この記事は2004年8月に掲載されたものです。
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京 チラシアートワーク指南/第5回カンパニーのトータルデザイン(2)
●分割掲載です。初めての方は「はじめに」から順にご覧ください。
ロゴを渡すときの京さんは
ラブレターを渡すような勢いだった(中埜)
――ロゴが決まるまでを、もう少し詳しく聞かせてください。
京 レーベルということでカッチリとしたロゴを持って、劇団というより、まずboundというスタイルの形を見せていきたい。そのためのロゴというオーダーがあり、中埜君のほうから「b」を大きく使って、カラーは黒でというリクエストがありました。色に対しての意識も高い人で、いろんな色を統合する黒を出発点にすれば、いろんな振り幅が取れるからということです。それがはっきりしていたので、私は印象づける「b」の形を考えて、手書きのものやフォントをいじったり……。
中埜 それまで見たことがない、生み苦しんでいる感がそのときはあったような……。あれ、こんな人だったんだって(笑)。
京 なんか出来なくて、けっこう苦しかったですね。シンプルなだけに、強いけどうるさくない、でも記憶に残るというものをつくろうとすると結構難しかったんですよ。これ(#1)が採用案なんですけど、全部で6案渡しました。渡すときはドキドキして……。
中埜 ラブレターを渡すような勢いだったね。最初はまず僕が見て、吉田にも「どれがいいと思う?」って見せて2案ぐらいに絞って……。ワークショップの稽古場には「これで決める」みたいな感じで持っていって……。実際考えたのは3~4日かな。
京 出来ていった順番としては、すごく苦しんだ挙句にいちばん最初に出来たのがこれ(#3)です。それでやっと「抜けた!」と思えて、あとの五つはプレッシャーから解かれた勢いでつくりました。
――小文字というのは最初からの指定ですか。
中埜 基本的に小文字好きなんです。
――「b」の横にピリオドがありますね。
京 ずっと使っていけるものということで、なにか落ち着き感を出したかった。「b.」をなにかの省略形として、イメージを広げたいという意味もあります。そこから自分で発想したのが、第1回の受付のディスプレイなんです。「b」を使っていろいろイラストを描きました。ジュースになったり、カートになったり、携帯電話になったり、びっくり箱になったり……。それをCDジャケットにして、飾りました。遊べるロゴをつくろうと思っていたとおり、実際遊べたなと。
ロゴによるイラスト(『女、自由』受付ディスプレイより)
――シンボライズされたものがあると、集団の意識が高まりますね。
中埜 劇団として事務所や拠点があるわけではないので、ロゴが欲しかったというのは、そういう部分もあったんじゃないかと思います。所属役者は喜んで、携帯の待ち受け画面にしてみたりだとか(笑)、ステッカーを自分の小物に貼っている人もいました。
京 士気が上がるというか、そういうものを与えられるというのは、こっちも楽しかったです。
boundの基本構成を守りながらも
それを緩くして自由に(京)
――それでは、具体的にこれまでのチラシを見ていきたいと思います。
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1 表面 2 裏面
京 なにを写真に撮るかというモチーフは芝居の内容に絡んでくることなので、中埜君に決めてもらいました。上がってきたのはスカートという題材。最初は物干し竿に干したような状態で、建物の前にスカートがいっぱい並んでいる画を撮るという話だったけど、「余白があって物がドンと見える画にはならないよ」という話をしました。なかなかイメージ出来なかったようで、中埜君が言った形で撮影には臨んだんですけれど、実際フレームに収めた段階で「やっぱりダメだ」ということになり、撮影当日に場所を変えて近くの公園を探し、背景のないところでスカートを吊り上げました。ジャングルジムに登ったりして。
中埜 コンセプト自体は理解したんだけど、当日になって「実際出来ないよ」みたいな形で、どうしたらいいんだろうと焦った記憶があります。
京 私も何度も説明したけど、足りなかったようで。
――公演回数を「*001」にしてありますが。
京 私から出した提案です。別に3桁までやろうという意味ではなく、中埜君のテイストをつかんだ上で、視覚的なバランスや好みだろうと思って。
中埜 2桁だと少ないだろうなと思って(笑)。アスタリスクを使う辺りも、「好みを知られているな」というところです。
京 好みをつかむという作業は、『knob』『スリヌケル』でかなり出来たと思っているので、こちらがちゃんとつくってプレゼンすれば、通るだろうと思っていました。
――コンセプトシートが出来ているということは、個々のチラシではボツ案や対案はないわけでしょうか。
京 位置と全体のバランスがちょっと違う2案はありました。
1 | 2
1 表面 2 裏面
中埜 これは僕のほうから写真を全面に使いたいという希望があったんですね。
京 それだとコンセプトからずれてしまうという抵抗もあったんですが、主宰者の希望だし、作品があっての上でのオーダーだったので、私も出来るだけ柔軟に取り入れ、boundの基本構成を守りながらもそれを緩めて試行錯誤しました。
――用紙も変わりましたね。
京 これは理由がありまして、最初は「フルーブ」という紙だったんですが、第2回の前に廃品になっちゃったので、代替品として出てきた「ミルトGA」を第2回と第3回に使いました。紙は、手にした質感にこだわって選んでいます。公演が終わったあともboundっぽさが感じられる紙片として残したかったので。
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1 宛名面 2 文面
京 これはすごく小さな公演ということで、ポストカードがチラシを兼ねています。レーベルからの発想で、アルバムとシングルというような公演形態でやっていこうというプランがあったんですよ。それならばアルバムである本公演は大きな四角、本公演以外のシングルは小さな四角をつくろうと思っていたんですが、実際に回を重ねてきたところでそのプランが緩やかに変わってきて……。正直言えばコストの都合もあって、ハガキになりました。さらにboundがやることは大小区別せず通し番号を振っていこうということに変更になって、アルバム/シングルというデザイン計画そのものも消されてしまいました(笑)。まあ、掟破りはすでに二度目だったので(苦笑)、「また来たか」と。それでもなんとかboundの印象だけは保ってやろうと苦心しました。ロゴがあったおかげで、変化の中でも柔軟にboundらしさをキープ出来たと思います。対応力のあるロゴだなあと、このとき思いました(笑)。
(この項続く)
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