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京 チラシアートワーク指南――チラシづくりとは、情報を操作すること。
第4回校正!校正!校正!

●分割掲載です。初めての方は「はじめに」から順にご覧ください。

校正のときは
世の中全部敵だと思って見てください

――京さん自身が手掛けられたケースをお聞きしましたが、これまで耳にされた外部の事例で、すごいものとかありますか。

最近見たものでは、複数団体が参加するフェスティバルで団体名をスラッシュで区切って表記しているんですが、某若手カンパニーの団体名の途中にスラッシュが入って、2団体のようになっていました。見たときは「えーッ」と思いましたね。他にも公演回数の表記で「第×回」「Vol.×」がバラバラに混在していたり、スペルが間違っていたり。

――私がすごいなと思ったのは、小劇場系の著名な演出家が外部公演を演出したときのチラシで、2文字の名前を間違えて1文字で印刷しちゃってるんです。例えば「日光」とすべきところが、「晃」になってるんですね。原稿が縦書きだったのかも知れませんが、これには驚愕しました。最近では、小劇場系で古典になりつつある名戯曲を上演した団体のチラシが、こともあろうにその劇作家の名前を誤植して、シールで修正していました。好きで選んだ戯曲の作者を間違えるなんて、信じられないです。公演する資格ないですよ。

失礼にも程があるレベルですね……。これは恐らく前の公演のデータを流用してしまったせいだと思いますが、タイムテーブルで公演月が間違っているものを見ました。6月の公演なのに、11月になっていました。東京でけっこう著名な若手カンパニーなんですが……。

――本当に悲惨な状況ですね。

カンパニーの規模が大きければ大きいほど、かかわるスタッフの数も増えるわけですから、いろいろな情報をまとめないといけないわけです。本当なら刷る前に、スタッフ全員に回してほしいぐらいの気持ちがあるわけで、とにかく一人ではなく複数人でチェックしてほしいです。私のほうからそうお願いしています。校正を何回出そうとも、少なくとも主宰者と制作者の2人には毎回見てもらいます。

――究極の対処法になりますが、本チラシを刷り直した実例はご存知ですか。商業演劇などで公演内容が変更になって刷り直したというのではなく、小劇場系で刷り直したというのは。

……あります。つい最近ですけど、複数の公演情報が載っている情報量の多いチラシで、新しい試みだったせいか進行がうまくいかなかったようで、いくつも誤植があり、しばらく正誤表を付けていましたが、刷り直すことになったようです。

――私は最近東京で2例ほど知っています。一つはプロデュース公演で出演者が大幅に変更になったもので、これはやむを得ないという感じの刷り直しでした。デザインも変えて、刷り直しであることを意図的に知らせようとしていました。もう一つはすごい実例なのですが、団体名を間違えて刷り直したものを昨年見ました。まさかカンパニーの名前を誤植するとは考えられないので、わざと名前を変えたのかと思っていたんですが、あとから刷り直した正しい名前の本チラシに差し替えられました。カンパニーを英語表記している団体のスペルミスなんですが、主催公演で団体名を間違えたチラシは前代未聞です。

(2枚の本チラシを見比べながら)すごいですねえ……(絶句)。表面と裏面、両方間違ってますね。

――劇団員が自分たちの団体名を間違えることはあり得ないので、デザイナーが間違えたとしか思えないですね。これは想像ですが、デザイナーが打ち間違え、しかも校正をFAXでやっているので、文字が潰れて間違いを発見出来なかったのではないでしょうか。

デザイナーが自分で打って、コピー&ペーストしたんでしょうねえ……。タイトル周りの文字組みをつくっているときに、打ち間違えたんでしょう。間違えた文字は、キーボードの位置的にも近いですから。

――こういう例を見ると不安になります。デザイナーにテキストデータを渡しても、それがそのまま使われるとは限らないということでしょうか。

私が制作の方に校正を渡すときには「ひとかけらも私を信用しないで、一から疑ってみてください」とお願いしています(笑)。もっと言うなら「あなた自身も信用しないで、一から見てください」ということです。世の中全部敵だと思って見てください。そのくらいの気持ちで揚げ足を取ったり、重箱の隅をつついてほしいです。


お客さんに「不可」という
書き方はいけない

――校正とは別に校閲という概念があると思います。校閲というのは、文字そのものは間違っていないけれど、一般常識に照らし合わせておかしいという場合ですね。京さんの側から、そういう面を指摘されることがありますか。

