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Producers meet Producers 2006 地域の制作者のための創造啓発ツアー

●分割掲載です。初めての方は概要から順にご覧ください。

PmP2006のレポート

高崎大志
事務局、NPO法人FPAP
報告日:2006/07/02

はじめに

 今回高崎は参加者としてではなく、事務局の一員としてこの企画に参加した。事務局メンバーにはレポートは課されていないが、地域からの参加であり、セッションの担当をしたということもあり、なにか残しておかなければという思いがやまずレポートを記すこととした。

前提

 劇団運営や制作の話しになるとき、とかく忘れられがちなのが「良い芝居を創ると言うことがもっとも重要。」ということである。全てのカンパニーはここに最大限の目的をおいているはずだし、そのことにカンパニーのリソースの大半を裂き、それでも思うようにならないこともあり、日々苦闘しているはずである。
 このことは、高崎のみならず、すべての参加者のコンセンサスであると考えている。
 
前置き

 2泊3日にわたるPmP2006の全日程を終えて、福岡へと戻る飛行機の中で配付された資料などに改めて目を通し、今回のセッションの内容を振り返りはじめた。2泊3日にわたるPmP2006で得たものは数多い。
 PmP2006の事業概要またはスケジュールを参照してほしいが、2泊3日でこれだけの行程をこなして、消化不良を起こさないかというのは当初から不安であった。
 結果、消化不良である。PmP2006では2泊3日の間にとうてい処理できない言葉を与えられた。それらをすべて言語化するのは無理としても、断片的なメモと乏しい記憶力に頼ってレポートを作成しようと思う。

 高崎は頼まれたわけでもないのに、オンタイムでブログを更新するという役目を自分に課していた。このため、セッションの内容を聞き逃したところもある。セッションによっては聞き取りが不十分なところがあることをご容赦願いたい。
 また高崎は事務局という立場からの参加であったのだが、時に完全に自分の立場を忘れていたきらいがある。関係者各位にはこの場を借りて、ご寛容を願う次第である。

得難いもの

 今回の企画、特筆すべき点は多々あるが、その一つに各地で活躍する制作者が共通の体験をしたということがある。今回のPmPに参加した制作者は、共通の体験による信頼関係を元に共通の言語で会話することができる。これは今後の地域の制作者間の交流に新たな可能性を拓いたと言える。
 今回の企画、2泊3日という短い期間としては、かなり参加者間の親交を深めたような気がする。参加者は、今回の参加者のいるそれぞれの地域(札幌、盛岡、仙台、東京、岐阜、名古屋、京都、広島、高松、北九州、福岡)で活躍する制作者と面識を得た。
 このような顔が見える関係性を築いた制作者をそれぞれが各地域に持っていると言うことは、大きな財産であろう。例えば、引き受けてもらえるかどうかは別として、何かの機会で地域の制作者に現地制作を依頼することもできるし、その地域についての相談をすることもできる。

 連日の深夜までの議論(?)は、必ずしも制作に関するまじめな話題に終始したわけではなかったが、各地域の制作者の人となりを知るために有意義であった。二日目に参加者の発案で、全参加者によるセッションが開かれた。始まったのは午前0時過ぎ、終わったのは約午前3時。このような時間帯でも新たなセッションが参加者から発案され、全員が出席することからも今回の企画の熱が伺える。
 また、事務局の野平氏が東京で制作活動をしていることから、東京の小劇場事情の理解について各種のアドバイスをいただいた。まったくもって地に足のついた情報の数々であり、大変参考になった。

 今回、参加者の中で「地域の制作者」として「地域演劇の制作業務」を主として生計を立てている人が複数名いた。次代を担う地域の中堅制作者として集まった11地域18名の制作者の中で、喰えている制作者がいるという事実は、高崎にとってはある種感慨深いものがあった。

 これはおまけ的ではあるが、アゴラ劇場5階練習場や、練習場走り穂での宿泊の経験ができたのもよかった。宿泊目的で利用できることは知っていたが、知っているのと経験するのとではちがう(なんでもそうだが)。ゴミの分別の仕方とか、コンビニの場所とか、実際に宿泊することで、経験を伴った知識となった。
 余談だが、一般論として経験を伴った知識はより応用が利くし、ほかの要素と結びつけて解決策をひねり出したりする問題解決力が伴うものだ。

 事務局の立場を忘れて言うが、主催者はよくこれだけのゲストを集めたものだと舌を巻く。企画力・調整力・事務能力・ネットワークなど驚嘆に値する。地域の制作者の研修企画として、他国でも参考になる事例ではないだろうか。

セッション内容のレポートの前に

 では、これより各セッション内容のレポートに入っていきたいと思う。以下のレポート中、ゲストの取材への回答趣旨として述べられていることは、高崎の記憶と主観による解釈であり、前後の文脈も十分に説明できていないことから、すべての文責は高崎にあると理解いただきたい。以下を読みすすめるにあたってはそのことをご了承いただきたい。

【セッション1】財団法人セゾン文化財団事務局
【セッション2】根本ささ奈氏(アサヒビール株式会社社会環境推進部)

