この記事は2003年4月に掲載されたものです。
状況が変わったり、リンク先が変わっている可能性があります。
京 チラシアートワーク指南/第2回宣伝美術発注の基本(1)
●分割掲載です。初めての方は「はじめに」から順にご覧ください。
トータルにやったほうが
イベントとして楽しいですよ
――宣伝美術のデザイナーとしては、どこまでが守備範囲だと思いますか。
作らせていただけるものなら、カンパニーの名刺から公演当日のものまで一通り。私の趣味的には台本の表紙やアンケート束の表紙とか、そこまでトータルにデザイン出来るとイベントとして楽しいですね。タイトルロゴがあるのに、ただのワープロ文字で台本の表紙が飾られていたら寂しいと思うので。
――現実は、本チラシだけということが圧倒的でしょうか。
圧倒的ということはないです。名刺は依頼があってから制作しますが、台本やアンケートの表紙はこちらから「使って」と提案します。本当にチラシだけということであればそれ以上踏み込みませんが、チラシも当パンもつくるなら、流れの中の余力でつくってしまいますね。
――宣伝写真に関してはいかがですか。演劇の場合、チラシと連動せずにカンパニーが撮った写真が一人歩きしていることも多いと思います。素晴らしいデザインのチラシなのに、情報誌には役者の集合写真が載るとか。
宣材は制作マターですからねえ……。チラシはイメージ先行で考えますが、雑誌に出していく宣材については、出演者の顔がガンと出たほうがいい場合もあると思うんですよ。映画の場合は、チラシのモチーフも宣材も出来上がった映像から取っていることが多いと思うので、上手く連動したプロモーションがかけやすいんだろうけど、舞台はなにもないところからですからね。制作さんは試行錯誤されているんじゃないでしょうか。あと、宣材がどう扱われるかはデザイン視点で関与しきれない部分があるんですよ。雑誌によってトリミングも違うし、ページのほんの一部分で、そのページ全部をデザイン的にコントロール出来るわけではないから、宣伝美術としてはほとんど関与しませんね。
1 本チラシ 2 オリジナルチケット 3 当日パンフレット 4 スタッフパス(拡大:21KB) 5 DM案内状
――チラシに凝ったイメージ写真を使用した場合、それを宣伝写真にしたいとは思いませんか。
それは別だと思います。チラシは文字も含めて一つの面として仕上がるわけだから、そこから文字を抜いた写真は全く別のものです。一つの芝居のイメージとして、統一感のあるものを出すべきだとは思うんですけど、全く同じは逆にどうかなと。使うならチラシ写真の別カット、宣材使用のための別撮りであるべきだと思います。
ピンポイントな訴求力を
持ってつくるとおもしろいですね
――仮チラシはどのくらいの割合で手掛けられていますか。
半分強ぐらいかな。仮チラシがない場合もありますけど、依頼があったときは受けてます。知らないあいだに制作者がつくったワークショップのチラシが流れていたことはありますが、仮チラシは声を掛けてもらってます。でも、仮チラシさえ間に合わないタイミングでどうしても折り込みたい公演があって、そこにだけピンポイントで入れたいときがあるじゃないですか。そういうときはカンパニー側でつくってしまっていいと思います。私とのやりとりで時間をかけるより、そのほうが早いのなら制作意図的には活きるわけだから。受ける段階でタイトルロゴデザインに取りかかれる程度の情報がまとまっていれば、私が仮チラシをつくる意義もあるけど、とにかく告知だけはしたいという場合は「任せた」と。全く違うロゴが流れてしまうと本チラシと連動しにくいので、それならワープロ文字でいいから、テキスト情報だけのものを制作サイドで組んでもらっていいと思います。
――仮チラシの実例をお見せいただけますか。
これはICU(国際基督教大学)時代のものなんですが、一般の仮チラシとは別にICU内部だけに向けた仮チラをつくりました。これが入るメールボックスが全学生分あるんですよ。ICUでまくということで、近所の広告が入ってるんです。*1
4
天使エンジン『削男 kezuru otoko』(2000.1)
1 一般向け仮チラシ(B6・裏面白紙)
2 ICU向け仮チラシ(B6・表面)
3 ICU向け仮チラシ(B6・裏面)
4 本チラシ(B5)
――こちらは2作品で1枚の仮チラなんですね。本チラシは別々につくられたようですが……。
いえ、この本チラシは表裏両A面なんですよ。両面2色チラシです。
1 仮チラシ(B5・2作品を表面に・裏面白紙) 2 本チラシ『knob』(A4変形)(拡大:104KB) 3 本チラシ『髪をかきあげる』(A4変形)(拡大:87KB)
これはboundとBoroBonの公演のチラシです。もう1枚はマンダラ(東京・南青山のライブハウス)での別バージョン公演の告知で、本公演で折り込んだものです。
1 本チラシ(A4) 2 マンダラバージョン告知(B5)
1 | 2
――実例を拝見しましたが、仮チラシのデザインで最も大切なことはなんだとお考えですか。
仮チラシの目的自体が、本チラシは間に合わないけれど、とにかく情報を伝えたいってことじゃないですか。仮チラシをまくということは、「その公演に来ているお客さんが食いついてくれる」という読みがあって制作意図があってやることなので、期待させて本チラシが見たいと思わせ、次に本チラシを手にしたときに「あの仮チラシの本チラシか」と思ってもらえるようにつなぎたいですね。全部見せなくても、興味をそそればいいんです。
――これを伝えたいというのがあるはずですよね。注目の客演が決まったとか、めずらしい会場でやるとか。それを訴えていかないと、チラシ束の中で埋没してしまいます。
ピンポイントな訴求力を持つとおもしろいですね。いちばん目につく部分をきっちりデザインし、チラシ束の中で気になる文字がズバッと目に入ってくる感じにして、あとは流れで読んでもらう。そのタイポグラフィは考えますね。
――仮チラシは簡易印刷が多いと思いますが。東京の相場は500枚以上になると中2日で紙代共1枚2円ですね(タウンページに広告多数掲載)。
いまはコピーが多いんじゃないですか。
――コピーですと都内は7?8円が安い店の相場だと思いますが、それでも割高じゃないですか。
安いところを探すよりも、すぐ欲しいということなんですかね。私の周りは「アゴラ印刷」という手をよく使ってます。(こまばアゴラ劇場備え付けの)輪転機で紙の持ち込みも出来るし、アゴラの在庫紙を使ってさらに安く上げることも出来る。
こまばアゴラ劇場印刷料金表(電話:03-3467-2743)
――仮チラシは上質紙に黒1色が圧倒的ですが、紙や色は工夫出来ませんか。
確かに黒インクというのが基本料金でいちばん安いし、1色コピーなら黒になっちゃいますよね。でも印刷屋に出すのであれば、1版なら墨でもなんでも料金はほぼ一緒です。上質紙もカラーバリエーションがあるので、印刷に出すのなら紙を選んで、インクを選んでうまく組み合わせれば、同じコストでも目立つ仮チラシが出来るでしょう。でも、私が仮チラシの印刷まで手配することは少ないですね。版下かデータでデザイン原稿を制作者に渡して、印刷は任せることが多いです。
(この項続く)
前の記事 京 チラシアートワーク指南/第1回デザイナーとのコミュニケーション(3)
次の記事 京 チラシアートワーク指南/第2回宣伝美術発注の基本(2)
- ICUではメールボックスにサークルがチラシをポスティングするのが日常光景。メールボックスといっても木製の単なる棚で、ポストのような立派なものではない。 [↩]