この記事は2003年6月に掲載されたものです。
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京 チラシアートワーク指南/第3回チラシの企画(2)
●分割掲載です。初めての方は「はじめに」から順にご覧ください。
全体像を描ける情報を共有して
その中からビジュアルを絞りこんでいく作業が必要
――デザインを統一すれば認知度が高まることになると思います。毎回バラバラなのも一つの戦略ですが、いまの分厚いチラシ束を考えると統一したほうが利口かも知れません。ペテカンの例も出ましたが、ほかにも青年団、boundなどもフォーマットが決まっていると思います。中でも絶対王様はフォーマットを決めている典型例なんですが、こうした戦略はどのようにして生まれるのでしょう。
主宰者側からは、なかなかフォーマットに関する意見は出にくいんです。なにか違うものを、という漠然とした意向に対して具体的な提案を投げて話を詰めていくことが多いです。
――例えば、青年団はそこまで考えて始めたわけではないですよね。毎回レイアウトで悩むより、抽象的な写真をメインにしたほうが楽だからというシンプルな発想でスタートしたと想像するのですが。
そうですね、結果オーライだったのかも知れません。でも、押し付けがましくなく、絶対にこれが青年団だとわかるようになった時点で勝ちですよね。明確な戦略は組んでなかったかも知れないけど、勝ったという例だと思います。
――絶対王様の特徴は、タイトルに公演日と会場が含まれていて、それがキャッチコピーになっています。こうしたフォーマットになった背景には、短い間隔で公演を打っていこうというイベント的発想があったと思います。その発想がデザイナーに初期の段階から伝わっていたのが素晴らしいですね。
ビラ的な勢いがありますね。公演回数が多いと、毎回ビジュアルをつくりあげるのはすごい作業量なので、その辺と予算を加味した上でこうなっていると思うんですけれど、うまく決まっていますね。一回にどれくらいの予算をかけられるのかも計算しつつ、カンパニーの特徴を可能な限り印象づけています。
――これはもう真似したら二番煎じになりますが、一瞥でどの集団かがわかり、データも伝わりやすいチラシは、誰もがつくりたいと思うんじゃないでしょうか。
全体の傾向として、そうなってきたと思いますよ。どんな劇場で何回やりたいか、どんな世界観を持っているのか。一回の情報だけをポンと渡してチラシをつくってくださいではなく、全体像を描ける情報を共有して、その中からビジュアルを絞りこんでいく作業が必要だなと思いますね。
――公演スケジュールや会場選択の方向性などは、制作者が最も情報を持っています。制作者がどれだけ先のことを考え、デザイナーと情報を共有出来るかだと思いますが、これまでのご経験でその点はいかがですか。
ある程度継続してお付き合いのあるカンパニーからはもらってますし、私からも訊けます。単発でいただいたところはなかなかそこまで追いつかないんですけど、それ以前の2、3回のチラシを見せていただいて、そこから広げる方法をやっています。
敢えて違ったことをやるために
全然違う写真を選んだんですよ
――もちろん毎回インパクトのあるチラシをつくることも大切で、戦略と戦術の両方が問われると思います。戦略を踏まえながら、臨機応変にこうした戦術を使ったという実例をご紹介ください。
先ほどのかもねぎショットは老舗と言える著名なカンパニーで、私ももちろん知っていました。ただ正直なところ、なにかイメージが固定されちゃってる感じがして、若い人たちが観に行くにはワンステップお高い位置にいる印象があったんです。でもオファーいただいてから実際に観せていただくと、誤解していた部分がやっぱりあって、糸口を見つければ若い人たちにも結構おもしろいなって思ったんですよ。実験的なこともやっているし、ダンスと芝居の中間を独自のカラーでつくり上げた舞台だったので、大御所劇団というところから、もっと若いところへ位置させたいなと思ってつくったのが、この『出来事』と『ダブルス』です。
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ビジュアルの撮影は先にカンパニーのほうで手配をして、スリーブの状態で3本ほどのポジをいただきました。部屋の中で二人が親しくしている様子とか、茶飲み話をしている様子が、引きだったりアップだったり、いろんなシチュエーションのいろんな構図があり、主宰者とカメラマンの方の選択で丸が付けられていて、この中からどうでしょうという感じでいただいたんですけど、敢えて違ったことをやるために、全然違う写真を選んだんですよ。
私がこの写真にいちばん惹かれたのは、目線のなんとも言えないおもしろさです。先方の要求としては重田千穂子さんの顔をはっきり出したいという要望があったので、正面向いた顔を持ってきて商業演劇っぽくなってしまうよりも、この「気になる目線」から二人の関係性を想像したり、どんな話だろうと期待をふくらませたり……という方向に持っていこうと思って、先方が薦めてきた写真での一案と、この写真での一案をドンとぶつけてみたんです。ちょっとびっくりされたようではあったんですけれど、結果的にこれを選んでくださって。二人が無邪気に笑っている写真もあり、思惑深く目線が絡んだ写真もあり、ストーリーを予感させるじゃないですか。タイトル文字も遊んでみたり、「これがかもねぎ?」と思わせておいて裏で読ませるという趣向で、裏にはすごく情報を盛り込んでます。
――これ以前はどんなビジュアルだったんでしょうか。
写真が多かったんですが、おとなしい新劇風の印象でした。タイトルも明朝系の文字をシンプルに組んだものだったり、役者さんが顔を寄せ合った写真が並んでいたり、あまり余白を感じられないものでした。かもねぎショットが持っている奇妙キテレツな雰囲気を伝えるのに、もうちょっと遊び心があってもいいんじゃないかと思いました。
――これは3色ですか?
予算の関係もあり2色です。顔に目が行くデザインなので、肌の色が変にならない配色にしました。
――『ダブルス』はまたガラッとイメージが違いますね。
かもねぎショットの中にもシリーズがあって、「夢十夜シリーズ」というのはストーリー性のあるお芝居方向のもの、この『ダブルス』は「婦人ジャンプシリーズ」という別のシリーズで、身体の動きのおもしろさを盛り込んだ「生活ダンス」と呼んでいる舞台で、独特な動きと構成でかもねぎワールドに持っていかれる不思議な舞台なんです。ダンスをよく観る人たちにも訴えかけたいと思って、裏で何枚も写真を使うことで動きの独特さを出そうと思いました。
――かもねぎショットの「生活ダンス」は高い評価を得ていますが、その存在を若いお客さんにも伝えようとしたわけですね。実際の反応はどうでしたか。
これはちょっとわからないんですけど、『出来事』は目線のおもしろさでチラシの中から選びましたというアンケートがあったと、主宰の高見亮子さんからお礼状をいただきました。
――毎回雰囲気を変えたと言えば、天使エンジンですね。
ここは立ち上げの段階で方向性が未知数のところがありまして、1、2回やったところで本当にバラバラなんだということが見えたので(笑)、3回目くらいから作品ごとに真剣に遊びました。主宰者が書いた猿のイラストをベースにしたロゴと、「天使エンジン」という名前だけキープして、あとは毎回違うことをやりました。
1 『ゴー!ゴー!アストロノーツ』(1999.8)本チラシ(B5)
2 『蝸牛都市』(2000.11)本チラシ(B5)
3 『オムレツ』(2001.3)本チラシ(B5)
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(この項続く)
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