この記事は2002年6月に掲載されたものです。
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扇町ミュージアムスクエア閉館と劇場稼働率の問題
2002年末をもって大阪の扇町ミュージアムスクエア(OMS)が閉館する。関西小劇場のメッカと言われた施設が消えることは大きな衝撃だが、元々は大阪ガスの遊休不動産活用事業であり、90年代前半からは事あるごとに閉館の噂を耳にしていたので、その意味では17年間よくもったという気がする。5年程度の暫定施設でスタートしたものが、当時の小劇場ブームや94年のメセナ賞受賞(93年度の活動に対して社団法人企業メセナ協議会が選定)で存続されたわけで、時代が味方してくれたとも言えるのではないだろうか。
建物本体は1954年の建築で老朽化が進み、補修費などで年間1億円の赤字が出ていたと報じられている。劇場機構も平土間中央に立つ2本の柱が弊害になり、楽屋は離れのプレハブ小屋という状態で、それを現場の英知で巧みに運用してきた感がある。ここに至っての閉館と来年4月のビル解体はやむを得ないことであり、OMSを活動拠点にしてきた演劇人は感謝こそすれ、そのこと自体を批判すべきではないと考える。確かに代替施設の問題はあるだろう。だが、02年のいまOMS閉館を批判するよりも、85年のOMS開館の功績を振り返るほうが意義があると私は思う。
次の焦点は跡地利用に移るわけだが、閉館の記者発表で大阪ガス側は事業存続の可能性を否定し、「遊休施設を利用することで成り立っていた事業。新しく造るということになると運営していくスキーム(計画)が描けない」と述べている。*1 これはどういうことだろう。初期投資がかさむと小劇場経営は不可能だということだろうか。事業というものは、どんなものであれ初期投資を回収して黒字転換を図るものだが、それが不可能ということだろうか。この考え方だと新しい劇場はつくれないことになるが、現実に東京では毎年のように民間の小劇場が誕生している。「スキームが描けない」のではなく、「スキームを描く意思がない」「スキームの描き方がわからない」のではないだろうか。
関西での小劇場経営を難しくしている点として、稼働率の低さが挙げられる。人気のOMSでさえ週末(金土日)しか公演がない週が目立ち、木曜が仕込みだとしても、月火水は空いていることになる。つまり年間稼働率が約60%ということになり、これを引き上げることが先決ではないだろうか。この場合、空いている週前半に別の企画を入れることは非常に難しい。現在の週末中心の公演日程を1週間に延長させ、火曜仕込みの水~月6日間公演を基本として定着させるべきだろう。*2 東京で人気の民間劇場はどこも稼働率100%近い。空いているのは管理上どうしても必要な保守点検日だけであり、カンパニーが劇場下見に訪れても素舞台の状態はめったにお目にかかれない。稼働率という経営的に最も重要な課題に、OMSを始めとする関西の小劇場は無自覚すぎたのではないだろうか。
観劇人口の違いは確かにあるだろう。しかし、ニワトリが先が卵が先かではないが、公演期間が長くなければ観客は増えないのだ。劇評も出ないのだ。関西で1週間公演は難しいと考える人は、青森県の弘前劇場の事例を読んでほしい。*3 弘前劇場は青森で2週間の公演を基本としている。そして「土日だけの公演でよしとする劇団側にも問題があります」とはっきり書いている。制作者なら誰しも実感していると思うが、公演でいちばん労力を使うのは仕込みである。長時間かけて仕込んだ舞台を、わずか数ステージでバラしてしまうほど虚しいことはない。コスト的にも割高になる。一度仕込んだのなら、なぜ可能な限りステージ数をこなしたいと思わないのか。劇場費だけに目を奪われ、トータルでなにを目指すべきなのかを考えようとしない制作者が関西には多いのではないか。本拠地で1週間の公演が打てなくて、いったいどうしようというのか。身内客相手の発表会ではなく公演をしているのだということを、いま一度噛み締めてほしい。
劇場側も長期利用を促進するための料金体系を整え、1週間公演はあたりまえという雰囲気をつくるべきだろう。短期間の公演に虚しさを覚え、仕込み・バラシの連続で疲弊するのは、劇場側にとっても同じことである。関西では提携公演という名目で長期利用を優遇することもあるが、部外者にわかりにくい不透明な制度より、長期割引をつくって料金表に載せるほうがよっぽどクリアだ。東京の民間劇場は、7日間パックなど様々な料金メニューを用意し、借り手の確保に懸命になっている。東京はカンパニーも多いが、劇場の数も多いのだ。それでも公共ホールより人気の民間劇場が多いという事実は、小劇場経営が決して「スキームが描けない」ものではないことを物語っていると思う。
私が小劇場演劇に関わりだして20年になるが、昔から疑問に感じていた点は時代と共に改善されてきた。どうにかしてほしいと思っていた前売券の整理券配布も、いまでは整理番号付チケットが主流になった。だが、関西の公演期間の短さだけは全く変わらない。20年前、関西では東京に比べて演劇制作が未熟なため、提携公演という制度で劇場側が制作をサポートする文化が根づいていると聞かされた。ならば、未だ成熟してない公演期間の短さを劇場主導で是正すべき時期ではないのか。95年、OMSは10周年記念企画として永盛丸プロジェクト『さらば青春』の3週間公演を行なっている。ロングランの可能性を探ったはずの試みは、一過性のものだったのだろうか。
私は不思議でならないのだが、なぜ関西の演劇記者や評論家の諸氏は、観客に作品を届けるための重要な要素である公演期間の短さを問題にしないのか。関西の劇場やカンパニーの取り組むべき課題として指摘しないのか。演劇文化の豊かさを図る尺度は、なにも劇作家の活躍ぶりだけではないだろう。観客に作品を届けるという基本的なインターフェイスの未熟さは、関西小劇場界がいまこそ自らの問題として受け止めるべきである。
関西では、今年2月に電視游戲科学舘4週間ロングランという画期的公演があった。*4 関西の若手カンパニーでこれだけの公演期間は前例がなく、会場となったART COMPLEX 1928(京都・三条御幸町)による共催も、閉鎖的状況を打破するための理想的なアクションに思えた。この02年の出来事が、後年振り返って関西のターニングポイントだったと思えるようにしなければならない。