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京 チラシアートワーク指南――チラシづくりとは、情報を操作すること。
第1回デザイナーとのコミュニケーション

●分割掲載です。初めての方は「はじめに」から順にご覧ください。

デザイナーにとって
印刷所を変えるのはヘアサロンを変えるようなもの

――京さんの場合、印刷手配まで引き受ける場合が多いですか。

多いです。80%がそうですね。

――カンパニー側が印刷を手配する場合、色校正は大丈夫ですか。

やっぱりトラブルの可能性がありますね。自分が使っている印刷会社のほうがフットワークも速いですし、慣れていますから。使っていないところにお願いする場合は、その分の時間を見ます。色校正もケースバイケースで、時間がタイトなときは私が印刷会社に出張校正することもあれば、カンパニー経由で届けてもらうことや、2か所に送ってもらうこともあります。

――私が携わっていたカンパニーの最後の時期は、印刷費が安いということで、カンパニーは大阪、印刷会社は香川、デザイナーは東京という状態で、宅配便で色校正を回していました。

色校正を戻して、再校正出せるのかというリスクを見ておかないといけないですね。デザイナーにとって、印刷所を変えるのはヘアサロンを変えるようなところがあるから、ちょっと勇気は要りますね。私のほうでの手間暇がかかってでも、クオリティを保証する意味で、出来れば私がやっているところにやらせてくださいと言いますね。

――その場合の印刷費の支払いですが、それもデザイナー経由で払うのでしょうか。それとも印刷会社から別請求になるんでしょうか。

私は全部込みでお受けしちゃうんですけど、大変です。定収入があるわけではないので。あまりに長期に及んで額がかさむときは、この時点でいったん締めて請求させてくださいということはあります。

――印刷会社の選択ということで言いますと、制作者にとって重要なポイントとして、印刷の終わったチラシを長期間倉庫に置かせてくれるかというのがあるんですよ。例えば10万枚刷った場合、一度に制作者の自宅に送られても置き場に困ります。何度かに分けて納品してもらえる印刷会社を選びたいというのが実感です。

それは考えたことなかったですね。7?8万枚まで印刷したことがありますが、アゴラ劇場やネルケプランニングなら一度に入ってしまいますし、制作者個人の家にその枚数を納品したことははないですね。

――たぶん、劇団員の家に分散して置くしかないと思います。中にはベランダに置くという話も聞きますよ。

えー、ちょっと紙ですよ。それは保存状態がよくないなあ(苦笑)。


なにも決まっていなくていいから
スケジュールを押さえるためだけに半年前に会ってほしい

――余裕のあるスケジュールとは、具体的にどの程度のスパンを考えていますか。公演のどのくらい前から、最初のお話がスタートすべきでしょうか。

最低3か月前と言いたいですね。2か月前にチラシがないといけないですから、どう考えても3か月前で、その時点で素材が全部揃っていないと。理想を言うと半年前、まだタイトルも決まってなくていいから、スケジューリングのために会っていただけると。

――半年前なら直近の公演を観てもらうことも出来るかも知れませんね。実際、半年前に言ってくるカンパニーはありますか。

ないです。まあ、継続してやっているところは、タイトルが決まってなくても小屋を押さえた時点で教えてくれるじゃないですか。それが現状でいちばん早いです。

――逆に、ものすごくタイトなスケジュールでどうしてもやってくれと言われた場合、どのくらいで納品出来るものなんですか。

それは最悪のパターンですね。(過去の手帳を見ながら)これは二度と嫌なんですが……入稿半月前を切ってお話をいただいたときに素材が揃ってなくて、「写真が今週末に上がりますので来週半ばに2案」が最悪でした。これは相当きつかったです。そういう時間のなさはクオリティに影響しますね。

タイトなスケジュール実例(入稿日基準) ※こんなことは二度とやりたくありません。
宣美依頼 半月もなかったと思います。
初回ミーティング・メイン写真受け取り -7日
テキスト原稿 -6日
宣材写真受け取り -4日
プレゼンテーション(2案) -2日
入稿 0日

――依頼する側はそれだけ時間があれば可能だと思うのかも知れませんが、デザイナーにすればほかの仕事が入っているかも知れませんし、旅行に行くつもりかも知れないし、思惑どおりにはいかないですよね。

それはありますね。個人で仕事を受けているので、不定期に入ってくるものもあり、全部手帳を見せて話します。「こういう予定なんで、ここまでに素材を集めてください。そうでないとちょっと無理です」「この日に作業しますので、ここでもらわないと遅れた分はそのままズレこみます」と少々脅したり(笑)。そのあたりは理解していただいて、無理繰りでもお願いしていますね。だからこそ半年前は難しくても、3か月前、4か月前に言ってくれれば、私も予定を調整しながら写真を撮る時期も指定出来ます。

――だから、タイトルもなにも決まってなくていいから、デザイナーとはスケジュールを押さえるだけのために半年前に会いましょうということですね。

そうです(キッパリ)。ぜひそうしてください。前もって言ってくれれば、動くべきときが来たらこちらからも「どうなってますか」と催促出来るし。

――納期で注意すべき時期ですが、年末年始やゴールデンウィークなどでしょうか。12月は印刷需要が増えて納期が遅くなると聞きますが。

要は印刷会社が閉まってしまえばなにも出来ないので、通常の会社の休みと同じです。私が印刷まで受けている場合は全部言いますが、年末、ゴールデンウィーク前、お盆前は通常なら1日で色校が出るものを中2日かかるとか……。4月からの印刷物で年度末も込みますね。

