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これは2001年11月17日に神戸アートビレッジセンターで行なわれた「考える制作ワークショップ2日間~これからの制作~」(同センター主催)のため、事前にメールやFAXで質問を集め、回答集として当日配布したものです。質問は読みやすくするため手を入れ、質問者の氏名や集団名が特定出来ないようにしています。興味ある質問だけを読むのではなく、一つの物語として全編に目を通していただければと思います。

若い制作者とのQ&A(仙台編)
若い制作者とのQ&A(東京編)


Q 私は来年旗揚げするカンパニーの制作の一人です。制作の経験がほとんどなく、勉強し始めたところなので、「ここを聞きたい」と具体的に言えるところがまだありません。このワークショップでは、私たちのようにまだ力のないカンパニーが集客力を高めるためにはどのようなことが必要だろうか、といったことを中心に考えたいと思います。学生劇団などの制作の仕組みにはいくつもの矛盾点があるようです。習慣化してしまっているために、誤りに気づいていなかったり、気づいていても「いまさら変えられないだろう」とあきらめていることもありました。しかし、このままの仕組みを受け継いでいたのでは、私たちのカンパニーは公演を重ねても客層を広げることは出来ません。いつまで経っても身内の観客ばかりという状態のままです。このワークショップを通じ、様々な経験をお持ちの制作者の方々の考えを参考にして、旗揚げまでに出来るだけ改善出来れば、と思っています。

A 大切なのは長期的な目標を持ち、それを仲間と共有すること。そして、その目標を実現するためになにをしたらいいかを考えることです。最初が肝心だと思います。

Q 制作をする人にとっての勉強の場が欲しい。あれば教えていただきたい。

A 実務経験を積むなら、自分が目標とするカンパニーで助手として働かせてもらうのがいちばん。ボランティアの制作者なら、どこも大歓迎だと思います。

Q 一般のカンパニーは広告宣伝費をどれだけ使っているのか。経済状況などもわかるとうれしい。

A 小劇場の場合、使用メディアはチラシとDMがほとんど。あとは費用のかからないパブリシティ(記事掲載)に頼っています。チラシは印刷費だけなら@5円程度で刷れますが、版下作成や折り込みの諸経費を考慮すると最終的に@8円程度になるでしょう。関西で効果を上げるには月1万5千枚は投入が必要ですから、2か月前から折り込むとして3万枚×8円=24万円。DMは封書を広告郵便割引で3,000通出すとして@65.6円。封入物や宛名ラベルを含めて@85円として、3,000通×85円=255,000円。パブリシティ用の郵送料やコピー代に3万円。合計で525,000円ということになります。チケット代3,000円で800名動員するカンパニーの収入は240万円ですから、約22%を広告宣伝費に充てることになります。商業演劇の広告宣伝費は10%と言われていますから、それに比べて非常に多いことになります。

Q 中学、高校などに公演に行くにはどうすればいいか。

A 私は、現在の学校公演の在り方については非常に疑問を持っています。学校公演で生計を立てているカンパニーが少なくないのは承知していますが、どんなに素晴らしい作品でも、無理やり観せるのは逆効果ではないでしょうか。私の周囲には、学校の演劇鑑賞で演劇嫌いになった人がたくさんいます。日本の演劇の将来を考えた場合、学校公演のシステムを見直す必要があると感じています。

(注)これは、選択肢なしで一つの作品を無理やり観せることへの疑問です。読書感想文の課題図書なら、複数の本から自分で選ぶことが出来ます。「選択肢がある」ということはとても大切で、選んだことによる自己責任や、選ばなかったものへの余地が生まれます。学校の演劇鑑賞教室も、なんらかの形で作品選定に児童・生徒が関わるようにすべきというのが私の持論です。

