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ケータリングとは

ケータリング(catering)はパーティーなどでの仕出し業務を指す言葉ですが、演劇では広く飲食手配全般に用いられます。元々はイベント用語でしたが、最近は小劇場界でも使われることが多くなってきました。劇場での弁当手配が主ですが、広義では楽屋の茶菓、打ち上げ、稽古場での飲食(小劇場界では一般的に用意しません)なども含みます。

ケータリングは制作業務の基本です。身近でわかりやすい作業でもあるので、演劇に限らず他のジャンルでも若手に任されることが多いようが、実際には細やかな気遣いと先々を見越した手配術が要求されます。限られた予算で喜ばれるものを用意するセンスも問われます。ここではケータリングの注意点を考えながら、周辺の課題も探っていきます。

なぜ弁当を手配するのか

制作者がまず意識してほしいのは、弁当手配をする理由です。上から命じられたからとか、習慣だからとかいうのではなく、自分が担当する業務にどんな意味があるのをか知ることが、制作者の成長には不可欠です。小劇場界の場合、下記の点が挙げられると思います。

  1. 外出して食事をとる時間がない
  2. 外出して食事をとる場所がない/場所がわからない
  3. 物理的に外出が難しい/外出を避けたい
  4. ギャランティを少しでも補いたい

1は仕込みから初日までの期間や、1日2ステージの場合などに該当するでしょう。2は劇場の立地に左右されます。3は1日2ステージで合間にメークが落とせない場合や、人気俳優を劇場外に出したくない場合などが考えられます。4は客演や外部スタッフ、お手伝いさんなどに対しての気持ちです。弁当はこれらを解消するために手配するのであり、必要に応じて対象者を選択することになります。

1の場合、仕込み中はパートごとに平行作業が続き、照明がシュートしている間に舞台・音響が休憩し、音響がサウンドチェックしている間に照明が休憩します。全員揃っての食事は不可能で、他パートの進行状況を見ながら動いていくため、原則として劇場外には出られません。このため、必然的にカンパニーと外部スタッフ全員分の弁当手配が必要となります。弁当代をカンパニーのメンバーから徴収するかどうかは別として、時間節約のために手配だけは全員分するわけです。

4の場合、これだけを重視すると公演期間中の全食を用意しなければならなくなりますが、初日が開いて1~3の問題がない場合は、日当をお渡しして外食していただく手もあると思います。弁当が続くとメニューにも限界がありますので、そうした気分転換を図ることも一つの手です。

手配の具体例

公演期間中の食事がどの制約に該当するのかを判断し、適切な手配を心掛けましょう。ここでは月曜仕込み、火~日曜本番(6日間8ステージ)の場合の一例を挙げておきます。

弁当手配の一例弁当手配の一例

この例では、木曜の夕食を日当支給による外食としています。水曜は初日翌日で芝居の手直しが入ることが予想され、昼食の手配もしていますが、木曜になると落ち着いて小屋入りは午後になると思われますので、外食にしたわけです。楽日はバラシのために1:00/5:00開演ですので、夕食時間は取れません。終演後はすぐバラシに入りますので、打ち上げまでのつなぎとして、4時におにぎりやサンドイッチ程度の軽食を出すことにしました。

時間とメニューの気配り

弁当は食事時間の前に用意されていなければなりません。食事時間は舞台監督が作成するタイムスケジュールに書かれていますが、作業の進行状況によって変動することもありますので、毎日必ず確認し、注文や配達の場合は時間を変えてもらうことも必要です。初めての劇場周辺で、融通の利く弁当店を探すのは難しいものです。こうした情報は劇場側や、そこをよく利用するカンパニーに教えてもらいましょう。

配達してもらう場合、正確に時間どおりというのは難しいので、少なくとも食事時間の15分前を指定しておきましょう。昼食のタイムスケジュールが正午からになっている場合は、11時45分に届けてくださいとお願いするわけです。早く着きすぎた場合は冷えてしまうことになりますが、弁当が遅れてスケジュールに影響を出すよりはいいと思います。弁当は絶対に遅れてはなりません。

