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●分割掲載です。初めての方は(1)から順にご覧ください。

最初は招待客が来なくてあたりまえ

無名のカンパニーにとって、劇場関係者やマスコミ関係者に公演を観てもらうことは重要です。どんなに作品が素晴らしくても、実際にその目で観てもらわなければ話になりませんし、観てもらえさえすれば、無名でも作品次第で大きく道が開けてきます。助成金や演劇賞も、こうした関係者の観劇があるかどうかで左右されるのが実態です。

どのカンパニーも競って招待状を送っていますが、当然ながら誰もが考えることは同じですので、相手には膨大な数の招待状が届いています。無名のカンパニーに時間を割くことは、なかなか難しいはずです。私も企画書には力を入れましたが、思うように招待を受けていただけませんでした。

どんな人気カンパニーになったとしても、招待状を送った全員が招待に応じることはあり得ません。マスコミには、演劇以外も含めて様々なジャンルから山のような招待状が届き、公演を観るのが仕事の演劇記者であっても、選ばざるを得ません。若手カンパニーは公演期間も短いので、競争率はさらに高くなります。最初から劇評の対象になるかどうかで観劇を決める演劇評論家もいるため、遊気舎のようなギャグ色が強い集団はなおさら不利でした(観てもらえれば、シリアスなテーマ性を含んでいることがわかるのですが)。

首都圏や京阪神のような公演が多い地域では、無名のカンパニーがいくら招待状を送っても、ほとんど観に来ないのが現実ではないでしょうか。若手カンパニーの発掘をミッションに掲げている劇場関係者、面識があるライターなどが数名訪れる程度だと思います。

観に来なくても全員に送る

こうした状況で、どうやって招待客に関心を持ってもらうのか。私が実行したのは御礼状を出すことでした。招待状を送った相手全員に、来場したかどうかに関わらず御礼状を送ったのです。ここで重要なのは、来場されなかった方も含めて全員に送ることです。100通招待状を出したのなら、御礼状も同様に100通出すのです。

どのカンパニーも招待状は送りますが、御礼状を送るところはほとんどありません。このため、相手に強い印象を与えます。御礼状という存在自体がめずらしいのに加え、観に行かなかった方にも届くわけですから、相手の良心に訴える効果があります。招待状は単なるDMですから、無視してもなにも感じませんが、無視した相手からきちんと御礼状が来ると、心に残るものです。こうした御礼状が毎回送られてくると、相手の心境もしだいに変化し、無視から「予定が合えば一度くらい観ておこうか」になっていきます。「招待券/招待状の活用法」では、

3回連続して来場されない方は、残念ながら縁がないものと判断して招待客名簿から削除すればいいと思います。

と書きましたが、こうしたあらゆる手段を使った上での3回だと付け加えておきます。

御礼状は必ずハガキで出します。封書で出すと、招待状と同様に開封される前に捨てられる可能性があり、御礼状であることすら伝わらないからです。ハガキなら裏は見るでしょうから、手に取った瞬間に御礼状であることがわかる内容にします。文面もお礼だけでなく、動員数をリアルな数字で報告します。概数ではなく、きちんと端数まで明記し、前回からの増減、有料動員数や前売比率なども添えるとよいでしょう。

動員数は端数まで明記しないと都合のよい切り上げに思われますし、端数まで書くことで正確な計数管理が出来ている印象を与えます。前回から増減している場合は、その理由も端的に書き添えます。動員数が減ったからといって隠してはいけません。減ること自体はめずらしくありませんから、その要因をきちんと分析して次回へつなげれば、逆に好印象となります。

こうした数字を出すのに何週間もかかってはいけません。御礼状は公演終了後1週間以内に相手に届くのが望ましいと思います。これぐらいのタイミングで届けば、受け取った方も頭の中で自分の行動と重ね合わせ、「この日程だったら行けたかも」と後悔するかも知れません。早く届けば事務処理のスピードを印象づけるだけでなく、相手の記憶に訴える効果も倍増するのです。

