この記事は2007年3月に掲載されたものです。
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Producers meet Producers 2006 地域の制作者のための創造啓発ツアー/高崎大志が全体を振り返る(2)
●分割掲載です。初めての方は概要から順にご覧ください。
【セッション5】大西一郎氏(ネオゼネレイター・プロジェクト主宰、横浜演劇計画代表、横浜舞台芸術活動活性化実行委員会(SAAC)委員)
東京に近接する横浜で、いかにアイデンティティを確立しているかを取材。
このセッションでは高崎は進行役を務めた。内容についてのレポートは、同じく進行役を務めたFPAPの本田のレポートに譲る。
氏は一を聞いて十を知るとでも言おうか、質問の冒頭の部分だけでこちらの質問の趣旨を汲んで、こちらが聞きたいことを惜しげもなく答えてくれた。セッションの担当を務め、大西氏と50分間もの間、言葉をやりとりできたことは非常に大きい。
また、氏には陽の雰囲気がある。その雰囲気やキャラクターが周囲を巻き込んで、活動を輪を広げていっているのであろうことは、想像に難くない。
今回のセッションでは、以下のサイトの情報を基礎的な情報の一つとして、参考にした。
(参考)ヨコハマ経済新聞
http://www.hamakei.com/special/98/
【セッション6】こまばアゴラ劇場見学+松尾洋一郎氏(青年団制作)
このセッションでは、国内の演劇状況をリードするこまばアゴラ劇場を見学し、青年団制作の松尾氏に取材。高崎も、同劇場の手法についてはなにかと参考にさせていただいている。
こまばアゴラ劇場や青年団の活動については、平田オリザ氏の著書やサイトなどに詳しいため、詳細はそちらに委ねるとして(制作者には「地図を創る旅」オススメ)特に印象に残ったことに絞って書き進めるとする。
松尾氏の話の中で、特に印象に残ったキーワードは「公共性」であり、またそれをかみ砕いた「社会に対して、開かれた」という言葉が印象に残った。民間の劇場であるアゴラ劇場が、各種の助成金を得るにあたっては、この言葉に重点が置かれるのはもっともなことだといえる。
翻って、私どもFPAPのことを考える。FPAPは設立の時からほぼ同時期に公共ホールの運営に携わっている。このため、公共性については特に意識せずに備えている部分があり、この概念に対する考察が足りなかった面がある。アゴラ劇場は民間劇場である故にそれを後天的に獲得した。こういうのは、得てして後天的に獲得した方が、圧倒的に深く考え整理されている。
制作的な団体の運営で印象に残っているのは、劇団内で相当な数のメーリングリストが流通していることである。そのMLは企画ごとに立ち上げられ運営されている。ここで、参加者からの質問もあったのだが、高崎も疑問に思ったこととして「メーリングリストを読まない人もいるのではないか?」というものがある。
松尾氏の回答としては、読まない人もいるので、特に重要な項目については電話などで連絡しているとのことであった。これは、やや意外にも思ったが、制度を運用するのはやはり人なので、団体や構成員などから構築される環境で、現状のやり方がバランスしているのだろう。
あとは、地域の劇団の立場としては、アゴラの夏冬のサミットについて大変興味を持った。出場団体をどのように決定しているかの話は、公表事項なのかもしれないが、ここで詳細にふれることは差し控え、フェスティバルディレクターが大きな役割を果たしていることにふれるにとどめておく。また、アゴラのサミットといえども、情宣活動を一生懸命やらないとやはり動員的には苦戦するとのことである。
しかしセッション11の高野氏の話にもあるが、地域のカンパニーの東京公演で言うと、リージョナルシアターやアゴラのサミットなどなんらかの選考を経た公演の方が足が向きやすいとのこと。当然といえば当然で、やはり地域のカンパニーの東京公演の有力な選択肢であることは動かないだろう。
【セッション7】古元道広氏(燐光群/(有)グッドフェローズ制作部)
各地域の公演において、劇団から見たときの第三者が口コミなどで、知り合いにチケットを売るという行為を重視している。という考え方が提示され、このセッションにおいて、特に印象に残っている。これは、fringeサイト「身内客から一般客へ移行するためのロードマップ(http://fringe.jp/knowledge/k008.html)」でも、鍵となっている考え方で、ここを重視するのは当然といえば当然と言える。
カンパニーから見て、第三者に実際の行動を起こしてもらうためには、応分の熱意が必要であろう。その熱は創作表現が内包するものであろうし、制作者はその熱を冷ますことなく、社会に伝えていく必要がある。
セッションの前に、燐光群の公演を見たのだが、同じ公演を見たセッション11のゲストでもある高野氏が(サイトにも書かれているが)表現の自由というテーマを考えたときに、燐光群の存在は大変重要である。というようなことをおっしゃっいて、これも大変印象に残っている。
