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印刷してからは手遅れ

チラシの誤植が跡を絶ちません。さほど意識せずにチラシ束を眺めていても、シールやスタンプで修正したものを頻繁に見かけますし、誤字脱字はそれ以上にあるでしょう。明確な間違いではなくても、印刷物を作成する上で気をつけておきたいことは多数あります。ここでは、制作者がチェックすべき点を簡潔にまとめてみました。

チラシを印刷してしまってからでは、訂正は事実上不可能です。一枚一枚シールやスタンプで修正していく労力や、修正による信用度の低下を考えると、「印刷してしまったら終わり」という意識が必要です。例えば1万枚程度の修正なら、カンパニー全員で分担すれば可能かも知れません。けれど、公演規模が大きくなって印刷枚数が5万枚や10万枚になっても同じことを繰り返すのでしょうか。絶対に誤植しないという強い決意と、校正時の注意力・集中力が制作者には求められるのです。

そうはいっても、人間に絶対はありません。とんでもない見落とし、どうしてこれに気づかないのかと思える初歩的なミスもあるでしょう。これを防ぐためには、ゆとりのある校正スケジュールと複数の人間による校正が必須です。デザイナーへの入稿や印刷所への下版時間に追われていると、気ばかり焦って集中力を欠くことになります。本来なら一晩置いて、翌日冷静な視点で再度チェック出来るような余裕が必要だと思います。

校正は担当者一人ではなく、必ず複数の人間で行ない、少しでも疑問を感じるところがあったら、カンパニー内の立場や上下関係に臆することなく指摘することが大切です。作家の書いた文章だからといって、誤字脱字がないとは限りません。あなたが新人の制作者であっても、おかしいと思った部分はおかしいと言いましょう。念には念を入れたらいいのです。印刷してからは本当に手遅れなのです。

チラシは、ボリューム的には一枚の紙です。校正すべき量としては高が知れています。冊子や書籍を校正するのはわけが違うのです。本来なら、誤植や誤字脱字はなくてあたりまえ、あるほうがおかしいのです。しかし現実には、著名なカンパニーでも複数の訂正個所があるひどいチラシがあります。そうしたカンパニーは制作者が育っていないし、主宰者も制作者の重要性を認識してないんだろうなと感じてしまいます。

データの確認

冠公演の場合、正しく表記されているか。協賛や助成がある場合、正しく表記されているか。後援、協力などと間違えていないか。
演劇祭参加や主催が別にいる場合の買い取り公演など、充分に注意しましょう。 印刷に間に合わない場合を除いて、助成金を受けているときは表示義務があるのが普通です。こうした基本的な部分で欠落や誤植があると、そのカンパニーは信用を失うでしょう。

会場、日時、料金、電話番号など、絶対に間違いがないことを複数の人間で確認したか。
これらを間違えた場合、単なる訂正や謝罪だけでは済まなくなることもあります。損害賠償になる可能性もあります。

開場時間は載せているか。整理券配布の場合は受付開始時間も載せているか。
全席自由で整理券を受付で配布する場合は、その旨を明記して受付開始時間も必ず載せないと入場順をめぐるトラブルになります。

開演時間がわかりにくくないか。
24時間表記は間違いやすいので、深夜の開演など特殊な場合を除いて12時間表記にしたほうがいいでしょう。日によって開演時間が変わる場合は、直感的に判別出来るタイムテーブルで表現しましょう。

わかりにくいタイムテーブル わかりやすいタイムテーブル

祝日表示を入れているか。
2/11(月)は、2/11(祝)または(祝・月)としましょう。祝日表示は平日勤務の人だけでなく、祝日に関係なく勤務している人にとっても重要な情報です。祝日に働く人は、多くの場合サービス業であり、祝日の来客を意識している職業です。それらの職業は祝日を意識して勤務シフトを組みますので、祝日かどうかはすべての人にとって重要なのです。

電話番号に市外局番はついているか。
東京の場合、03を省略しているものも見かけますが、大阪06以外に2002年から千葉県柏エリア04も誕生し、市外局番を省略することは不適切です。