遊気舎では、官製ハガキにワープロやレーザープリンタで印字したものを、公演終了後すぐに投函していました。質素なものですが、赤字でも必ず出すため費用をかけられませんし、スピードこそが最大の感謝の気持ちと考えていました。無名時代から一定の評価を得るまで、これを毎公演続けました。

無視しているカンパニーから毎公演御礼状が届き、動員数がしっかり書かれていたら、相手も気になるはずです。当時の時代背景として、1993年にサッカーのJリーグが発足し、リアルな有料動員数を発表するようになりました。水増しした概数を発表していたプロ野球と比べ、クリーンな印象がありました(プロ野球が実数発表に変わったのは2005年)。公演を観ていただけなかった方にも、無事に終了出来たことへの感謝を伝え、正確な動員数をきちんと情報提供すること。これを愚直に続けた遊気舎の御礼状作戦は、それなりの効果を生んだと考えています。

節目には活動報告書を送る

御礼状に限ったことではありませんが、演劇人の一般的傾向として、これからの公演には力を入れるのに対し、終了した公演への振り返りが希薄だと感じます。消えてしまう舞台芸術の特性だとは思いますが、それが御礼状を出さない文化や、過去の作品のアーカイブが貧弱なことにつながっており、ここを逆に強化すれば、カンパニーを目立たせるのはとても簡単だと思います。

マスコミに資料を送るタイミングは、公演前の企画書だけではありません。公演とは全く関係ない時期に、「(1)カンパニーの歴史に精通する」で紹介した「劇団経歴書」を作成して送るのもよいと思いますし、団体設立や公演数の節目に合わせ、活動報告書をつくるのも手でしょう。大規模な演劇祭などで記録集が発行されることが増えてきましたが、カンパニーも記録集を発行すればいいのです。例えば、初めての旅公演や海外公演、一連のアウトリーチ活動、新たなプロデュース公演などを記録に残せばいいと思います。

余裕のある時期に作成する活動報告書なら、観客の分析もじっくり出来ると思います。この機会にアンケートの集計結果を見つめ直し、これからどうすべきなのかをまとめてください。これは、「制作者の役割」で説明しているカンパニーの長期計画に対する振り返りの意味を持っています。90年代前半は、観客を性別・年齢でクロス集計することすら、ほとんど行なわれていませんでした。グラフ化した遊気舎のリポートを目にして、「このグラフだけで遊気舎を意識するようになり、一度話を聞きたいと思っていた」という劇場プロデューサーもいました。

必要なのは本気度と想像力

未知の相手に関心を持ってもらい、応援してもらうという点で、招待客に対するアプローチは就職活動と全く同じだと思います。公演終了後すぐに御礼状を出すのも、OB訪問後に御礼状を出すのと同じです。就職活動のノウハウを使えば、いくらでもアイデアは出てくるのではないでしょうか。そうならないのは、就職活動は人生が懸かっているのに対し、公演の宣伝はそこまで必死に取り組まないからでしょう。

なぜ、必死に取り組まないのか。それはプロデューサーとして活動している制作者が少ないからだと思います。プロデューサーは、公演に対して金銭的リスクを背負います。公演で赤字が出たら、プロデューサーが負担しないといけません。だから必死になり、知恵を振り絞って活動するのです。人生が懸かっている就職活動と同じレベルの活動をするのです。この本気度が問われているのです。

例えば、絶対に観てもらいたい方がいたらどうするか。私なら達筆の書き手を探し、巻紙に墨で招待状をしたためます。こんなに手間や費用がかかる招待状はないでしょう。それぐらい本気だということを伝えるのです。この話をすると冗談だと思って笑う演劇人が多いのですが、冗談ではありません。これを冗談だと思わない人が、プロデューサーの資質を持っているのではないでしょうか。

招待状に限らず、大切なのは相手の立場になって考えることです。自分が招待客だったら、なにをされるとうれしいか、なにをされると「一度観てみようか」と思うかを想像し、それを実行すればいいのです。費用をかけずとも、相手の琴線に触れることがきっとあるはずです。相手にも無名の時代があったはずで、そのときの「なんでも観てやろう」という思いを甦らせる〈なにか〉があればいいのです。御礼状はその一つに過ぎません。あなたの想像力が問われているのです。

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