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京 チラシアートワーク指南――チラシづくりとは、情報を操作すること。
第2回宣伝美術発注の基本

●分割掲載です。初めての方は「はじめに」から順にご覧ください。

ふたことめに「お金ないんです」と言われると
すごくがっかりします

――前回2案は提示すると言われましたが、京さんのプレゼンテーションはどんな感じで進むのですか。

実際会ってお見せするときはプリントアウトして、出来るだけ仕上がりに近い形で見えるように断裁したものか、一回り大きい紙にドブとトンボなしで出力したものを、同列に2案ポンと出します。優先順位もなるべくつけないで見せて、一呼吸置いてから一案一案私のコンセプトをお話しします。まず先入観なしに率直な印象を持ってほしいので。メールにデータ添付でお送りする場合もあるので、そのときはデータとそれぞれのコンセプトを書いて出します。「こっちを推します」というのはあるので、相手次第ですが、それを書いたほうがよさそうな相手には書き添えます。

――2案中、意中でないほうをカンパニーが気に入った場合はどうされますか。

私も2案つくるまでにはかなりの数をつくって厳選しているので、「ムム」とは思いますけど、ヤダとは言いません(笑)。

――紙質や色数、インクの特色使用はどの段階で決まるのですか。

絶対に動かしちゃいけない予算や期限を押さえた上で、その範疇でプレゼンしていきます。紙はこだわる人とお任せの人がいるので、こだわる人であればサンプルを持参して、触ってもらって話していきますね。

――私は特色は高いという印象があるのですが。

それはプロセス4色+特色だとトータルで高いということですよね。私はまだ4色+特色でデザインしたことはないです。プロセス4色は予算オーバーだけど、目立つものをやりたいという場合にこそ特色使いはしますけど。2色で効果を狙って突拍子もない色を選んだり、3色が予算の限度ならおもしろい色でやろうと。1版の値段としては多少高くなりますが、蛍光色とか金銀とかも効果的ならば使います。

――インクの色数って、私たち制作者にはわかりにくいものですが。

わからないみたいですね。先ほどの青年団若手自主公演は、「本当に2色?」って皆さん思ってくださったみたいで。うまく混色技を使うと安っぽく見えない仕上がりになります。bound×BoroBonは3色で、墨を使ってないんです。

『knob』 『髪をかきあげる』 bound×BoroBon 1 | 2 | 3

4色と見まがうチラシ(再掲)
1 青年団若手自主公演『knob』(2000.2)(2色)K+DIC179(拡大:104KB)
2 青年団若手自主公演『髪をかきあげる』(2000.2)(2色)K+DIC290(拡大:87KB)
3 bound×BoroBon『恋愛考』(2002.7)(3色)M+Y+DIC653

――紙や色の条件で印刷費を計算出来るデータをお持ちなんですね。

いや、いちいち見積もり取りますよ。印刷屋じゃないので、そこまで計算出来るわけではないです。

――そのとき制作者が気をつけなければならないこと、知っておくべきことはなんですか。

打ち合わせのふたことめに「お金ないんですよ」と言われると、すごくがっかりします。安く済ませたいということが、顔から全面に出ている人と話すのはつらいです。同じ予算を抱えていても、「この中でなにかいい方法ないですか」という態度で来てくれるほうが「こんなのどうですか」と投げられるけど、「とにかく安く済ませたいんだよ」と最初からオーラを出されると、つらいですね。すごく多いです。悲しくなります。


積極的に相談してくださるところは
折り合いをつける提案をします

――印刷枚数5万枚として、単価はいくらぐらいでしょう。

5円台ぐらいですね。印刷枚数が少なければ、当然単価は上がります。提案を受け入れてくれる空気があるなら、4色でデザインしたいけど予算内に収めるためにA5ではどうでしょうとか、なにか折り合いをつける提案をしますね。一から積極的に相談してくださるところは、こちらも持っていきがいがあります。印刷屋が在庫しない用紙を使う場合、印刷屋経由ではなく紙屋に直接発注して安くするとか、そういったこともします。

――やりたいことを先にやって、あとから請求するデザイナーだったら困りますよね。

払っていただけないと困るんで、私しませんよ(苦笑)。デザイナー様サマと思わないで、お金を払う側として知っておくべき情報は知っておかないと。

――基本的なことですが、素材をお渡しするときの注意事項を教えてください。

メインビジュアルに写真を使ってくださいというときは、サービス判でなく使用する程度の大きさに焼いたものか、ポジが欲しいです。ネガも出来たら避けて欲しい。そこから紙焼きしてスキャニングしないといけないので。

――文字原稿は、通常どんな入稿形態が多いですか。

データにしてくださいとお願いしています。まだ手書き原稿もありますが、極力メールにしてもらいます。テキストデータにさえなっていれば、エディタでなんとでも変換出来るので手書きより助かります。フランス語が入ったりすると、アクサン(á à â)が欠けたりするので、特殊な場合はWordでリッチテキスト形式にしてもらっています。お願いとしては、「追加・訂正になりました」と何度もパラパラ送られるのはつらいので、2、3日待ってもいいからできるだけ確定した情報で送ってください。

――会場地図は提供されるものを使うことが多いですか。それとも自作されますか。

自作しないとないケースと、自作してもいいケースにはつくります。劇場指定のものが清刷で支給される場合はそれを使いますけど。自分でつくる地図は、デザインのテイストを揃えていて、マイ地図フォルダに貯め込んでいます。後に別のチラシでも使えるように。

――地図の元になるデータは?