メニューは同じものが続かないことはもちろんですが、出来れば2種類用意したいものです。1種類だけですと、好き嫌いがある場合、満足な食事が出来なくなってしまう恐れがあるからです。また、予算を抑えた弁当はどうしても揚げ物系が多くなる傾向があります。現場は若者だけではないと思いますので、油を控えたい人が選べるようにすると喜ばれます。好き嫌いをする人は意外に多く、一般の人気メニューでもダメな場合が少なくありません。先入観で決め付けず、確認するようにしたいものです。

制作者が事前に把握していないスタッフ助手やお手伝いさんが来る可能性もありますので、弁当の数量は充分に確認して、絶対に大丈夫なことがわかるまでは制作者は自分の分を食べないようにしましょう。万一不足した場合、制作者の分を回せるからです。予算に余裕がある場合はギリギリの数を注文せず、予備を1?2個用意すればベストでしょう。もし余っても、夜食などで持ち帰ってくれる人がいると思います。

小屋付きさんの弁当

弁当手配で注意を要するのが劇場側管理スタッフ、いわゆる小屋付きさんへ弁当を出すかどうかです。東京と関西ではこの習慣が全く異なります。東京では原則として出さないのに対し、関西では出すのが一般的となっています。管理スタッフの人数は仕込み日と公演中で変わりますので、関西ではその把握も大切です。旅公演の際はこの点に留意していないと、思わぬトラブルになる可能性があります。

私の経験では、関西では劇場規模を問わず全日程出して、東京では小劇場の仕込み期間中のみ出してきました。東京の中劇場は劇場側から辞退されるケースがほとんどです。なぜこれほど慣習が異なるのか不思議ですが、東京の管理スタッフは劇場に正式に所属している場合が多いのに対し、関西では外部プロダクションからの派遣や業務委託が多いのに起因しているのではないかと思います。劇場に常駐するのではなく、公演があるときに立ち会うわけですから、カンパニー側の外部スタッフ的な感覚で弁当を出すようになったのではないでしょうか。

正論ですと、正規の劇場費や管理人件費を払っているのに、さらに全日程の弁当を用意するのはおかしいのではないかということになりますが(関西の制作者でそうした意見の方もいます)、長年の慣習ですので変えるのは難しいでしょう。演劇に限らず、地域による慣習の違いは多数ありますので、私自身はその一つかなと思っています。

楽屋の茶菓

公演中は劇場で終日過ごすことになりますので、休憩時間の茶菓もケータリングの重要な業務となります。お茶はその都度沸かしていたのでは間に合いませんので、大型のジャグなどを使ってセルフサービスで常備することが多いようです。ジャグを置いた場所を「お茶場」と呼び、コップ類やお菓子も用意されます。差し入れの飲食物もここに並べられます。中劇場ならお茶場は楽屋やその付近の廊下に、楽屋スペースの狭い小劇場ならロビーに設けられることもあります。

茶菓のケータリングは、お茶場のお茶を毎日用意することを中心に進みます。

お茶場作業フロー

劇場では冬場でも冷たいお茶が好まれます。理想は熱いものと2種類用意することですが、難しいなら冷たいものだけでいいでしょう。衛生面から考えると湯冷ましやミネラルウォーターでつくるべきですが、時間の関係で水道水+冷水用麦茶パック+氷でつくることも日常的です。お茶は全員が飲みますので、人数が多い場合は1日数回つくることになります。

初日は用意出来るまで時間がかかりますので、ペットボトルのお茶を購入して、最初はそれを飲んでもらいます。2日目以降は前日の残りを冷蔵庫で保存し、まずそれを出すといいでしょう。

