この記事は2003年7月に掲載されたものです。
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京 チラシアートワーク指南/第4回校正!校正!校正!(3)
●分割掲載です。初めての方は「はじめに」から順にご覧ください。
英語は飾りではなく
言語情報
――英語を使っているチラシでは、達者な方が見ると腕組みしたくなるものもあると思いますが、京さんの目から「この英語はなんだ」というものはありますか。
すごくありますね。いくら日本でまかれているものとはいえ、世の中にまく以上、誰の目に触れるかわからないものだから、スペルチェックするなり、わかる方に書いてもらうなりするべきです。英語は飾りではなく言語情報ですから。とは言いつつも、逆に正しい英語を使ったがために日本人には伝わらないケースというのもあって、その判断は難しいですね。例えば「問い合わせ先」をそれに代わる英語にしたい場合、「information」「info」「contact to」など、いろいろ書き方があるじゃないですか。判断の基準はそれがどこまで浸透しているかなんですね。「contact to」に不安を感じるなら、日本語を並記するか、「information」と書いたほうがいいわけです。英語としては間違っているけれども、日本で浸透しているならそれはそっちを使うべき、とも思います。
あと、デザイナーがデザイン要素として英語を取り入れる場合もあるとは思いますが、意味もなく多用するケースは危険だと思います。本当はデザイナー側でスペルチェックして正しい英語で出すべきなんですけど、完璧ではないケースもあると思うので、制作者の方は注意すべきです。
――例えばタイトルナンバーを「2nd」「3rd」と書くべきところを、「2th」「3th」にしてしまうとか。
それは寒いですね。完全に模様になっているような英文は、間違いがあっても気づく人は10人に1人かも知れないけれど、情報要素として英語を使っている場合に間違っているときは、ひたすら恥ずかしいです。いまはワープロでもスペルチェック機能が付いているわけですから、制作者もデザイナーでも、人前に出す前に責任を持ってチェックしてほしいです。
コンピュータを扱う危険性を
感じながらやらないと
――文字校正の手順ですが、具体的にはどうされていますか。
希望としては手渡しを基本と考えています。なかなかスケジュールや距離的な問題でそうもいかないので、FAXやメールを利用することも増えています。FAXの場合は拡大してA4に収め、それをプリントアウトして送っています。受ける側のFAXがA4までの場合も多いので、B4にはしません。原寸と分割したもの、文字要素が少なければ130%、多ければ150~180%に拡大します。背景画像の上に、白抜き文字の場合は画像を外して文字部分だけを反転して、スミ文字にして出します。画像と組み合わせた全体像の確認のために、PDFやJPEG画像と組み合わせて送ります。
――非常に細かい部分は、もっと拡大しますか。
もちろん、200%でも300%でも大きくして見せます。
――データ部分の小さな数字は本当に神経を遣います。FAXだと潰れて判読出来ない場合があり、デザイナーに電話して超拡大して再送してもらったりしましたが、最近はPDFが主流になってきたのでは。
PDFは受け手側の慣れ不慣れがあるので、やっと最近使い始めるようになりました。いったんアウトライン化したものをPDFにして、受け手側がわかる人であれば送るケースも出てきました。色味確認のためにスクリーンショットを取って、PDFやJPEGで見てもらったり、文字確認は拡大FAXを送るとか、いろいろメディアを駆使しています。
――私の経験したミスでは、文字校正ではOKだったんですが、文字レイヤーの上に画像レイヤーが重なって、最終出力で文字が見えなくなったケースがありました。校正紙として、文字レイヤーだけを出力したものを送ってきたんですね。
デザイナーがコンピュータを扱う危険性を感じながらやらないと、起こりやすいミスです。なるべく完成形に近いものでやりとりしないと。これは制作者の方に言うべきことではないと思いますが、いったん完成形をつくったら、それをコピーして、送るものはそれを加工する。用が済んだものはちゃんと捨てて、なにか修正するときは元の完成形に戻るという基本を間違えちゃいけないですね。