【セッション8】矢作勝義氏(世田谷パブリックシアター制作部)
劇団の制作者の経歴を持つ矢作氏がゲスト。このセッションでは主に世田谷パブリックシアターの事業などについて話を聞く。
世田谷パブリックシアターの行う事業の一つに、学校でのワークショップがある。
今では同区のほとんどの学校から、ワークショップの要請があっているとのことだが、当初は演劇を用いた教育を受け入れる学校は少なかったそうで、学校への営業活動も行ったとのこと。教育現場でのワークショップが広まったきっかけとして、キーマンとなった校長先生がいて、ワークショップの効用について周知してくれたという話がひとつ印象に残っている。このようなキーマンとなりうる存在のいる学校から、演劇を使った教育をはじめてみるというのは有効な方法かもしれない。
これは、今回の氏の言葉かどうか記憶が不確かなのだが、酒の場の効用を評価する考え方の提示があった。そういう場が交流を促進したり、ものごとを良い方向にすすめたりするというようなことであった。これは高崎が自分のブログで書いている「コラボ系企画の8割は飲み会からうまれている?(http://sakuteki.exblog.jp/2139504/)」ということとも相通じる話しだろう。
【セッション9】高野しのぶ氏(現代演劇ウォッチャー/ライター)
このセッションでは、演劇ウォッチャーとして注目される高野氏を取材。見に行きたくなる公演の要素として、チラシのビジュアルや、サイトのトップページに公演情報があることなどがあげられた。大企業のサイトでも一押しの製品は、トップページにあることがあるということを引用し、説得力のある内容であった。
氏は観劇する公演の選択に、チケット料金はほとんど考慮しないということであった。けれども地域のカンパニーが東京公演を行うときに、自ずと妥当と思われる幅はあって、そこから外れるのは得策ではないように思われた。
地域のカンパニーの公演は、東京では見られない公演で興味があるが、その全てを見ることは出来ないので、リージョナルシアターやアゴラサミットの公演であると、見に行く確率は高まるような趣旨の話しがあった。また、なんらかの賞をとっているのもプラスに働くようだ。
以上の話しについて、氏は自分個人の考えであることを何度か強調されたように記憶している。見る公演の選択方法はさまざまであろう。だが、もっとも可能性の高いところを掬おうとするならば、氏の言葉はかなり確度の高いモノであろう。
ある識者に言わせると、現在、氏のサイトをみて観劇計画を立てる人も増えてきているとのことである。(高崎も東京に芝居を見に行くときは氏のサイトを拝見させていただいている。)
【セッション10】伊藤達哉氏(阿佐ヶ谷スパイダース制作代表)
このセッションでは、積極的な全国ツアーを敢行する阿佐ヶ谷スパイダースの制作戦略を取材。ツアー公演を視野に入れたときに、連携できる可能性のある地域のリソースとして、プロモーター・演劇鑑賞会・行政・フェスティバルを挙げられた。そして、それぞれの特徴などについて話しがある。
またツアー公演を成功させるために、カンパニーとして公演の位置づけをどのように行っていくのかの重要性が語られた。特に印象に残っていることとしては、カンパニーとして、将来どうなっていたいか、3年後どうなっていたいかをちゃんと考えておく。ということがある。当たり前といえば当たり前だが、この基本的な部分をカンパニーの主要なメンバーで共有していないところも多いだろう。
旗揚げの段階では<どうなりたいか>よりも、<どういうことをやりたいのか、どういうことがやれるのか>を模索している段階なので、舞台表現をそっちのけにして<どうなりたいか>を考える必要はないと思うが、第二回目の公演が終わったときに、<3年後どうなりたいか>の話しをするのは、時期尚早ということは無いだろう。
これは結論を出す必要はなく、構成員の各自が考え始めるきっかけにするという程度でよいと思う。以下のような内容のアンケートを構成員に行い、それをもとにざっくばらんに話す位でよいと思う。(たたき台なので、参考程度に)
- 3年後目標とするカンパニー
- 公演している劇場、他地域公演の有無
- 動員
- 劇団員数
- 顧客満足度(公演のアンケートで数値評価。カンパニーの方向性に合わない場合は、不可)
その他、特に印象に残っているキーワードとしては、「キーパーソンに会う」というものがある。これは他のセッションにも多く共通するキーワードであった。現在はネットのおかげでキーパーソンを特定するのは、比較的容易である。その地域で活動している数人に、「このようなことをしたいのだが、相談できる人はいないか?」みたいに聞き、重複する人から話をしていけばよい。そうしてキーパーソンを見つけ、見つけたらその糸口をつかんでグイグイ引っぱる。このグイグイ引っぱるというのも、多くのセッションで共通するキーワードであった。グイグイ引っぱるためには、なによりも熱意が必要であろう。そしてその熱意は創作表現のクオリティに裏打ちされたものでなければならないだろう。