カンパニーの個性がありますので詳述は避けますが、客演や外部スタッフに対しては、食後や休憩時間にコーヒーなどを出すところも多いようです。セルフサービスではなく、砂糖やミルクの好みを訊いておき、黙っていてもそれが出てくるようにするわけです。ケータリング要員を多数配置しているような場合に考えられるサービスです。

冷蔵庫のレンタル

余ったお茶を保存したり、ソフトドリンクのペットボトルを入れたり、差し入れのドリンク剤や生菓子を冷やしたりと、楽屋に冷蔵庫は欠かせません。メンバーが私物の飲食物を入れることもありますので、冷蔵庫は大きければ大きいほど喜ばれます。冷凍庫もお茶に使う氷パックが数袋入らなければなりません。私物や劇場側のものと区別がつくよう、カンパニーのものには目印を付けておくことが重要です。

しかし、楽屋用に充分な大きさの冷蔵庫がある劇場はなかなかありません。私の経験では小型のものしかないか、劇場事務室と大型のものを共用するしかありませんでした。多人数のカンパニーでは不自由なことも多いようです。こんなときにお勧めなのが、冷蔵庫をレンタルすることです。そんな予算はないと思われるかも知れませんが、例えばダスキンレントオールでは冷凍冷蔵庫(78リットルまたは85リットル)を1泊2日2,600円、追加1日270円で扱っています。1週間レンタルすると7泊8日ですので、2,600円+270円×6日=4,220円です。この金額で気兼ねなく使えるカンパニー専用の冷蔵庫が手に入るとしたら、格安ではないでしょうか。

退出時の注意

毎日の退出時も、制作者は気を緩めてはいけません。片付けが出来ていないと、劇場側の評価はガタ落ちになり、それまでの苦労は水の泡です。劇場側はカンパニー退出後に必ず全楽屋を見回っています。気を引き締めてください。

お茶場の片付けですが、余ったお茶はペットボトルなどに詰め替えて冷蔵庫に入れ、ジャグ本体は洗って水を切っておきます。冬場でも絶対にそのまま放置してはいけません。使用したコップ類も、その日のうちに必ず洗っておきます。周囲のお菓子も散乱したままにしないように。 特にナマモノは冷蔵庫に入れるか、誰かに持ち帰ってもらいましょう。

楽屋も必ず確認します。俳優が食べかけのものをそのままにしていないか、充分注意しましょう。ケータリングに伴って発生したゴミや空き缶なども、すべて定められた方法で片付けてから帰りましょう。

打ち上げ

打ち上げ手配で最も難しいのは、正確な人数の算出と開始時間の見極めです。通常、打ち上げは楽日のバラシ後に行なわれますので、俳優の友人が楽日を観て、そのままバラシを手伝ってくれた場合などは事前に人数が読めません。日ごろの付き合いなどから、飛び入りの参加者もある程度想定しておき、最終的にはバラシ中に参加の有無を確認するしかありません。店も当日になって人数が減るのは渋りますが、居酒屋クラスなら増える分には柔軟に対応してもらえるはずです。

開始時間は舞台監督と相談してバラシ終了時間から割り出しますが、バラシがてこずったり、反対に思いがけず早く終わる場合もあるでしょう。進捗状況を見ながら店に時間をずらせないか交渉するのも、制作者の重要な役割です。店の案内図を用意し、配布することも必要です。打ち上げの第一の目的はお世話になった方へのお礼ですから、現場にいない関係者には事前に案内しておく必要があります。なお、公演中に飲みに行く店と重ならないよう、打ち上げの店は出来るだけ早く全員に告知しておきましょう。

打ち上げでは、制作者は2次会まで責任持って手配しましょう。2次会の参加者を事前に把握するのは非常に困難ですが、入れそうな店の電話番号をいくつか控えておき、参加人数によって判断します。店内の仕切りはもちろん、2次会からは割り勘になる場合が多いと思いますので、その精算も確実に行ないましょう。2次会が終わって、やっと制作者は解放です。本当にお疲れさまでした。