その劇場の地図が載っている公演チラシを最低三つもらいます。チラシでなくてもいいですから、地図を三つ。そこから私がつくった地図を見て、実際に劇場に行ってもらいます。私が行ければベストですが、なかなかそうもいかないので、早めに上げて制作者に「これを見て行ってみてください」とお願いします。私も間違った苦い経験がありますので、そこは確認してもらいます。地図が間違っていたからといって、私が責められても責任取りきれないので。あと、公演を何会場かでやる場合、地図も複数になりますよね。そのデザインがバラバラだと美しくないし、見る側もわかりにくいと思うので、出来れば自作したいです。

これは青年団の実験工房、地図は全部自作しました。地図に割いている大きさも、劇場位置を示す丸の大きさも一緒です。

青年団・実験工房『地点2?断章・鈴江俊郎?』(2002.5-7)本チラシ裏面(A4)(地図部分拡大:117KB)


どの大きさで広告を取るかは
事前に相談してほしい

――チラシへの広告掲載は、デザイナーとしていかがですか。

デザイン的には本当は入れたくないですけど、拒否は出来ません。制作予算にかかわることだから。困ったのは、打ち合わせ段階でもう広告掲載の大きさまでが決まっていて、広告主に「チラシの1/2で掲載します」と言っちゃいましたというケース。半分はないでしょ(笑)。どの大きさで取るかは先に相談してほしいと思います。デザインも任せてもらえるならつくらせて欲しいです。原稿となる素材も、なるべくコントラストのはっきりした白黒のものをください。箸袋でもなんでもいいですから。マッチ箱から起こしたこともありますよ(笑)。

――前回、印刷は1週間を目安にされていましたが、それは平均的なものでしょうか。

印刷屋に確認したんですが、本当に急げば下版から中2日で上げると言ってました。だから入稿して翌日下版すれば5日という計算になります。私は色校と戻しの日程も組んで、平均的に1週間と考えるのが安全だと思います。あくまで「平均」なのは、デザインや紙、部数にもよるということ。ベタ面が多いと乾きにくいし、紙質によっても乾くのに時間がかかる場合もある。枚数が多くなると、断裁にも時間がかかります。具体的にはその都度日数を確認した方が安全です。

――梱包単位は決まっているものですか。チラシの場合、2,000枚が多いように思いますが。

これは印刷屋に訊いてきたことをそのままお話ししますね。普通のコート紙の場合、菊判62.5kgの厚さだったら2,000枚梱包、もうちょっと厚い76.5kgだったら1,500枚梱包、93.5kgだったら1,000枚梱包。30cmくらいの高さになるよう調整するそうです。

――2,000枚のものを1,000枚単位にしてもらうのは可能ですか。

言えばしてくれると思いますよ。別に梱包料が発生するかも知れませんが。

――裁断前の全紙を何枚かもらって、ポスター代わりに使いたいのですが、こんなこともお願い出来ますか。あるいは4丁付けの状態でもらったりも出来ますか。

断裁前に引き抜いておけばいいので可能です。デザイナーとしては嫌ですけど。私は阻止する(苦笑)。

――2会場で公演するので裏面を2種類つくりたい場合、1種類分だけ刷って、残りをしばらく印刷会社で保管してもらえますか。

裏面の印刷を変えることは可能ですが、保管してもらうことはなかなか難しいみたいですね。30cmの梱包3個くらいなら隅に置いてくれますが、それ以上の量になるとちょっとお断わりしてますと言われました。でもその場合、別々に刷るとしても、表面は同フィルムで増刷扱いにすれば、コストを抑えることは出来ますね。

――完成したチラシにあとから「追加公演決定」などを刷りたい場合、チラシを印刷会社へ持ち込むのですか。

やれと言われればやるということですが、印刷予算のロスが多いと思いますよ。印刷のインクが回るまでの何十枚、何百枚がボツになってしまいます。印刷のノリを見るわけですから、同じ紙でないと。断裁済みの紙に刷り込みするわけですから枚別単価計算になり、決して効率はよくないと思いますよ。

――増刷する可能性がある場合、事前に伝えておく必要がありますか。

ぜひ教えてください。増刷が前提なら初回にフィルム出力しておきます。フィルム出力代はかかるわけですが、そうすれば増刷時には下版からの工程と料金になります。CTPの場合はフィルム出力代がかからないかわりに、初回も増刷も全く同じコストがかかります。

――ありがとうございました。

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