この記事は2001年3月に掲載されたものです。
状況が変わったり、リンク先が変わっている可能性があります。
外部スタッフのギャランティ
外部スタッフの必要性
カンパニーに専属スタッフがいる場合を除き、舞台監督・照明・音響・美術は外部のプロに依頼することがほとんどです。小劇場の場合、学生劇団の学生スタッフがそのまま担当するケースも見かけますが、機材を扱う照明・音響については高度な専門知識がないと感電・火災・故障につながりますので、学外で場数を踏んでスキルを身に着けておくことが不可欠でしょう。不幸にしてそうした自覚がない場合、作家・演出家・俳優などは公演回数と共に成長していくのに、照明・音響の技術がそれに追いつかず、旗揚げメンバーであるにもかかわらず、中劇場クラスに進出する際に交代を余儀なくされることもあるようです。これはカンパニー内に技術スタッフを抱える場合の課題とも言えます。
小劇場演劇の場合、予算的にカンパニー全員で舞台装置のタタキをすることが多いため、舞台監督と美術の仕事についてはある程度わかってくると思います。外部でプロの舞台監督や美術に接する機会も多いと思いますので、そこで得た知識によりカンパニーで仕事を真似ることもあるでしょう。
しかし、誰にでも出来そうで実はいちばん重要なポジションが舞台監督なのです。舞台監督は舞台運営の最高責任者であり、舞台関係の全スタッフを統括する役割を担っています。劇場内でのタイムスケジュールを決定し、限られた時間でいかに安全で段取りよく本番を迎えるかに心を配ります。あらゆる分野の知識を持ち、スタッフ間の調整を図ります。主宰者・演出家・制作者といえども小屋入りしてからは舞台監督の指揮下に入り、舞台監督の許可がないと勝手なことは出来ません。本来は舞台監督こそ最初にプロに依頼すべき仕事なのです。
例えば、美術を舞台美術家以外に任せることは可能でしょう。カンパニーでセンスのあるメンバーが手掛けることもあるでしょう。けれど、いくら素晴らしい図面が出来たとしても、それを実際に舞台で建て込むのは別の次元の作業です。舞台監督は事前に美術と打ち合わせを重ねながら、その装置が本当に仕込み時間内で実現可能なのかを判断し、照明機材や音響スピーカーの支障にならないかを調整します。必要ならば装置のデザインや材質を変更したり、大道具製作の過程で建て込みやすい構造にすることもあります。美術が素人でも、照明や音響のスキルに不安があっても、なんとか本番の幕が開くのは舞台監督がプロだからです。もし、予算面で全員をプロに頼めないとしたら、(1)舞台監督、(2)照明・音響 (3)美術の順で優先度をつけるべきでしょう。
ギャランティの相場
舞台監督・照明・音響の場合、ギャランティは劇場でのオペレーション料+事前のプランニング料になります。照明・音響はこれに機材費が追加されます。よほど機材が潤沢にある劇場を除いて、備品だけで機材をまかなうのは難しいので、その手配はプロが同時に行なうのが普通です。日程上の都合により、オペレーションとプランニングは別の人が担当することもあります。仕込み・バラシは人数が不足しますので、どのパートも増員をかけることがあります。美術の場合は、プランニング料+必要経費になるのが一般的でしょう。
オペレーション料はだいたい相場が決まっています。地域差も若干あり、所属する会社の方針やフリーランスならその人の考え方によって異なりますが、チーフクラスで25,000円/日、助手クラスで15,000円/日~20,000円/日というのが一般的なところではないでしょうか。助手が見習い中である場合はもっと安くなるかも知れませんが、その現場に適した助手を選択するのはチーフの仕事ですから、カンパニー側から指定するのは越権行為でしょう。
オペレーション料はその人を拘束したことに対するギャランティですから、劇場の大小や作業量は関係ありません。明らかに拘束時間の短い場合、例えばバラシのみに増員で来てもらうときは、15,000円~17,000円程度になると思います。
プランニング料は、スタッフのクリエイティブワークに対する対価です。照明ならどのようなライティングにするかを考え、図面を用意し、機材の手配をします。音響も選曲や効果音を考え、素材を集めて録音・編集します。舞台監督はそれらを調整し、装置の転換や俳優の段取りにふさわしい舞台を考えます。いずれも稽古に立ち会い、作品中のきっかけを確認していきます。これが相場というのは特にないと思います。
