Pocket

小劇場系の公演映像を届ける手段として一般的なのは配信だが、廃墟文藝部(本拠地・名古屋市)が昨秋上演した『4047』(2023/11/17~19、名古屋・愛知県芸術劇場小ホール)の上映会を、名古屋と東京の映画館で開催した。「名古屋市民芸術祭2023」特別賞(空間演出賞)(主催/公益財団法人名古屋市文化振興事業団)を受賞した作品。

廃墟文藝部は多くの過去作品をYouTubeで無料公開しており、『4047』も8月下旬から無料公開を予定している。そのことを周知した上で、敢えて映画館を借りての有料公演とした(名古屋・東京とも2,000円)。「大きなスクリーン、良い音質で作品を観たい方、そして、誰かと同じ時間に作品を観たい、その体験を共有したいという需要に応えるもの」としている。

廃墟文藝部は作・演出の斜田章大氏が日本演出者協会「若手演出家コンクール2019」優秀賞となり、2020年3月の最終審査会で短編を東京(下北沢・「劇」小劇場)で上演しているが、このときはコロナ禍による無観客上演だった。そうした思いに加え、今回の『4047』は映画がテーマであるため、東京公演の希望に応えるために上映会という形で実施したという。

上映会は6月22日に大須シネマ(名古屋・大須、キャパ42席)で1回、7月27日にTCC試写室(東京・新橋、キャパ46席)で2回開催。東京は好評につき、当初1回の予定を2回に増やした。大須シネマは一般の映画館だが、自主制作映画の上映会場としても門戸を開いている。TCC試写室は上映会などで使用出来るレンタルシアターで、映画館と同等の設備を備えている。今回の会場としては最適だろう。

映画館を使った公演映像の上映は、商業演劇や海外作品、演劇祭やカンパニーの地元などでは開催されてきたが、東京公演の代替手段として他地域のカンパニーが単独開催するのはめずらしい。廃墟文藝部はTCC試写室を15:30~21:30の6時間レンタルした模様だが、会場費は料金表によると事前振込または当日払いで7万円(税別)。当日はアフタートークや物販も行なわれ、実際に公演した場合に比べると費用を大幅に抑えた形で観客とのコミュニケーションが実現した。

コロナ禍で演劇でも配信が定着したが、5類感染症移行によって現在はリアル観劇への揺り戻しが起こっている。ライブではないが、限られた予算で他地域の観客の心を掴む方法として、自信作の映画館上映会は参考になるだろう。今回、会場となったTCC試写室側もこんなポストでエールを送っている。