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市民利用率の低さ(約15%)、指定管理料の高コスト(1人あたり他ホールの約3倍)、老朽化(設備改修費用約4億円)を理由に、兵庫県伊丹市が「用途変更」「演劇機能の移転集約」などを検討している伊丹市立演劇ホール(AI・HALL)。演劇界からの存続運動を受けて、2022年度から3年間の現状運用が継続中だが、予算と人員が削減され、自主事業中心から貸館中心へと運営の変換を余儀なくされている。

伊丹市公式ホームページ「アイホール(演劇ホール)の活用に関する市民説明会を実施しました」
※市民説明会資料、質疑回答一覧を掲載。

22年度は劇場自ら文化庁「ARTS for the future! 2」に申請して補助金を獲得し、貸館の主催団体も同制度を活用することが出来たが、23年度はコロナ禍での支援制度が終了する。このため、稼働率や地元利用率を上げるためには、23年度が正念場になると思われる。

これを受けての施策と思われるが、23年4月1日からAI・HALLは新たな料金プランを適用することを3月16日発表した。22年12月1日からは、これまでの連続使用上限を6日から14日(休館日除く)に拡大している。

  • 伊丹市・宝塚市・川西市・三田市・猪名川町以外の団体が利用する場合、施設利用料・付帯設備利用料が通常料金の1.5倍(市外割増)
  • 3日以上の連続利用で公演を実施し、伊丹市民還元チケット(割引や招待)を設定するなどで、施設利用料・付帯設備利用料が通常料金の7割相当(公演プラン)。
  • 公演プランが適用される条件を満たした上で、7~14日の連続利用(休館日を除く)で公演を実施すると、付帯設備利用料が通常料金の5割相当(ロングランプラン)。
  • 伊丹市・川西市・宝塚市・三田市・猪名川町以外の団体、または営利利用と見なされる団体は、施設利用料・付帯設備利用料が各プラン適用後に1.5倍。どちらも適用される場合は、1.5×1.5=2.25倍。

公演利用の場合、全日利用で付帯設備もフルに使うと思うので、照明・音響のAセット3区分(午前・午後・夜間)と、関西の劇場で必要なところが多い管理人件費を合わせて試算すると、下記のとおりになる。

AI・HALL料金試算(クリックで拡大) ※新料金表から試算
AI・HALL料金試算

これを見るとわかるが、伊丹市・宝塚市・川西市・三田市・猪名川町の団体が公演プラン・ロングランプランを申請した場合、大幅な割引となる。それ以外の団体でも、市外割増がかかるのは公演プラン・ロングランプランの適用後になるため、結果的に市外割増が相殺され、ロングランプランなら通常料金を下回る。これは地元利用率を高めると共に、従来の市外からの公演にも最大限配慮した料金プランとして考えられたものだろう。

ロングランプランの対象となる7日間借りた場合の合計金額は、次のとおりだ。

(伊丹市・宝塚市・川西市・三田市・猪名川町の団体によるロングランプラン)81,100円×5日+88,100円×2日=581,700円
(上記以外の団体によるロングランプラン)110,100円×5日+120,600円×2日=791,700円

劇場費が総予算の25%を占める小劇場演劇の相場観から逆算すると、チケット代を3,500円と仮定して、581,700円なら有料動員650名程度、791,700円なら有料動員900名程度が必要だろう。動員1,000名が大きな壁になっている関西小劇場の現状を考えると、簡単とは言えない数字だが、動員が少ない理由は公演期間が短いこと、週末に偏っていることも大きい。ロングランプランなら仕込み・リハーサルに時間をかけても6ステは上演出来るはずで、最大キャパ300名で特定ステージに集中しても対応可能なAI・HALLで、ぜひロングランに挑戦してほしい。

35分割の可動床で自由自在に舞台・客席が組め、舞台面から照明用フライフレームまで7.2mが確保出来る大空間は、小劇場から中劇場のステップアップとして最適であり、スタッフ・キャストとも学ぶことが多い。この劇場がこの料金で使えることは、本当にチャンスだと思う。関西では、23年10月に扇町ミュージアムキューブがオープンし、安すぎる貸館は民業圧迫になるという意見もあるだろう。市外からの公演を1.5倍にする代わりに、公演プラン・ロングランプランへ誘導する施策は、それに対する答えだと思う。

伊丹市、宝塚市、川西市、三田市、猪名川町というエリアだが、これは阪神北地域と呼ばれる4市1町で、すでに医療、水道、観光などの面で広域連携を実施・検討している。AI・HALLの広域連携は検討されていないが、今後も存続していくには、伊丹市だけの演劇専用ホールではなく、阪神北地域の広域施設となるのが最も現実的な道ではないだろうか。阪神北地域の住民に大幅割引を設定したのは、そのメッセージだろう。

AI・HALLを存続させるのは、関西演劇界の公演活動そのものにかかっている。公演プラン・ロングランプランを使って、地域住民が劇場の存在を感じられる公演を積極的に企画してほしい。