Q 人集めのために必要なことは。気をつけることや使える広告媒体など、人集めに関する意見を聞きたいです。

A カンパニーというのは同じ作品世界を共有出来るかどうかですから、その集団の公演を観たことがあるというのが、人を選ぶ最低限の基準でしょう。旗揚げ前で公演をしていないのなら、充分な話し合いをして価値観の擦り合わせをする必要があると思います。役者ならワークショップを開いて、その中から厳選するべきでしょう。演劇は芸術なのですから、ポリシーやセンスのかけ離れた人とはやっていけません。募集する際も、それが充分伝わるようにしなければなりません。質問にある「広告団体」がなにを指しているのかわかりませんが、雑誌の劇団員募集のことなら、私は情報量が少なすぎると思います。

(注)劇団員募集に関する質問として回答しましたが、集客に関する質問だったかも知れません。

Q どのような営業活動を展開していますか(Web、テレビ、新聞、チラシ)。最も重きを置いている営業活動はなんですか。

A 興行用語で言う「営業」というのは、買取公演やマスコミ出演をお願いするために売り込みに行くこと(またはその行為そのもの)です。その意味では、私がいた遊気舎では営業はしませんでした。演劇祭参加や買取公演は先方からオファーがありましたし、役者のマスコミ出演は所属プロダクションに任せていました。ただ、マスコミに対し郵便物で近況報告をするのは、こまめにしていました。

Q いま社会において必要とされている、または興味のある事柄はなんですか。社会的ニーズを得るためにどんなことをしていますか。

A 興味のある事柄は、当然ながらアメリカ同時多発テロとアフガン情勢です。世界の平和を願っています。社会的ニーズは、特に意識しなくてもメディアや周囲の人間を通じて得られるものだと思います。

Q 制作としてイベントに限らず、劇場やおよそ「売る」ということに関して、全てをプロデュースしていくにあたって最も念頭に置いてらっしゃることはなんですか。

A それだけの価値があるものを生み出すということです。

Q カンパニーという組織のモチベーションの上げ方、求心力の向上のため、施策はどんな方法を用いられているのでしょうか。やはり最後は、イベント収益を目的に経済活動を主体とした会社組織になっていく流れなんでしょうか。

A 進むべき道は一つではないと思います。多様な道をカンパニー自身が選択すべきです。青森県の弘前劇場*1 のように、ほかに仕事を持ちながら公演を続け、全国的に高い評価を得ている集団もあります。

Q カンパニーをプロデュースする手法には、広告会社がやるような専門的な手法が必要なのでしょうか。

A エンタテインメント系で最大公約数の観客動員を目指しているなら、そのとおりです。マーケティング戦略で観客を開拓していけばいいでしょう。アーティスティック系のカンパニーなら、ほかの戦略があると思います。

Q 果たして演劇の制作で生計は成り立つものなのでしょうか。もちろん観客を多く集めれば集めただけ潤うのでしょうが、素人でやれるのか。具体的には一公演のうち、広告宣伝費、ギャランティ、制作費の大まかなパーセンテージの基準があれば教えてください。

A 一般的には観客動員が5,000人を超えると多少の余裕が出て、1万人を超えるとなんとか食べていけると思います。3,000人くらいが中途半端でいちばん苦しいんじゃないでしょうか。もちろんスタッフ・キャストの数や機材の量によっても大きく変わりますので、あくまで目安だと思ってください。収入が発生すると税金の問題が出てきますので、きちんと帳簿をつける必要があります。経理の知識が全くないなら、税理士に相談することも必要でしょう。商業演劇の場合、劇場費15%、文芸費+出演料25%、舞台費20%、広告宣伝費10%、販売費15%、その他制作費15%が大まかな目安だと思います。

Q そこでもう一つ、カンパニーにおけるプロとそうでないのとの区別はどうなっているのでしょうか。いつも我々も公演ごとに料金を取ってますが、「金を取るのはプロになってからでは」と言われることが多いです。いまから突然プロ宣言をした場合、事務所としてのベースを持てばそれでよいのでしょうか。

A この質問は、過去にいろいろな場で議論されてきました。料金の問題は、公演には経費が必要ですから有料にするのは当然だと思います。有料=プロではありません。プロ/アマの区別は、その集団がプロ宣言すれば、それでプロなのではないでしょうか。