 ここではメセナを行う企業の担当者からメセナの概要や理念の説明を受けた。これとて、資料を入手して東京に行き、直接担当者と話せば得られる情報といってしまえばそれまでだ。しかしそれにかかる日時経費を考えた場合、短時間でこれらの情報を得られたことは大きい。これらの企業メセナの支援は、この説明会を契機に自分の現実的な選択肢の一つとなった。
 良く言われることであるが、企業から支援を受けるには、企業メセナの目指すところと、企画の内容をうまく融合させる必要がある。カンパニーと社会の接点を模索するのが、制作者の仕事であると考えているが、その意味で企業メセナとの接点を探ることは、制作者にこそ与えられた仕事である。

【セッション3】倉迫康史氏(Ort-d.d 主宰)

 自分のおかれた環境を冷静に観察する視点や企画「昏睡」での活動ぶり、宮崎で新たな地平を切り開いていく過程など、こんなクレバーな人がいたのかと、正直驚いた。制作業務を後進に任せるということについては消極的な印象を持ったが、それでもここまでやれるのかということに正直脱帽した。

 人と人を出会わせることがプロデューサーの重要な役目であるというのは、これまでも多くの人に語られていることではあるが、このことは氏も重視しているように受け取れた。人と人が出会いお互いの能力やリソースを知ることで新たな企画が生まれることもあるし、今まで刺激されなかった部分が刺激されて新たな創作が生まれるかも知れない。取材の中で「人と人の出会いが起こす化学反応」というフレーズがあったが、印象深い言葉である。

 また、地域での広報戦術として、定期的に記事が出るように努めたとのことであった。高崎も一般市民へ地域演劇が認識されるよう新聞という媒体を大きなものと考えている。しかし「定期的に」という感覚はなかった。これは今すぐどうこうできる話しではないが、アイディアの一つとしていつでも取り出せるところに備えておきたい。
 また、地域の行政マンやマスコミなど、地域文化を憂慮している人材はどの地域にもいるということであった。これはその通りだと思う。高崎もこれまでそのような人にどれだけ助けたれたかわからない。地域の行政マンやマスコミなどは、やはり特殊な職能を持った人々だ。公共性の高い職能を持つこれらの人々と連携していくことは、活動の輪を拡げるのに大切であることを改めて認識した。

 これは演出家としての考えであろうが、演劇界に責任を持つ、という概念を聞いたときには氏の決意の強さを感じずに入られなかった。また、それは日本という国に責任を持つということでもあると。
 もちろんこれは全ての役割を一身に背負うと解釈すべきではなく、演劇界であったり、日本という国に自分の責務を見つけ、その役割を責任をもって果たす。という意味であろう。
 翻って自分のことを考えるが、自分にとっては、福岡の小劇場系地域演劇が最中心部で、同心円の広がりとして、福岡・九州の地域舞台芸術がある。この同心円を拡げれば日本演劇界とも言えようし、日本という国ともいえるだろう。後者の二つについては現時点ではほとんど意識できておらず、一足飛びにその分野を語ることは出来ない。
 福岡の小劇場系地域演劇については、ある種の責任のようなものを感じているに至っている。「福岡・九州の地域舞台芸術」という表現をFPAPの理念としてサイトに掲げる頃から、同心円の色は濃くなりさらに拡がりをみせている。

【セッション4】にしすがも創造舎見学+蓮池奈緒子氏(NPO法人アートネットワーク・ジャパン事務局長)

 にしすがも創造舎は以前(平成17年9月22日)も見学したことがあり、蓮池氏にも取材をさせていただいたことがある。ありがたいことにそのことを覚えていただいていたようで、施設見学の時にもいろいろと言葉を交わさせていただいた。
 にしすがも創造舎については、以前の取材をレポートにしているので、気が向いた方はそちらも参照していただきたい。(http://www.fpap.jp/inform/report/nishisugamo.htm

 ゲストの蓮池氏だが、以前の取材の時とは雰囲気が違っていた。前回はほとんど高崎の飛び込み営業的な感じであり、初対面ということで一定の距離はやむを得ないと思う(というか自然だが)が、今回はfringeの荻野氏がインタビュアーということで、氏のちがったキャラクターに接することが出来た。
 全体として感じられるのは「自信」である。ANJはアート系のNPOでは、国内最大級のNPOであると言われる。その事務局長を務める蓮池氏はにしすがも創造舎の立ち上げから運営、リージョナルシアターの企画運営や、その他各種の事業をおそらくは直轄しており、相当の実績を残しているであろう。
 そのような経歴に裏打ちされた、立ち方というか生き方は、大いに見習いたいものである。
 氏への取材を通して「アートは不公平なもの」という言葉が取り上げられた。これは多様な解釈が可能だ。高崎なりにこの言葉を解釈すると、結果は平等にならないし、時には優劣もつく。しかしこの分野でなんらかの活動をする以上は、自分の才能を冷静に見つめ、他者を妬むようなことがあってはならないというあたりになるだろうか。自分への戒めとして、心に刻んでおきたい。

(この項続く)

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