劇場の電話番号は掲載しているか。
お客様が様々な問い合わせをされることがあるので、劇場の電話番号は必須です。

著名な会場以外は地図を掲せているか。地図は最新のものか。目印となる建物が変わっていないか。北を上にしているか。
北を上にするのは常識です。デザイン重視だからといって、このルールを変えると混乱の元です。

最寄り駅からの徒歩時間を掲せているか。
その会場で行なわれる他公演のチラシを参考にしましょう。

チケットの券種を載せているか。自由席/指定席を明記しているか。当日券の料金を載せているか。前売・当日同一料金なら、その旨明記しているか。入場方法に独自のルールがある場合は、それを明記しているか。
プレイガイドによって整理番号や入場順に差をつける場合は、これを必ず明記しないと入場順をめぐるトラブルになります。

前売開始日を載せているか。
すでに前売中であることを明確にするため、前売開始以降に印刷する場合でも前売開始日は入れるべきです。

チケットぴあ東京は、オールジャンルだけでなく演劇専用番号を載せているか。Pコード(チケットぴあ)、Lコード(ローソンチケット)、アクセスコード(イープラス)を載せているか。オペレーター予約とコード予約がわかるようにし、コードはコード予約番号の横に書いているか。劇場プレイガイドを使用する場合は、記載順に配慮しているか。電話予約のみの場合、それを明記しているか。
劇場プレイガイドを最初に記載するのは劇場への礼儀ですし、劇場側からこれを要求される場合もあります。なお、プレイガイドの記載順は委託条件に応じて並べるとよいでしょう。事前入金などの好条件を出しているプレイガイドを上に持ってくるのは、営業上当然のことだと思います。ローソンチケットのLコード予約は前売開始翌日から24時間受付になりますので、それを明記するのも一つの手です。

《本多劇場を使用する場合の記載例=3/2前売開始》

本多劇場     03-3468-0030(電話予約のみ)
チケットぴあ   03-5237-9999/9988
  Pコード予約  03-5237-9966(Pコード999-999)
ローソンチケット 03-5537-9955
  Lコード予約  03-3569-9900(Lコード99999)[3/3以降24時間]
e+(イープラス) 03-5749-9911(アクセスコード999999) http://eee.eplus.co.jp/

《3/2に特電が設定される場合の記載例》

本多劇場     03-3468-0030(電話予約のみ)
チケットぴあ   03-5237-9888[発売初日特電]
         03-5237-9999/9988[3/3以降]
  Pコード予約  03-5237-9966(Pコード999-999)
ローソンチケット 03-3569-9999[発売初日特電]
         03-5537-9955[3/3以降]
  Lコード予約  03-3569-9900(Lコード99999)[3/3以降24時間]
e+(イープラス) 03-5749-9911(アクセスコード999999) http://eee.eplus.co.jp/

問い合わせ先は載せているか。
携帯電話より固定電話のほうが信頼感が増します。Webサイトやメールアドレスも載せましょう。単なる貸館の場合、劇場によっては問い合わせ先になってくれないこともあります。問い合わせ先として劇場の番号を載せていいか、確認が必要です。

キャストの掲載順、文字の大きさは問題ないか。写真を入れる場合、名前と写真が合っているか。新人、友情出演、改名の場合の(××××改メ)などの表記は必要か。
俳優の格付順に並べればいいとは限りません。主役が先頭なら、準主役は末尾に置く方法もあります。空白行やラインを入れることで格を増すこともあります。カンパニー内は年功序列なのか配役順なのかもコンセンサスを得ておく必要があります。

キャストをローマ字表記する場合、表記方法を本人に確認したか。
ヘボン式と訓令式(「つ」なら「TSU」と「TU」、発音や促音も例外あり)の違いはもちろんのこと、長音表記の好み(「おお」なら「OH」と「OO」と「O」)、独自表記(英語風に「省吾」を「SHOWGO」、「平和堂」を「HEYWARD」にしたり、ミドルネームの使用)もあります。先入観や思い込みは禁物です。

JIS第2水準までにない漢字への対応は大丈夫か。
パソコンで原稿を作成していると、JIS第2水準までしか表示出来ません。それ以外の漢字を使っている場合は、別途印刷所に伝える必要があります。

