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はじめに

小劇場の宣伝写真というと、役者の集合写真的なものが少なくありませんが、差別化を図るためには作品内容を予感させるイメージ写真が望ましいでしょう。単なる集合写真を撮るくらいなら、むしろ前回舞台写真のほうが効果的かも知れません。宣伝写真はビジュアルで作品内容を伝える数少ないチャンスですから、その機会を逃さず利用したいものです。本当に優れた宣伝写真なら、プレス側でも掲載したいという気になるはずです。

予算のない小劇場の場合、フィルム1本に様々なカットを撮影し、その同時プリントをプレスごとに送る例を見かけます。これは最も安上がりな方法ですが、仮に掲載されても媒体によって異なる構図の写真が載ることになってしまいます。「いろいろな写真が載っていたほうが楽しい」という考え方もあるかも知れませんが、様々な媒体に同一の写真が載ることで、認知度を高める効果のほうが上ではないかと私は思います。厳選された構図の写真を多くの媒体に乗せることを目指しましょう。

カラーかモノクロか

印刷上の表現の差異を考えると、同じ構図でカラーとモノクロを用意するのが理想ですが、小劇場の場合は予算的にカラーだけでもいいでしょう。逆に作品的にモノクロのほうがふさわしいと判断した場合は、モノクロしか用意しない場合もあります。プレスによってはカラー写真を請求してくる場合もありますが、理由を説明した上でモノクロ写真を提供すればいいでしょう。

カラーネガでも指定をすればモノクロの紙焼きが可能です。どうしてもモノクロでという場合は、このような方法を取ることが出来ます。さらにカラーネガとモノクロポジどちらからも、単色カラーがつくれます。例えば懐古調の作品世界を表現するために、セピアで紙焼きすることが出来ます。写真家、演出家、制作者の三者が充分に話し合った上で、最適な表現を決めてください。

構図をどうするか

写真のフレーミングには横位置と縦位置があります。ほとんどの媒体が横位置で掲載されるようレイアウトされており、縦位置のものを送るといびつなトリミングをされたり、掲載そのものがされない場合があります。宣伝写真は必ず横位置で撮るようにしましょう。

一般の公演情報記事では、宣伝写真の掲載スペースも限られています。さほど大きく載るわけではありません。あまりに細かい構図ですと、なにが写っているのかよくわからない場合もあります。人物でしたら出来るだけアップで、群像でしたら縮小されても一人一人の表情がわかる程度の構図にすべきでしょう。

宣伝写真の撮影段階では、まだ台本が完成していないことも多いと思いますし、どのような登場人物を誰が演じるのかも決まっていないことが多いでしょう。そうした条件下での構図決定はたいへん難しいところですが、作品世界にふさわしいイメージ写真を模索してください。イメージ写真ですから、実際の登場人物や配役と違う内容になっても許されるのではないかと思います。

ロケ撮影かスタジオ撮影か

どこか既成の場所を背景にロケ撮影するのか、それともスタジオで緻密な世界を構築していくかは大切な選択です。基本的にこの部分は、演出家・制作者の意向を元に写真家が決定します。ロケなら撮影許可を取り、モデルの着替える場所を制作者が確保しなければなりません。ヘアメイク、小道具のスタッフも参加しますので、かなり大掛かりな作業になります。屋外の場合は当日の天候も重要になり、悪天候に備えて予備日を設定しておくことも必要です。

スタジオ撮影は経費がかかると思われるかも知れませんが、プロの写真家なら日常的に利用しており、それほど高額というものではありません。プロに依頼すれば融通が利くスタジオを手配してくれますので、撮影料と共にお支払いしたらいいでしょう。天候に左右されないこと、準備やライティングを思う存分出来ることを考慮すると、スタジオ撮影にはそれだけの価値があります。

ポジフィルムの扱い方

ファイルには一般的なネガフィルム(ネガ)と、スライドや高品位を求められる印刷物に使われるポジフィルム(ポジ)があります。色の再現が忠実なポジは、商業印刷物に多用されています。例えば雑誌で大きな写真を掲載する場合、ネガフィルムの紙焼きを拡大したのでは粒子の荒れた汚い写真になってしまいますが、ポジでは美しく印刷出来ます。ポスターなどの大きな印刷物もポジしか考えられません。

画質面から考えるとポジのほうが圧倒的に有利ですが、ネガが紙焼き時に明るさや色調を修正出来るのに対し、ポジは撮影時の一発勝負になります。素人の撮影では使い物にならなくなる恐れも充分あります。ポジ撮影を行なうなら、プロの写真家あるいはそれに準じた方にお願いするべきでしょう。

ネガの場合は手軽に焼増しが可能ですが、ポジはそれ自体を渡してしまうと手元になにもなくなりますので、どうしてもポジを請求された場合はデュープ(デュプリケート)で複製をつくって渡します。紙焼きでよい場合は、ポジから紙焼きをつくるダイレクトプリントを行ないます。

ダイレクトプリントはネガの紙焼きに比べて高価ですので、宣伝用に大量の紙焼きが必要な場合は、経費を抑えるための工夫が必要です。一般的にはポジからネガを作成するインターネガという方法があります。写真そのものはポジで撮影し、一般のプレスからの請求にはインターネガの紙焼きを送ればいいわけです。ポジフィルムの扱い方をまとめると、下記のとおりになります。

オリジナル……手元に保存
ポジを請求されたとき……デュープして渡す
紙焼きでもいい場合……ダイレクトプリントして渡す
大量の紙焼き……インターネガから紙焼きして渡す

紙焼きの種類

紙焼きの場合、焼き方によって明るさや色調が大きく変わります。出来れば見本となる紙焼きを1枚サンプルとして付けるといいでしょう。これを色見本と呼びます。料金は少々高くなりますが、微調整で雰囲気が全く変わってしまうモノクロの場合は、手焼きと注文することでクオリティが高くなります。現在ラボではすべて機械処理ですが、オペレーターがマニュアル調整することで繊細な表現が可能になります。これを便宜上、手焼きと呼んでいます。

紙焼きはラボの担当者によって仕上がりに差がありますので、注文をよく聞いてくれ、安価に対応してくれる写真店を見つけておくべきでしょう。自動現像機を店内に設置しているDPEショップなら、店員にマニュアルで調整出来る専門知識があるかどうか。センターラボに発注する店の場合は、店頭での注文がセンターに確実に届いているか注意すべきでしょう。

プロの写真家に頼んだ場合、フィルムをプロ自身が手元に置き、紙焼きもプロ自身が行き付けの店に発注する場合があります。これはカンパニーが別の店に注文することで、紙焼きの仕上がりが異なってくることを防ぐためです。クオリティの管理という意味では完璧ですが、急な焼増しが発生した場合はカンパニーにとっては面倒なことになります。事前に充分にプロと交渉して、色見本を添付することを条件に焼増しする権利を有しておくことが必要となります。

プロラボの活用

プロ専門の現像店としてプロラボというものがあります。出版社がある場合、その近くに必ず営業所があると言っていいでしょう。メニュー体系はプロ仕様ですが、現金払いなら誰でも受け付けてくれます。料金はやや高くなりますが、特急仕上げを依頼すると、普通の店では数日かかるポジの現像が2時間程度で上がります。

全国展開しているプロラボとしては、クリエイトと堀内カラーが有名です。どちらも学生証提示の場合は学割制度があります。どこにでもあるというものではありませんが、都市部のカンパニーでクオリティを追求する場合、利用する価値は充分あると思います。