Q ターゲットマーケティングの仕方。どうやって自分たちのカンパニーを好きな人を探し出すのか。

A キャラメルボックスの成功事例としてよく紹介されるのが、雑誌『月刊MOE』へのチラシ綴じ込みです。作品内容と読者層が重なるのではないかという読みが当たりました。雑誌はセグメントされたターゲットを対象にしていますので、予算があればいい方法だと思います。いまならWebサイトの活用で、低予算でおもしろい試みがいろいろ出来ると思います。

Q 他地域への公演時の宣伝方法は。

A 手打ち公演の場合、東京なら自力もしくは制作支援の会社が複数ありますのでそこを利用します。他の地方は現地制作か受け入れカンパニーを見つけるのが必須でしょう。

Q 観客動員が増えもせず減りもしないウチのカンパニーのことに、ちょっと相談に乗っていただければと思っています。

A カンパニーにとって、勝負すべき時期や作品というものがあると思います。過去、そうしたタイミングを逃したことはありませんか。演劇祭の動向なども把握して、自分たちの魅力を最大限にプレゼンテーション出来る場を見つけなければなりません。どのカンパニーも決して毎作品が傑作というわけではなく、波があります。芸術面でピークのときに勝負に出る必要があると思います。

Q 所属しているカンパニーで映画を製作したいと考えています。成功するためにはどんなことがキーポイントになると思いますか。舞台表現に携わるカンパニーが、映画製作して成功する可能性についてどう思いますか。お考えを伺いたい。

A 同じ総合芸術でも、演劇と映画では似て非なる部分があると思います。カンパニーとしてなぜ映画製作に挑戦するのか、そのコンセンサスを全員に得ておくことが重要ではないかと思います。成功という言葉には芸術面と興行面があります。芸術面はカンパニーだろうがなんだろうが関係ないと思います。魅力的な作品をつくってください。興行面は自主上映なら、演劇公演同様の苦労があると思います。

Q カンパニーとカンパニー、代表者と代表者などが共同で、シンポジウムやトークを開催するにはどうすればいいですか。どんなことが必要になりますか。

A 最近、こうした企画が東京の小劇場界では増えています。きっかけは1999年にP4が開いた利賀・新緑フェスティバル「若い演劇人のための集中講座」*2 と、それを背景に誕生したメーリングリスト「Back Stage Mailing List」*3 です。それまで東京では小劇場カンパニーが交流する場がなかったので、非常に刺激になったようです。関西は大阪にDIVE、京都に舞台芸術協会があるので、そこで場を持つのが自然だと思いますが、別に居酒屋で親しくなったカンパニー同士がトークショーを開いたっていいでしょう。関西でシンポジウムやトークというと、どうしても著名な方を中心に顔ぶれが固定化されていると思いますが、東京では若手もいろいろ企画しています。積極的に挑戦してください。

Q 根源的ですが、芝居の制作にどこに生き甲斐(やりがい)を感じているか。制作をやってきてつらいことばかりでした。妥協や人間関係で悩んで、片足突っ込んだままでほかのところなどを手伝って、なんで芝居をやってるかがわからなくなっています。

A 制作者がいなければ公演は打てません。他のスタッフ・キャストがいくらいても、それは公演ではなく、ただの芝居です。演劇というライブの表現ジャンルは、制作者がいるからこそ成立していると言えます。こんなにやりがいのあるポジションは、ほかにないのではないでしょうか。あなたがいま苦しんでいるとしたら、公演に値する芝居に恵まれていないか、周囲が制作の重要性に気づいていないのでは。

Q カンパニーのカラーによって、制作はどう変化させるべきなのでしょうか。カラーというのは大まかな言い方ですが、コメディ・古典・社会派など、そのカンパニーの扱う作品の特色という意味で。

A 作品内容より、自分のカンパニーのポジショニングを意識しましょう。重要なのは、最大公約数の観客を集めたいエンタテインメント系なのか、観客を選ぶアーティスティック系なのかということです。前者はチケット販売や物販戦略、後者は助成金獲得が制作上のポイントになるでしょう。