相当あります。サミットのチラシをつくる際に、様々な団体が参加するため、料金表記や席種の書き方が全然統一されてなかったりするんです。そうした疑問点を制作者サイドに戻したメールがこれです。

【料金】前売\3,000 当日\3,500 2演目 共通券¥5,500- (当日扱い無し)
    ※日時指定自由席

【料金】日時指定 前売\3,000 当日\3,500
    (××××+××) セット券\5,500(前売のみ)

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【料金】前売\2,200 当日\2,500 セット券\5,000
    *セット券に関しての詳細はお問い合わせください。

【料金】前売\2,200 当日\2,500 (××××+××××) セット券\5,000
    ※セット券の詳細はお問合せください。

(2002年5月9日の京→サミット実行委員会のメール本文より抜粋)

ほかにもあります。関連企画としてワークショップがあって、「20名限定」と書きながら「応募者多数の場合、回数を増やす予定あり」とあるんです。これは応募者多数のときに、応募者だけに知らせればいい情報ですよね。チラシに書いてもあまり意味がないわけです。アフタートークもいつあるかわからない。そういったところを、こうしたらいいんじゃないかと逆に提案しました。

【関連企画】
・14 (日) 14:00~16:00 ワークショップ
参加費\3,000 (20名限定)
-応募者多数の場合、回数を増やす予定あり
・公演終了後、アフタートークあり

・回数増やす、は増えたら応募者に連絡すればいいのでは?
・アフタートークは何回?

(2002年5月9日の京→サミット実行委員会のメール本文より抜粋)

こちらは割引料金表記の例です。高齢者特別割引料金を設定した団体があるんですが、「詳細はお問合せください」になっていると、いったい何歳からなのか、問い合わせないとわからない。これって決め事ですから、最初から書かないと問い合わせの手間暇を増やしてしまうだけですよね。もっと言えば、「年齢のわかる証明書をご提示ください」と書いたほうがいいですね。そういったことは、気づけばどんどん言います。

【料金】前売\2,500 当日\2,800
高年者特別割引料金あり。詳細はお問合せください。

高齢者割引 (××歳以上) \0,000

これは学生料金と並ぶと思うので、書いていいんじゃないでしょうか。
せめて「何歳以上」は書かないとそこから問い合わせになる。

(2002年5月9日の京→サミット実行委員会のメール本文より抜粋)

これは、問い合わせとして挙げている電話番号に「こちらでのチケット予約不可」とあります。お客さんに対しては「不可」という書き方ではなく、じゃあどうすればいいのかという書き方をしないと、いけないと思うんです。

【問】00-0000-0000 (劇団××××)
-こちらでのチケット予約不可

「不可」は避けて、チケット予約はどこなのかを書いた方が親切。

(2002年5月9日の京→サミット実行委員会のメール本文より抜粋)

これも料金なんですが、「詳細はお問合せください」になっています。もっと具体的に書かないと、どういった特別料金なのかが全くわからないから、活用されないじゃないですか。

【料金】前売\2,800 当日\3,000 特別料金\2,500あり。詳細はお問合せください。

どう特別料金なのかわからない。「~料金」と簡潔に書けませんか?

(2002年5月9日の京→サミット実行委員会のメール本文より抜粋)

フェスティバルのように複数の団体をまとめる場合は、表記が本当にバラバラなので、統一していていく必要があります。

――開演時間なども、12時間制と24時間制の違いなど乱れがありますね。

12時間制の場合も「午前/午後」「AM/PM」を付けるのかなど、きっちりと指定してくる場合は少ないです。タイムテーブルはデザイン的にこう組みたいという私の意見もあるので、それは戻さずにやっちゃいますけど。デザイナーの負担を軽減するためではありませんが、データのスペースに全角半角が混じっていると面倒なので統一していただきたいですし、料金を「\」「円」「yen」にするか、位取りのカンマを入れるかどうか、名前表記で姓と名のあいだにスペースを入れるかどうかも統一してほしいです。こういったことは、打ち終えて確認してから提出してほしいと思います。

――データで必要な要素がすっぽり抜け落ちていることはありますか。

ありますよ、キャストがないとか(苦笑)。基本情報として必要なものが全くない場合はわかりますが、例えばワークショップ情報やコラム的な要素の部分がこちらに来ていない場合は、抜けていること自体がわからないじゃないですか。デザイナーに流す前に、カンパニー内で構成要素の確認は絶対していただきたいです。


