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Producers meet Producers 2006 地域の制作者のための創造啓発ツアー

●分割掲載です。初めての方は概要から順にご覧ください。

PmP2006参加者リポート
「東京に近接する横浜で、
いかにアイデンティティを確立しているかを取材」

ゲスト:大西一郎氏
ネオゼネレイター・プロジェクト主宰、横浜演劇計画代表、横浜舞台芸術活動活性化実行委員会(SAAC)委員
セッション概要


セッション5をレポートさせていただきます

本田範隆
NPO法人FPAP
報告日:2006/06/30

NPO法人FPAPの本田です。
FPAPは、福岡・九州の地域舞台芸術文化を支援するNPO法人です。指定管理者として、ぽんプラザという小劇場とゆめアールという音楽演劇練習場を管理しながら、各種の文化振興事業を行っています。

今回、PmPにFPAPから、高崎と私本田とで事務局として運営のお手伝いをさせていただきました。事務局のメンバーにはレポートは課されておりませんが、地域からの参加ということと、セッション5の取材ををさせていただいたことから、レポートを残したいと思います。

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演出者協会の理事であり、演出家としても高名な大西さんですが、今回のツアーの趣旨に鑑み、企画や団体のプロデュースに重点を置いたインタビューとした。
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横浜の演劇ライター山田ちよさんの統計によると、昨年の横浜での公演数は170で、団体数は124あるという。横浜に代表あるいは演出家の住所がある等でカウントしているとのことだが、継続性がある劇団はそのうち18だろうということだった。
18の数字は少なく感じたが、「継続性」というのをある程度シビアに据えた数なのかもしれない。

横浜での主な公演会場は相鉄本多劇場、STスポット、BankART(最近演劇利用は減っているらしい)、赤レンガ倉庫、カナックホールなどが挙げられるとのこと。練習場所の不足が課題とのこと。

現在は行政に理解のある人がいるとのことで、協力してもらえるうちに短期集中して注目を集めようという大西さんの意気込みを私は感じた。
横浜を主な練習場所とする劇団で、自分達が首都圏ではなく、横浜の劇団だと意識している割合のようなものを聞いてみたが、劇団にそういう所属地域の意識はあまりないようである。
またある程度集客できる劇団は東京に行ってしまうというジレンマがあるとのこと。

そのジレンマを克服するため、逆に横浜にわざわざ人が来るという仕組みを作りたいと、「横浜でしかやらない」イベントを打つようになったという。
同時に、演劇のできる環境を整えて「横浜でやりたい」と思ってもらえるようにしたいということだった。

大西さんの中では、「横浜でしかやらない」というコンセプトが重視されており、横浜演劇サロンという参加費100円の持ち寄り飲み会から、広く注目を集めそうな大き目の招聘公演まで企画の大小に関わらずこのコンセプトが意識されている。

横浜ではセミナーやワークショップを行う時は、費用や時間の観点から東京から講師を招きやすいという。
横浜の場合は東京のいい部分を取り入れて大きくなれるという背景があるようだ。

ある程度集客できるようになったら横浜を離れていってしまうと聞くと、流出に歯止めをかけることに躍起になりそうだが、逆に横浜で面白い事をして別の地域から横浜へ呼び寄せようという大西さんの発想の大きさに感心した。

あるとき、大西さんは横浜の日没を見ながら、「ここなら文化の中心になれる」と確信したとのこと。

将来は「若者が芝居をするために横浜に行く」ということを目指すとも語ってくださった。
様々な事業もさることながら、横浜に演劇人を呼び寄せているのは大西さんのお人柄ではないかな、とインタビューの後に思った。
そのくらい気さくで話しやすい方でした。

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セッションを終えて

はじめ、私達が大西さんのセッションを仰せつかったときは、「東京―横浜」と「福岡―北九州」の関連の相似性が頭に思いうかんだが、横浜の話を聞けば聞くほど、この2つはあまり関連性はないのではと感じた。

横浜は東京まで30分という距離で、交通費も片道450円。
それに比べて福岡北九州間は特急(!)で1時間かかり、割引を使っても片道1000円を超える(バスだと1時間半で片道1000円。新幹線だと片道3000円超)。

視線を転じて南を向くと、大野城という地域がある。大野城は福岡の中心地天神からは私鉄で280円で、20分とかからない場所に位置する。

こちらは「まどかぴあ」という図書館・劇場などを備えた公共複合施設を中心として舞台芸術事業に力を入れていて福岡の演出家を招いての事業を行ったりしている。

「横浜‐東京」の関係は実は「大野城‐福岡」に似ているかもしれない。

大野城も横浜と同じように、都市の個性のアピールを模索している。 近場でそういう刺激があるとうれしい。今後が楽しみである。
福岡に所在するNPOとしては、大野城との連携の可能性を探り、双方によい方向に進めていけたらよいと考える。

今回のセッションが、周辺都市といかに切磋琢磨(競争だけではなく)していくかを真剣に考える切っ掛けとなった。

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セッション全般を通じて

助成金や演劇祭の受け入れ側は応募されるのを待っているのだなというのが改めてわかった。「どうせ落ちるからいいや」なんて思って、これまでスルーしていた団体さんは待ってくれている人がいると思って、チャレンジしてもらいたい。

演劇の公演をレストランに例えた方がいて、「特に料理がうまいわけではないけど、何か居心地がいい」そういうレストランにはまた行きたくなる。演劇も同じで、もてなす心を持って、居心地よい空間が提供できれば、多少内容がまずくてもお客さんは離れていかないというようなことおっしゃっていて、これにはかなり共感を持った。

また別の方で、東京の数多い公演の中で、選別されるにはチラシやサイトの誘導がしっかりしていないと難しいという話があったが、当然のようで実際にはなかなかできてないというのが現状であると感じた。東京でなくても、映画や美術館、スポーツなどの中からの選別を考えると、地域でもあぐらをかいているわけにはいかない。チラシでインパクトを与えつつ、基本情報を与え、サイトへ誘導し、サイトには安心感を与えるようにトップにチラシのデザインを持っていき、コンテンツはわかりやすいところに「劇団について」と「これまでの活動」が配置されている、いま劇団が持っているツールに少し気を配るだけでいいことなので、是非おすすめしたい。

ツアー中、ゲストの方々が手の内を堂々と見せてくれたことは印象深かった。それは結局は実直にやり、人との関係を重視したという基本的なことだったとしても、そのメッセージは素直に受け取りたい。

皆、次の世代が盛り上がってくる事を楽しみにしている様子でもあり、今からやっていこうとする私達は大変恵まれた環境にいるのではないかと感じた。


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