Q プロデュース集団とカンパニーでは、制作の進め方は違うべきでしょうか。カンパニーの場合、例えば俳優個人にファンがつくという可能性があり、そこから出来る制作もあると思うのですが、プロデュース集団だとそれがありません。作品や演出に話題性を持たせるには、どういった方法があるでしょうか。

A ご質問のプロデュース集団の場合、固定した作・演出の方がいるわけですから、純粋なプロデュース公演というより、カンパニーに近いと思います。演劇というのは、作・演出による作品世界の存在が大きいわけですから、その世界に接したいと思う観客を増やしていくという意味では同じではないでしょうか。有名カンパニーになれば役者の固定ファンもいますが、小劇場レベルでは大した動員力ではありません。制作者としては、作品世界を紹介していく気持ちでプロモーションすべきでしょう。公演に話題性を持たせる方法はいくらでもあるんじゃないですか。例えば劇場ではない場所で公演するとか。

Q カンパニー運営にあたって、スタッフオンリーの劇団員(照明・音響・舞美など)が所属している場合、やはり役者との待遇に差をつけるべきなのでしょうか。スタッフの方の場合、カンパニーに所属していなくても結局その人にしてほしいからという理由で頼むのであって、団費等を払わなくて済むよう、退団して活動することも可能だと思うのです。スタッフの劇団員がいる場合は難しいとよく聞きますが、実際はどうなのでしょうか。また他の方はどのようにしていらっしゃるのでしょうか。

A 私は差をつけるべきではないと思います。これは役者でも同じことで、看板クラスの人なら、客演でもいいからその人に出てもらいたいはずです。日本の演劇界では、ギャラはまず役者よりスタッフからという感じですが、欧米では逆にギャラは役者からという国も多いようです。気を遣う必要はないと思います。そんなことより、スタッフの場合は外部の仕事を引き受ける場合も多いと思いますので、そのマネジメントをきちんとしてあげることが重要でしょう。それが信頼感を生むと思います。

Q 制作がお客さんの好みを調査して、お客さんの好むような芝居をつくってもらうというように、制作が演出に関わることはバランスとして許されるのでしょうか。

A 制作者がプロデューサーとして作品のテーマやモチーフを提示し、それに基づいて作家がホンを書くことは一般的だと思います。テレビドラマや映画では台本の隅々にまでプロデューサーの意見が入り、書き直しされています。ただ、これをするためには制作者が作家と対等以上の関係にないといけませんし、意見自体に説得力が必要です。補足ですが、質問にある「お客さんの好みを調査して」つくった作品がおもしろいとは思えませんけど。感動というものは、相手の好みを裏切るところから生まれるんじゃないでしょうか。

Q 人に知ってもらうには、どうしたらいいですか。

A 目立つ宣伝をすれば存在を知ってもらうのは簡単ですが、それと実際に劇場に足を運んでもらう行為はまた別でしょう。

Q ただ単に時間を費やしたからといって、いいものが出来るとは限らないですよね。でも、時間が無いのも困りますよね。適度な時間とは、どのようにして出していくものなのですか。

A これはどうでしょう。アイデアそのものは時間とは関係ないと思いますが、それをブラッシュアップしていくのは普通は時間と比例するんじゃないでしょうか。台本でも時間をかけて推敲すればするほどよくなるんじゃないですか。時間の許す限り、ギリギリまでねばればいいと思います。

Q 最後に、制作者にとって演劇とはなんですか。

A 個人的には、これほどおもしろい表現ジャンルはないと思っています。作・演出や役者の中には、「映画やドラマが出来ないから演劇をやっている」という人もいますが、制作者にとってはライブが宿命の演劇だからこそやりがいがあるのです。

若い制作者とのQ&A(仙台編)
若い制作者とのQ&A(東京編)

  1. サイト終了のため、Internet Archive「Wayback Machine」(2014年12月18日保存)にリンク。 []
  2. サイト終了のため、Internet Archive「Wayback Machine」(2002年12月19日保存)にリンク。 []
  3. サイト終了のため、Internet Archive「Wayback Machine」(2002年4月4日保存)にリンク。 []