料金交渉の予備知識
スタッフからきちんとした見積書・請求書が提出される場合は問題ありませんが、小劇場界ではレアケースです。その場合の金額交渉ですが、オペレーション料の相場はわかっても、プランニング料をどうするかが不透明です。機材費は明細の積算で計算するスタッフもいれば、オール込みの金額でというスタッフもいます。経験の少ない制作者にとって、ギャランティの計算は最も頭を悩ませる問題の一つではないでしょうか。ここまでをまとめると、次のようになります。
オペレーション料 | 日当の相場からある程度計算可能 |
プランニング料 | 不明(金額提示されない場合も多い) |
機材費 | 金額提示されない場合は不明(オール込みとなる) |
様々なケースがあるので一概には言えませんが、プランニング料を提示されないということは、金額交渉の余地がかなりあるということです。もし、スタッフがこれだけは欲しいという金額を考えているとしたら、先にカンパニーに提示するはずだからです。小劇場演劇の場合、スタッフもその世界が好きで参加している面が多分にありますので、カンパニーとして本当に予算が苦しいなら、あとは情熱を持って交渉するしかないでしょう。実際、生活のためのギャランティは商業イベントで稼ぎ、小劇場は本当に好きなところとしか付き合わないという人もいます。こんな場合は、そのカンパニーの内容次第でしょう。
私の個人的意見ですが、公演日数が短い場合はプランニング料を厚めにすべきではないかと思います。作品準備にかかる手間は、週末だけの公演でも2週間の公演でも同じです。公演日数の長い/短いは、あくまでカンパニーの都合です。長い場合は日数分のオペレーション料で相当な金額になりますが、短い場合はオペレーション料も少なくなりますので、プランニング料が同じでは割に合わない計算になります。公演日数が短いということは仕込み・バラシも接近しているわけで、肉体的疲労も大きいでしょう。そうしたことに報いるためにも、プランニング料を厚くしたいものです。
機材費に関しては、音響の金額提示と比較して、照明はそれほど細かな請求がない傾向にあるようです。これは音響機材と照明機材の性格の差によるものだと思います。音響機材は精密機器ですから、あまり老朽化したものは使えませんし、故障の際はメーカーへ修理に出す必要があります。そのため、レンタル料金もきちんと体系化され、借りた分だけきちんと支払うような雰囲気が全体的にあると思われます。これに対し照明機材は、古いから廃棄するということが少なく、故障しても普通はスタッフが自力で直します。そのため減価償却が終わっている機材も多いわけで、比較的融通が利くのではないでしょうか。本当は料金があるのでしょうが、スタッフの裁量で自由に使える機材が豊富にあるため、オール込みのような料金システムが成り立つのではないかと思います。つまり、一般的に音響より照明のほうが料金交渉で変化する額が大きいということです。
同じスタッフと長く付き合え
料金交渉をする際に重要なのは、そのスタッフとは今回限りなのか、それとも今後も継続的に付き合うのかという点です。今回限りとわかっているなら、相手もプロですから料金表どおりの金額を言ってくるかも知れません。予算の少ない若いカンパニーには、かなり厳しい面があるでしょう。
これが今後も付き合うとなると、スタッフにも意識の変化が生まれます。舞台スタッフは受注による仕事ですから、オファーがないと成り立ちません。若いカンパニーで最初は充分なギャランティが支払えなくても、今後も担当していく約束が出来れば、年2回程度のレギュラーの仕事が入るわけです。若いカンパニーは成長して公演規模を大きくしていく可能性があります。長い目でカンパニーと付き合い、数年間で帳尻が合えばいいと考えてくれるスタッフもいるでしょう。
いちばん幸せなパターンというのは、若いカンパニーが若いスタッフ(もちろんプロ)と一緒に成長していくことではないかと思います。若くて頼れるプロを探すのは簡単ではないと思いますが、逆にプロの側も共に歩んでいけるカンパニーを探しています。演出家との相性や作品世界の好みなど、ハードルは決して低くないと思いますが、そうしたスタッフと出会えることが出来たなら、ギャランティの問題はあまり発生しないのではないかと思います。そうしたスタッフの開拓は、制作者の大きな役割の一つでもあるのです。