までしか予約出来ない。3名で最初に観て、自分だけもう一度観るとしても4枚だ。直前まで予定が立たない人のために、出来るだけ気軽に観てもらうという当日精算の趣旨を考えても、公演全体の上限は4枚で充分ではないだろうか。

公演全体の購入可能枚数制限をかける(クリックで拡大)
※PassMarket「イベント管理メニュー」⇒「イベント管理」⇒「イベント編集」⇒「②チケット情報」⇒「チケットオプション」より
PassMarket管理者画面

全ステージに通いたい熱心なファンの場合は、もっと枚数が必要かも知れないが、それほどのファンなら事前決済などの別方法で購入してもらえばよい。そもそも全ステージを当日精算で予約する行為自体が不審に思える。これはとりあえず予約をしておき、自分の予定が確定してから行く日以外をキャンセルする人物に見られる行為である。こまばアゴラ劇場支援会員制度でも、一部の会員が事前に大量予約をして、初日直前に行ける日以外をキャンセルする行為が目立つようになったため、2023年2月より1演目の予約は1回ごとに制限されている。

さらにPassMarketには「不正対策機能」があり、この強度を「強」にすることで、もし複数のYahoo! JAPAN IDを持っていたとしても、IPアドレスなどの行動履歴から大量購入を防ぐことが出来る。

(3)不正対策機能:強度「強」の設定について

「強」を設定する事で、Yahoo! JAPAN IDを複数取得しているお客様のお申込みも制限することが可能です。購入者を厳密に制御したい場合などは強度「強」を設定する事で、不正な大量申込みを制限することが可能となります。

このように、PassMarketで当日精算を無料チケットとして登録し、Yahoo! JAPAN IDでのログインを義務づけ、公演全体の購入枚数の上限を4枚程度にすれば、不正な大量購入を未然に防ぐことが可能で、万一無断キャンセルが発生した場合も被害を最小限にすることが出来る。無料チケットでも決済以外の様々な機能が使えるので、票券管理の強い味方になるだろう。Yahoo! JAPAN IDのない観客は新規登録が必要だが、NTTドコモ モバイル社会研究所が22年1月にスマホ・ケータイ所有者に実施した調査では保有率74.9%*1 で、IDがない人にも不正対策であることを説明すれば、新規登録の理解を得られるのではないだろうか。

無料のボランタリーベースで運営されてきたフリーの票券管理システムは、長期に渡って創生期や若手のカンパニーを支えてきた感謝すべき存在だが、近年は明らかにアクセス数の多い公演が利用して、長時間のサーバダウンが発生するトラブルも散見されている。公演規模にふさわしいサービスを選択しない主催者のリテラシーが問われると共に、巻き込まれて観客に迷惑をかけている小規模公演も多い。自分たちさえよければと考える主催者がなくならない以上、創生期や若手のカンパニーも、当日精算はソーシャルチケットサービスを使うべきではないだろうか。個人扱いにするURLが発行出来ないという不安は、アンケート機能で回答を必須にすれば集計可能である。

アンケートを必須項目にする(クリックで拡大)
※PassMarket「イベント管理メニュー」⇒「イベント管理」⇒「イベント編集」⇒「③その他の設定」⇒「アンケート設定」より
PassMarket管理者画面

こうしたソーシャルチケットサービスを使い慣れることで、いまは手数料やキャッシュフローの問題から当日精算にしている公演も、今後の成長に従って事前決済に移行していく準備になるだろう。商用サービスなので、そもそも安定した運用やセキュリティ対策がされていることも大きい。観客のことを考えれば、なにを選ぶべきか答えは出ていると思う。

  1. NTTドコモ モバイル社会研究所「2022年一般向けモバイル動向調査」アカウント1個保有68.7%と2個以上保有6.2%の合計 []