――今後はPDFを積極的に活用されていきますか。商業印刷の世界では、もうほとんどPDFだと思いますが。
相手次第ですね。もちろんネットで完結したほうが楽なので、活用したいです。紙のムダも省けますし。
一枚のデザインに収まったときに気づくことを
ガンガン言ってほしい
――カンパニーから戻ってくる校正紙はわかりやすい指示でしょうか。
これも慣れている方とそうでない方がいます。慣れていない方には、メールで書く場合はこういう風にしてほしいと指示する場合もあるんですが、別に校正記号の知識がなくても、明確になにをどう直すかをわかりやすく書いていただければ、大丈夫だと思います。「ここがわからない」「これ変」というような曖昧な書き方ではなく、具体的にこう直すという指示を明瞭に書いていただきたいです。
デザインに関する部分はFAXやメールでは難しいので、直接会ってお話ししたほうがニュアンスも伝わります。どうしてそうしたいのかも言ってほしいですね。単に「大きくしてください」「位置を変えてください」ではなく、「この役者さんの顔がもう少し見えるようにトリミング位置を調整してください」「日程をもっと目立たせたいので位置を変えてください」のほうが、意図がわかります。そうすれば私のほうも「だったらこういう案もあるんじゃない?」と提案出来るので、ちゃんと意図を添えて説明してほしいです。
――スケジュール的に校正にはどのくらいの時間をかけることが可能ですか。
私は依頼を受ける段階で完全にスケジューリングします。「校正に何日要りますか」と聞いた上で、全部逆算するんですよ。カンパニーで校正する人が3~4人いて、その人たちのスケジュールも全部把握すると、1日では返せなくて2日取ってくださいというケースもあるだろうし、その中の1人が地方へ行っているので4日取らないと無理だとか、それぞれの事情を全部聞いて、校正・再校正の日程を頭に組んじゃいます。それはカンパニーや公演の規模が大きいほどそうで、サミットでは特にそうですね。やっぱり人間ですから最初から完璧なわけではなく、一枚のデザインに収まったときに、他の劇団の情報と比較して気づくことってあると思うんです。そういうことをガンガン言ってほしいので、そのために校正と修正の時間をとらなきゃいけないなと思っています。
私は通販時代に雑誌のタイアップ広告の校正も担当していたんです。自分が出した情報なんですが、そういったことを一切忘れて、自分を疑って死に物狂いで20ページの記事を最低3回は校正しました。客観性が失われそうだったら声に出して読むとか、同じ日にやらないで翌日にもう一度見たりとか。それを校正、再校正、再々校正の3回繰り返してましたね……。
――そうした理想的なスケジュールでやっていても、やっぱり押す場合もあるんですか。
私がデザインに詰まっちゃったとか、何日にくださいと組んだスケジュールに情報が来なかったとか、押す場合はあります。そうなると、本当は避けたいんですが、その日に校正を戻してもらうこともあります。いくらスケジュールが押したからといっても、直しが入ったらその反映を確認してもらうことは徹底したいと思いますが、それでもたまに責了で行ってしまうことがあります。
――校了後に発見した誤植はどの段階まで直せるのでしょう。昔は青焼きというステップがありましたが、CTPだとどうなるのでしょう。
もちろん印刷機が回りだすまでは直せるはずです、理論上。実際には、フィルムを出す場合には、色校正で見つかるとフィルム出し直し+再校正料金が発生します。CTPの場合では、4C本機校正だと1万円程度の再校正料金がかかります。下版してしまうと、あとは印刷所のスケジュールですから、実質的に訂正可能なのは私が印刷所へ入稿するまでです。「今日の午後4時に入稿します」という場合、前日に校正を全部済ませて、入稿用のデータを整理するだけですから、当日の午後3時ならなんとか直します。
――誤植とは別に内容の変更があると思います。例えば出演者が変わったり、スタッフが一人増えたりする場合です。レイアウトに影響ある場合とない場合とで、直せる段階に差がありますか。
いちばん大事なのは間違いのないチラシをつくることですから、どんな場合でも直せる場合は直します。変更の可能性がある場合は、前もって言っていただければ、レイアウト上融通が利くようにしておくことも出来ます。もちろん予測出来なかったことでも、対応すべき変更ならば印刷納期を遅らせてでも、どうするべきか最善の選択肢を考えます。