客演者、スタッフの所属先の掲載方法は問題ないか。
名前の後ろに個別に載せる場合と、協力としてまとめて載せる場合があります。商業演劇になると一切載せないこともあります。フリーランスの場合に(フリー)と明記するのかも確認が必要です。

用語の使い方について、スタッフ本人に確認したか。
装置/大道具、衣装/衣裳、宣伝写真/スチール、制作/製作などです。

協力として掲載する相手先に漏れはないか。順序は妥当か。指定ロゴを使わなくてもよいか。客演の場合、所属カンパニーだけでなくマネジメントしているプロダクションを載せなくてもよいか。
大切なのは、尋ねられたときに掲載基準を客観的に説明出来ることです。明確なポリシーがあることです。

出演しない俳優(劇団員)の掲載はどうするか。
カンパニーによっては、今回出演していない俳優をチラシに載せることがあります。

原稿に機種依存文字を使っていないか。
WindowsとMacintoshは記号の多くに互換性がありません。Windowsで作成した原稿をMacintoshでデザインする場合などは、下記のような機種依存文字に注意が必要です。

機種依存文字の例

機種依存文字劇場 http://apex.wind.co.jp/tetsuro/izonmoji/
TETSURO氏による機種依存文字の詳しい解説

内容面の確認

多数のチラシ束の中で埋没しないデザインか。初見のお客様を惹き付けるビジュアル、キャッチコピーを使っているか。それは本当にデザイナーやカンパニーの独り善がりではないか。
お客様の立場になって、劇場で受け取る厚いチラシ束のことを考えてみましょう。

差別用語を使用していないか。
チラシは情報量が少ないので、その用語だけが一人歩きをしてしまう危険性があり、最悪の場合は上演中止などの問題に発展する可能性があります。台詞で使うのとは意味合いが全く違いますので、慎重に対応する必要があります。

差別や嫌悪感を招くビジュアルを使用していないか。
チラシの配布が拒否されることがあります。例えば、便器のビジュアルのチラシは飲食店では置いてくれないかも知れません。

少しでも自信のない言葉はすべて辞書で確認したか。外国語のスペルミスは絶対にないか。
面倒がらずに辞書を引きましょう。これで長年の間違いに気づくこともあるのです。

コピーに誤字脱字はないか。伝わりにくいメッセージになっていないか。文体は統一されているか。
「ですます体」と「だ体」の混在は文章のクオリティを下げます。動詞の可能表現が「ら抜き」になっていませんか。会話では一般的な「ら抜き」ですが、文章に使うと非常に目立ちます。意図的にやわらかい文体にする場合以外は注意が必要です。

必要な著作権表示が抜けていないか。
既成の戯曲を使用する場合、著作権者が使用許諾の表示を義務づけている場合があります。過去の舞台写真などで著作権表示が必要な場合もあります。歌詞の引用はJASRACの許諾が必要になる場合がありますので、注意してください。

印刷面の確認

用紙のサイズや紙質はこのデザインに適しているか。コスト的に紙質や刷色は問題ないか。特殊加工や特色は本当に必要なものか。
デザイナーと事前に充分に話し合って、納得していることが重要です。

印刷部数は計算されたものか。不足や余りは生じないか。
部数は漠然と決めるものではなく、緻密な配布計画の積算によって決めるものです。

劇場への配慮

印刷前に劇場の最終確認は必要ないか。
提携公演などでは、劇場によって版下の確認を求められる場合があります。

劇場ロゴは指定された大きさ・位置・色で印刷しているか。
劇場によって詳細な指定がある場合があります。

劇場プレイガイドの順番は妥当か。
劇場によっては、劇場プレイガイドを上にすることを要求される場合があります。

劇場とバッティングする広告を載せていないか。
例えば東京グローブ座(松下電器が支援)では電機、全労済ホール/スペース・ゼロでは保険、扇町ミュージアムスクエア(大阪ガス子会社が運営)では電力がバッティングします。

広告主への配慮

印刷前に広告主の版下チェックは受けたか。
広告を掲載する場合、完全版下による入稿以外は広告主による広告部分の版下チェックが必要です。