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演劇界でも一般的になったクラウドファンディングだが、実施するプラットフォームの選択肢として、非営利組織向けの「コングラント」を利用する芸術団体を散見するようになった。他のプラットフォームとどこが違うのか、まとめてみた。

まず、非営利組織向けとあるが、自治体や公益法人しか使えないのではなく、すべての法人・任意団体が利用可能だ。違うのは、寄付に対価性を発生させてはならないこと。ここが物品の販売にも使われる一般的なプラットフォームとの大きな違いだろう。このため、寄付金額に匹敵する公演チケットがリターン(返礼品)になるプロジェクトは認められないだろう。ただし、リターン(返礼品)が完全に禁止というわけではなく、京都市によるKYOTO EXPERIMENT(京都国際舞台芸術祭)の事例を見ると、先行予約や名前の掲載程度なら可能と思われる。

コングラント ヘルプサイト「NPO法人以外でも利用できますか? 利用審査条件を教えて下さい」
コングラント ヘルプサイト「リターン(返礼品)を設定することはできますか?」

また、一時的なプロジェクトではなく、継続的な支援を求めるため、月額費用を払って年間契約する形が基本になる。単発のスポット寄付(例えば公演への支援)などは、その契約期間内なら何度でも可能で、無料のフリープランを使ったお試し期間(登録日の翌月末まで)もある。登録から寄付募集終了までが2か月以内で完結するプロジェクトなら、まずはフリープランで実施することが可能だ。

コングラント ヘルプサイト「お試し登録から寄付募集開始までどれくらいかかりますか?」

一般的なプラットフォームのような、ポータルサイト上で寄付先を探す機能は限られている代わりに、すでに寄付先が決まっている人を誘導して寄付・会費を募り、その管理をする機能は充実している。会員管理をするクラウドサービス上で、非会員向けのクラウドファンディングも実施出来ると考えるとわかりやすいだろう。法人の場合は有料プランに対価性のないイベントの決済機能もあるが、特定商取引法に基づく表記がなされたウェブページを自前で用意し、そこにリンクしなければならない。対価性があってはいけないので、公演チケットには使えないだろう。

こうした条件があるが、一般的なクラウドファンディングのプラットフォームが9~20%程度の手数料がかかるのに対し、コングラントの費用は業界最安級と言われている。料金体系は前述の月額費用、クレジットカード決済手数料、1決済ごとのトランザクション費となり、月額費用は年間一括払いとなる。

コングラント「料金」

お試し期間のフリープランは、月額費用0円、クレジットカード決済手数料8%(税別)、1決済ごとのトランザクション費5円(税別)。月額4,000円(税別)が発生するライトプランは、クレジットカード決済手数料3.4%(税別)、1決済ごとのトランザクション費5円(税別)となる。つまり、ライトプランは年額48,000円(税別)を払えば、クレジットカード決済手数料3.4%で年何回でも寄付が募集出来ることになる。1回の寄付が5,000円と仮定して、手数料を支払ったあとの手取り額を試算すると、次の表になる。

クラウドファンディング手数料比較

これを見ると、手数料14%と比較的安価なプラットフォームと比較しても、目標50万円、100万円いずれの場合も、残金(手取り)はコングラントのほうが多いことがわかる。100万円を超えるとこの差が開いていく。手数料を支援者の負担に出来るプラットフォームもあるが、それは支援者の支払いを増やすことになるので、目標金額達成のハードルがそれだけ上がることになるだろう。

演劇界の利用例としては、新国立劇場(公益財団法人新国立劇場運営財団)、KAAT神奈川芸術劇場(公益財団法人神奈川芸術文化財団)などの公共ホールが単発のスポット寄付に、京都市が前述のKYOTO EXPERIMENT、公益財団法人北九州市芸術文化振興財団がJ:COM北九州芸術劇場などへの支援などに継続的に利用している。中間支援団体では、アーツサポート関西(公益財団法人関西・大阪21世紀協会)が寄付税制を活かした芸術団体へのスポット寄付に利用(「舞台芸術」分野のほか、年ごとに採択された団体の募集も)。小劇場系の任意団体では、平泳ぎ本店(東京都)、笑の内閣(京都市)などが公演で直接利用したほか、学生劇団でも立教大学演劇研究会が無料公演のカンパ、京都府立医科大学演劇部が照明機材購入などで利用している。

コングラントには、有料プランで目標金額を達成した場合にクレジットカード決済手数料が0%になる「GIVING 100 by Yogibo」、SDGsに取組むNPO団体への支援が全額届く「GIVING for SDGs sponsored by ソニー銀行」など、企業が課題解決を支援するコースも用意されている。前者は子ども、若者、障害者が対象などの基準があるが、舞台芸術も認められるだろう。「GIVING 100 by Yogibo」は演劇倶楽部・座(東京都)、「GIVING for SDGs sponsored by ソニー銀行」は劇団ゆう(岩手県)、NPO法人多摩子ども劇場(東京都)などのNPO法人で実績がある。

コングラントの演劇界での利用はまだ限られているが、手数料はかなり有利で、非営利を強調した寄付募集に使えるのではないかと思う。著名なプラットフォームの集客力との比較、年額費用の存在をどう考えるかがポイントになるが、年間を通してのスポット寄付募集やチケット販売ではない支援会員制度などを考えている劇場・芸術団体には使えるのではないだろうか。そもそも対価性のない純粋な支援は、本来なら舞台芸術への支援と親和性が高いはずだ。それがチケット販売とセットになっているケースが少なくないと思う。純粋な支援を求めたいとき、コングラントを選択肢に入れてもよいのではないだろうか。