――そうなると、やはり公演4か月前にデータや素材を揃えるべきで、小劇場界の現状では難しいでしょう。

大枠のコンセプトがあればなんとか走ります。表面に入れる文字情報、タイトルや公演日時は欲しいですが、裏面のデータは遅れても大丈夫です。それで表面は走っておいて、裏面の情報が全部揃うのは入稿の3週間前ですね。もちろん、その仕事だけにすべての時間を割いているデザイナーならもっと短く出来ますが、あんまりやりたくないですね。

――打ち合わせの時間帯ですが、日中は働いている制作者の場合、どうしても週末や平日夜になってしまうと思いますが、それは迷惑ではありませんか。

いや、むしろそのほうが多いですよ。それが当たり前だとこちらも思っています。

――打ち合わせ以外に、日ごろのお付き合いは必要でしょうか。

稽古を見に行きたいですね。芝居が実際に立ち上がってくる段階で、チラシにはもう反映出来ないですが、当パン(当日パンフ)を担当する場合は出来るだけ反映したいなと思います。あとはみんなでつくっていくものなので、飲みに行ったりとかね(苦笑)。そうした中で先々の予定が聞けたりもするので。


ロゴマークは
同一のものでなければ意味がない

――京さんは契約書を交わされていますか。

口頭ですね。言った言わないにならないよう、メモはしておきますけど。一般の仕事ですと御見積書を出して、それを了承していただいて進めます。対カンパニーだとそれも出さないで、口頭だけのことが多いです。

――口頭だけだと、初めてのカンパニーと付き合うのは不安じゃないですか。

全くギャランティの話なしに進めるのは、さすがに嫌ですね。口頭でも決めておきたいです。こちらが御見積書を出しておくこともします。幸い、それで踏み倒されたことはないので(笑)。今後は契約書ではないにしても、書面に残る形で明確にしておくほうが仕事はやりやすいでしょうね。

――支払方法は京さんから請求書を発行するのですか。

いつの日付で発行しましょうかと訊いてから発行します。相手の都合で請求書を分けたりもします。

――チラシの著作権は難しい問題だと思いますが、どのようにお考えですか。

チラシそのものはカンパニーのものでしょうが、その中の素材はそれぞれの作者に帰属すると思います。DTPデータは財産ですから、私のほうで永久保存します。劇団側がロゴを買い取りするときはありますが。私がつくったタイトルロゴに変倍をかけてカンパニーが使ったり、雑誌に掲載するのはやめてほしいですね。サミット(こまばアゴラ劇場)のロゴもちゃんと色指定や注意事項を清刷してるんです。ロゴを変形されるのは耐えられないです。わからない人は感覚的になんの抵抗もないんでしょうが、事前に相談してほしいですね。

――チラシを目的外に使用する場合も考えられますね。

デザイン年鑑などに載る場合は、デザイナーの名前も当然載りますので、その場合は声を掛けていただかないと。デザインという切り口で名前が載るときはやはり声を掛けていただきたいです。情報誌などに公演情報としてなら別に構わないです。過去の公演情報として載せる場合は、事後でいいから知らせていただければうれしいです。単純に見たいので。

――仮にチラシの表面デザインを、無許可で物販パンフレットに使われたらどうしますか。

それは使用料を払っていただかないと。タイトルロゴなど私がつくったパーツを使う場合、例えば当パンを私以外の方がやる場合も、事前に見せていただきたいです。

――企画書や当日パンフにありがちな事例ですが、制作者が自分のパソコンにインストールされているフォントを使って、タイトルロゴと似たような文字を組んでしまうこともあると思いますが。

それはロゴじゃないですよ(苦笑)。同一のものでなければ意味がないですから。そういうことはするなと。企画書はまだ目をつむってもいいけど、観客関係に渡るものは……。


本当はチラシ以外の印刷物も
全部デザインしたい

――カンパニーは言われないとわからないですからね。注意事項を渡しておく必要があると思いますが。

本当はチラシ以外のものを全部やりたいんです。いまはチラシだけ、公演当日までのものすべて、チラシ+当パンという3パターンですね。チラシと当パンの制作時期はだいぶ空くので、まずチラシをやっておいて、「チケットの売上状況を見て、当パンをお願いするかどうかをこのラインまでに決めます」という依頼もあります。

――チラシ以外の印刷物をお願いした場合、ギャラが上がってくると思いますが、ポスターはどうなんでしょう。デザイン的にはチラシとほとんど同じですから、わずかなアップで済むような感覚があるのですが

ポスターはそう思われがちですが、物理的に扱うデータ量が倍以上になるので、手間暇的にかかります。最初からポスターをつくるのがわかっていれば、写真をデータ化するのでもポスターサイズでスキャニングするのですが。レイアウトも2倍拡大すればポスターになるかというと、全然違います。紙の大きさが違うということは、人の目に見える文字の大きさも違います。手に持って見るチラシと貼って見るポスターとでは、読める文字が全く違うので、一からデザインするようなものです。

――ポスターは、作品としてデザイナーもつくりたいという気持ちが強いのではありませんか。印刷代も非常に安価になりましたし。

いまポスターは少ないんですよ。当日劇場に貼る分を、手持ちのプリンタで出力して切り貼りするくらいで。デザイナーとしては、グラフィックのコンペティションがポスター単位なので(チラシでは応募出来ない)、魅力なのですが。印刷はCTPオフセットで、10枚のオンデマンドでもちゃんとしたクオリティが出せます。

――最後に、デザイナーに印刷物は記録用として何部進呈したらいいか教えてください。

私は最低30枚、出来れば100枚ください。刷り出し部分はつらいので、(インクが)安定した後ろのほうで100枚がいいかな。過去にイラストの特色遣いで、ベタではなく網を敷いたときにすごい違いが出たことがありました。

――ありがとうございました。

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