――万が一、印刷後に誤植が発見された場合ですが、どのような対処が考えられますか。デザイナーの立場からアドバイスをお願いします。
選択肢はシール、スタンプ、手書きなどがあると思います。あとはコストとスケジュールの兼ね合いでどれがいちばん適切なのかを考え、カンパニーで協力してやるしかないでしょう。5万部ならばコストをかけてでもシールを刷ったほうがいいのか、3万部だったら手書きで間に合わせたほうがいいのか。コストと効率を考えての判断になるでしょう。
――手書きはデザイナーとしてイヤじゃないですか。
シールだってイヤですよ。本当は刷り直してほしいです。誤植のあるチラシはつくらない! 原因を追求して、もし印刷屋のミスなら刷り直させるし、私がやってしまったとして、私に余力があればカンパニーに対して申し訳ないから、「DMで送る分はこういう修正にして、外にまく分は刷り直しましょう」とか、いろいろ提案させていただきます。カンパニー側のミスだとしたら、私としては泣き寝入りというか、「どうにでもして!」という感じですね(苦笑)。相談を受けたときは一緒に対応を考えますけど。
――色校正ですが、2回以上出すことがありますか。先ほど1万円という料金が出ましたが、思ったほど高額ではない感じも受けます。
それでも全体予算の中で考えると、なかなか予算的に2回出すことはないですね。見積もりに1回分までは入れてカンパニー側に提示しますが、2回以上は最近ないです。写真をアタリで入れて、色分解を印刷会社の責任でさせている場合は、希望の色が出ない場合は何回でも色校正させますが、こちらで色味を決めて完全データ入稿している場合は、そのとおりに出力してもらって色が合わなくても、こちらの責任ですし。
――誤植をなくすために、制作者にメッセージをお願いします。
チラシでも当パンでも、入稿のルールは守っていただきたいです。広告を入れる場合に、広告主からデザイナーに直接情報を送らせるとか、劇場に校正を出さなければいけない場合に、デザイナーが直接送って校正指示を受けたりとか……やめてほしいです。どんな情報であっても、必ず制作者が中心で窓口になって、全部把握してください。そうでなければ責任ある校正なんて出来ない。劇場とデザイナーが直接やりとりした部分については私は関係ない、というわけにはいかないでしょう? 外部とデザイナー直結のやりとりは絶対に避けて、制作者を通すべきだし、そういう安易なやりとりをさせる制作者はダメですね。逆に制作者を通さないデザイナーには怒っていいですよ。当パンに載せる客演の今後の予定などを、個々の役者さんが私に直接送ってこられることもあるんですが、お願いだからやめてほしい。情報をすべて把握すべきは制作者だけです。それは徹底してお願いしたいです。もし、どうしてもスケジュール的に直接送らなければ間に合わない場合は、必ず制作者にCCして共有すべきです。
サミットでは、運営プロジェクトチームに劇団主宰者や私が参加していたので、意識しないと線引きが曖昧だったんですが、だからといって参加劇団の立場で、「サミットロゴデータ送ってください」とか「情報直してください」とか、そういう依頼を運営サイドを通さずに私にだけ直接送られたりすると、怒り狂いましたね。すごい怖い人になってました(苦笑)。厳しいようだけど、筋は通さないと、なにかあったときに責任問題が曖昧になってしまいますから。
あとはやはり余裕のあるスケジュールが大切ですね。今回、タイトルが「校正!校正!校正!」なんですけど、副題で「スケジュール!スケジュール!スケジュール!」と付けたいです。
――とにかく公演データの間違いは、世の中から一掃したいですね。「印刷したら直せない」という意識を強く持ってもらいたいですね。
一度、痛い思いをすればいいんです。それがどれだけ他人に迷惑をかけるかということを。
――小さいカンパニーだと、間違えても迷惑をかける人が少ないから、痛みを感じないんじゃないかな。だから直らないという悪循環のような気がします。今日は貴重なご経験もご披露いただき、非常に参考になりました。ありがとうございました。
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