この記事は2004年8月に掲載されたものです。
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京 チラシアートワーク指南/第5回カンパニーのトータルデザイン(1)
●分割掲載です。初めての方は「はじめに」から順にご覧ください。
ゲスト:中埜コウシ
演出家・プロデューサー。1975年生まれ。早稲田大学第一文学部在学中、劇作家・吉田祥二氏と口遊階級を旗揚げ。99年からこまばアゴラ劇場勤務。青年団演出部にも所属し、平田オリザ氏の演出助手を務める。2001年から同劇場「夏のサミット」「冬のサミット」フェスティバルディレクター。04年4月から故郷・福井市の福井まちなか文化施設 響のホールプロデューサーに就任。演劇レーベル「bound」は01年に吉田氏と結成。6本の作品を発表する。現在は福井と東京で往復書簡的エッセイ「bound for bound」を公開中。
bound http://homepage2.nifty.com/~bound/
bound for bound http://bound.air-nifty.com/blog/
響のホール http://www.hibikinohall.com/
●このインタビューは2003年6月に収録しました。bound第5回公演を終えた時点での内容となっています。その後、boundは03年10月に第6回公演を行ない、04年4月から中埜コウシ氏は福井市・響のホールプロデューサーに就任しています。
出会った中でいちばん信頼が置ける京さんを
放っておくわけにはいかない(中埜)
――今回はカンパニーのトータルデザインについて伺います。「このテーマならぜひboundで」という京さんのご希望で、過去4回ではわざと触れずにおいた部分もあるそうです。演出家の中埜コウシさんを交えて進めていきたいと思いますが、お二人が知り合われたきっかけは。
中埜 青年団若手自主公演の第5回『knob』『髪をかきあげる』です。当初、僕は頼むつもりはなかったんですけれど、両面チラシの『髪をかきあげる』側の人(現・shelf主宰の矢野靖人氏)が京さんに依頼しまして、青年団内部でも2本立て企画なのでチラシも一緒につくったほうが効率いいという話になり、僕も乗っかる形でやることになりました。結果として「これは反対側に勝ったぞ」という印象があったので、京さんにもっとお願いしたいと思い、次(『スリヌケル』)は迷わず頼んだわけです。
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2 青年団若手自主公演『髪をかきあげる』(2000.2)(A4変形)
3 青年団若手自主公演『スリヌケル』(2001.1)(A4変形)
――両A面という体裁は、総合プロデューサーの平田オリザさんが決められたのですか。
中埜 チラシをどうするかという指示まではなかったんですけれど、折込作業を考えたら、別々につくるよりも一枚のほうがいいんじゃないかという提案がありました。
京 若手自主公演というのは、チラシなども基本的に若手レベルでプロデュースしていたんです。*1
――その時点で京さんの存在は知っていたわけですか。
中埜 チラシも見ていて、名前は知っていましたね。「芸術祭典・京」のイメージで、最初は京都の人なのかと思っていました(苦笑)。個人ではなくグループの名前だと勝手に思い込んでいて、それが「青年団の高橋京子」だと知ったのは、青年団に入ってからですね。個人なんだと驚いた記憶があります。*2
――中埜さんはそれまでの演劇活動でチラシもつくられていたわけですが、新たにboundで京さんというのは、インスピレーションのようなものがあったのでしょうか。
中埜 それまでお願いしていた人が、デザインはやっているけど演劇はあまりやっていなくて、それなりの形にはなるんですけれど物足りなさがありました。京さんは、それまで出会った中でいちばん信頼が置けるということで、これは放っておくわけにはいかないだろうと。
京 ありがとうございます。私が演劇寄りからスタートしている珍しいデザイナーだということもあったと思いますが、それだけじゃなくて、私がデザイナーの視点から演劇を見られるようになった時期と、boundのスタートとがうまく重なったんだと思います。それまでにもチラシだけでなく、その周辺物を体裁を揃えてうまくつくりたいという志向は少しずつ膨らんでいたんですが、さらに「(印刷物だけでなく)心地よく生きるために物事を考えること――それがデザインだ」ということに目が向いたときと重なった感じですね。boundというカンパニーそのものをデザインする――固く言えばCIですけれど、見えるものすべてをより心地よく訴える形でデザインしていく、丁寧につくり上げていくということ。それをboundも求めていたんだと思います。
――演劇とデザインの幸せな関係ですね。