創作表現に熱があり、それが制作者にも共有されていれば、その熱意は外部の人々にも伝播されていくものだと思われる。
【セッション11】市川絵美氏(ザ・スズナリ主任)
下北沢のカフェ「ericafe」でランチをしながらのセッション。このセッションでは、本多劇場グループの成り立ちなどの話しがあった。劇場も当然地域との関わりの中で存在しているわけで、地域との接点の持ち方や、劇場群の成り立ちの話しなど、興味深いモノであった。
特に印象に残ったのは、道路の拡張などで、移転の可能性も含め不安定な状況にあること。道路の拡張自体は基本的には公益性の高いことで、安易に賛成とも反対とも言い難い。拡張の影響が劇場に及ぶことになるとしても、下北沢の小劇場演劇の活況は、続いていくこと願いたい。
【セッション12】笹部博司氏(メジャーリーグ)
氏の講演録としては、平成9年度福岡舞台芸術講座「舞台を生み出す秘訣」(http://www1.linkclub.or.jp/~hyaku/sasabe/kouza.html)が大変充実しているので、こちらはぜひ一度参照してほしい。この日の話しもこの講演録と重なる部分が多かった。
しかし、これらの言葉を氏の肉声として直接聞けたことは大変大きかった。他のセッションにも共通するのだが、経歴を積んだ制作者からの生の言葉は重みが違うというか、理性を超えて感情の部分まで届いてくる。言葉に熱がある。今回、多くの実績のある制作者の多くの言葉が、自分の感情の部分まで届いてくるという体験をさせてもらった。
これは活字になっている氏の言葉にもあるが、氏はプロデューサーにとって一番大切なのは、「ホンをよめること」と言う。これを自分流に解釈するならば、「脚本を読んだときに、それが舞台化した状態が明確にイメージでき、そのためにどのような演出家、役者を起用すればいいか立案でき、芝居が終わった後の観客の感動する様までよめること。」となるだろうか。
また氏は、そのイメージが人の心を動かすかどうか、ということにも言及する。この日のセッションで言えば、氏の言葉はイメージとなって、たしかに我々の心を動かした。PmPの連日の疲労がもたらしたある種の効用かも知れないが、今回の企画に帯同して本当に良かったと思えた瞬間でもあった。
全セッションを終えて
掘り起こされる。言葉に熱を。
今回の企画、制作戦術の問題として捉えるならば、聞いたこともない戦術や心構えを次から次に教えられるというものではない。これは他の都市から参加している参加者も同じであろう。一定以上に情報収集を行っている制作者ならばどこかで聞いたことがある話が大半であろう。
今回のセッションで何度となく感じたのは、これらの知識や心構えが取材を通して自分の体内から掘り起こされて、明確に現出してくるという感覚である。
知識として知っていたことではあるが、あらためて経験談なども交えながら、語られることでその知識がよりリアルに近い疑似体験を伴った情報となり、自分の過去の知識からさまざまな経験を掘り起こし、その言葉をより深く理解させてくれるのである。制作者としての経験に応じて掘り起こされる内容も変わって来るであろう。その意味では、過去の自分を試される内容であったと言える。
これは各セッションのゲストである制作者やプロデューサーの力によるところが大きい。今回のゲストはいずれも功成り名を遂げのレベルにいる人たちばかりであるが、全てのゲストにはあるいは鋭くあるいは柔らかく「自信」というオーラが常に備わっていた。そのようなゲストの言葉には熱があり、言葉という情報を超えて、当たり前のことでもなにがしかの感動を覚えさせる。言霊といって良いかも知れない。
敢えて今回の企画で学んだことを総括をするならば「そうしようと強く思う」ことに尽きる。この言葉だけでは、なんの変哲もない教訓に過ぎない。今回の企画に参加することで、今回ゲストの方々から聞かされた数々の言葉は、経験に裏打ちされ熱をともなったものであり「腑に落ちた」ものであった。2泊3日という制約された日程の中で、最大限の成果を得たと強く感じる。
現在のITを基軸とした情報化社会において、大抵の情報は居ながらにして手に入る。その利便性の中で、「とにかく会え」という言葉をむやみに信奉するものではないが、今回の企画は「会う」ことで成立するものであり、人に会うという効用を再確認させるものであり、その効用を最大限に活かした企画であった。Producers meet Producersとタイトルされた本企画の狙いに改めて感じ入っているところである。
ゲストからの直接の熱は、今回の企画に参加したものの特権であろう。しかしながらこのレポートを通じ、想像力のある制作者に少しでもその熱が届けられるよう願う次第である。
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