制作者の都合でなく
お客さんの目でどうなのか考える

――入場方法がわからないチラシも多いですね。全席指定なのか自由なのか、全席自由なら整理券配布をするのかしないのか、整理券配布なら何時から受付開始なのか。

実際にあった例ですが、チケット予約電話番号が二つあるにもかかわらず、「整理番号を予約受付順に発行します」と書いてあるんです。両方で番号を発行すると、同じ1番でも2枚あることになって、どちらが先かわからないなあと思って……。

――老舗のカンパニーで整理券方式を取っているところは、トラブルを避けるために詳細に説明していますが、若手ではなんの説明もなく不親切に感じる場合がありますね。私の知る限り、この点を早くから詳細に注意書きとして入れたのは、南河内万歳一座(本拠地・大阪市)です。プレイガイドの数だけ整理番号1番があるということで、過去にクレームがあったそうで、それ以降詳しい説明を入れたと聞きました。自分が観客の立場で不明に思うことがあったら、先に全部説明すべきなんですね。私もこれは見習って、早速使わせてもらいました。

※開演の30分前から開場いたします。
 ご入場の際は、ぴあ、セゾン、劇団発行前売券の3列で、
 チケット記載の整理番号順にお入りいただきます。
※電話予約、整理番号のないチケットをお持ちの方には、
 開演1時間前から整理券を発行いたします。
※当日券の発売は開演1時間前からです。
※前売券・電話予約以外のお客様は、ご入場順があとになります。
 満席の場合はご入場出来ませんので、
 観劇日時がお決まりの方は前売券をご購入いただくよう
 お願いいたします。

遊気舎Vol.19『7144879-44 634-5789』(1995.2-6)東京・大阪公演本チラシより

でも、これでも買う側にしたら微妙じゃないですか。ぴあですでに10枚売れていて、セゾンがまだ1枚しか売れていないとしたら、セゾンで買ったほうが早く入場出来るわけですよね。さっきの場合は劇団と劇場が予約窓口だったんですが、お客さんに考えさせるような余計な負担をかけさせるのが私はイヤだったので、「劇団が毎日劇場に報告し、予約番号を揃えるよう劇団側から動くべきなんじゃないか」という話をして、それを実行させました。

――これは私も思い出があります。実際、売れていないほうのプレイガイドで買っていただくほうが、観客も若い整理番号が手に入るし、3列の長さが同じになって客入れもスムーズなんです。そこでどのプレイガイドの残席が多いかを書いて、「いま買うならこのプレイガイドで」みたいな臨チラをまいたんですよ。そうしたら別のプレイガイドから猛烈なクレームを受けまして、「残席数を公開するのはいいけれど、特定のプレイガイドでの購入を勧めるのは商道徳にもとる」と言われました。全席指定の場合も同じような問題があって、プレイガイドによって配券の差があるわけですから、いまどこで買えばベストなのかを観客に案内するのは非常に難しい。公演規模が大きくなるにつれて、この問題はどうしても発生すると思います。

私が何度も言っていることですが、制作者の都合になっている文章は、お客さんの視点でどうなのか考えて、書き直してくださいということです。これは通販で忘れられない体験ですが、注文を受けるハガキを雑誌に付ける場合がありますよね。そのブランド名を間違えてしまったことがあるんです。その会社はブランドをいくつも持っていて、Aブランドなのに、Bブランドのハガキを付けてしまったんです。校正段階で誰も見つけられずにそのまま掲載され、気づいたお客さんもいるとは思いますが、そのまま注文が来ました。宛先が同じなので届くことは届くんですが、不信感を抱いたお客さんがいたかも知れない。料金受取人払のハガキが付いているのに、おかしいと思って電話で注文したお客さんがいるかも知れません。

ほかにも、カタログで商品番号を間違えるとどれくらい大変なことになるのか……とか、私は実際に経験しているんです。そういう誤植の、身を引き裂かれるような痛さはよく知っているので、校正についてはすごく言いたいんです。商品番号一つ間違えて、雑誌に商品が掲載されてしまったら、お客さんはその商品番号で注文してくるので、その番号で動かないと仕方がありません。社内の全資料をその番号に変更し、受注センター、配送センターにも連絡し、社内すべてが対応しなければならない。私はそういう手間暇やロスがどのくらい大きいかを体感しているんですが、演劇では一つのミスがどのくらいの影響や損害賠償につながるかを実感されてないんだと思います。

――その意味では、特に電話番号のミスは怖いですよね。

怖いです。チケットが売れないどころか、全く関係ない第三者に迷惑をかけてしまいますから。間違った番号の先に、社長自ら菓子折り持って謝りに行った話なども聞きます。

(この項続く)

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