京 ショップであってもレストランであっても、その世界観がすごく丁寧に作り込まれていなければ、違う世界を体験出来ないと思うんです。その点、演劇公演は期間限定のショップのようなもの。お店より軽いフットワークで、でもちゃんとした一つの世界を提示して喜んでもらうことが出来る格好の材料だと思います。
――京さんにとって、それがboundだったのはなぜでしょう。
京 『knob』『スリヌケル』の流れがあって、自分たちでユニットを立ち上げるという話は早い段階から聞いていました。その時点から「お願いします」と言われていたので、どういう風にやっていくか時間をかけて話すことが出来たんです。その中で、中埜君が目指す方向がこういうことを必要としていると感じたからかな。
劇団というだけでなく
人の生き方を示していることになれば(中埜)
――トータルデザインに京さんが興味を持たれたきっかけはなんでしょう。
京 bound以前にも、カンパニーの立ち上げから関わらせていただいたケースはいくつかあって、そのころからロゴ制作の提案はしていました。チラシをデザインする上で練られたロゴが一つ入ると紙面が締まるし、公演を重ねたときにもチラシに統一感が出るので。ロゴよりもっと遡ると、スタッフパスをつくったことがきっかけでしょうか。大学時代にダンス公演の宣美をやっていたときに、印刷でミスした当日パンフレットのイラスト部分を切り抜いて台紙に貼ったのが最初です。それがすごく喜んでもらえて、スタッフが盛り上がったんですね。次の公演からは最初から「つくって」という話になり、そして「スタッフばっかりずるい、キャストもつくってほしい」という話になって……。
中埜 キャストはいつ着けるの?
京 稽古場とか楽屋とか(笑)。後々、近しい舞台関係者のあいだではちょっとしたコレクターズアイテムになってました(笑)。そういうところから発展して、その舞台に関わっている人々にもっと楽しんでもらえたり、カンパニーというアイデンティティを外にアピールしたり、私の中で「デザインで出来ること」の可能性が広がっていったんです。
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2 この当日パンフの一部を切り抜いて台紙に貼った
――京さんがこんな考え方をしているとは、中埜さんは最初は想像していなかったでしょう。
中埜 トータルデザインという言葉が先にあったわけではなく、いろいろなことをデザインしてもらうということを京さんに依頼したわけで、こうした資料を見たのはあとからですね。いろいろな主宰者のタイプがあると思うんですけれど、もともと自分自身もデザインに関心があるほうなので、boundを立ち上げる際も演劇だけでなく、そのスタイルを生活全般のものとして考えたいと思っていました。ロゴを見たときに「あ、劇団ね」というだけでなく、理想ですが人の生き方を示しているみたいなことになればと思っています。演劇がスタートラインになるとは思うんですけれど、生活の一つとしてまず演劇を始めるということを考えていました。
適度な振り幅でやりたいことが出来る
遊び場を与えられた(京)
――boundはユニットではなくレーベルと名乗られています。宣伝美術であっても、プロジェクトに参加しようという意識なのでしょうか。
中埜 音楽のレーベルってあるじゃないですか。一つレーベルがあって、そこにいくつか作品があるという考え方が面白い。レーベルから各作品は等距離にあると思うんですね。舞台が中心にあって宣美が周辺にいるのではなく、僕とほかのスタッフやキャストの関係もそうありたいなと思って……。ユニットよりレーベルが割と近いんじゃないかということで。青年団は実際どうなのかわからないですけれど、あそこもレーベル的かも知れません。平田オリザという人がいるけれど、ヒエラルキーがあるわけではない。その青年団とも違ったイメージにしたかったんです。
京 私としては、遊び場をポンと与えられて、なにをしてもいいという感じです。適度な振り幅でやりたいことが出来る場を与えられました。それでレーベルということならば、まさに音楽レーベルのように、一貫性のあるスタイルの中でいろんなものをデザインしていきたいと思って、私からデザインコンセプトのプレゼンをしたんです。
中埜 レーベルということで、チラシの形はレコードジャケットの四角がヒントになっていると思うんですけれど、最低限入れるべきことのリストや提案があったのが、これですね。
boundデザインコンセプト(拡大:194KB)
――これは、第1回の作品がまだなにも決まっていない段階での提案ですか。
京 タイトルと主な情報は決まった時期でした。boundというスタイルを視覚的に印象づけてブランディングしていこうと、チラシデザインのガイドラインのようなものをつくってプレゼンしました。第1回だけではなく、boundのチラシのルールとして、四角サイズで、コントラストの高い写真を使い、ちょっとどうかと思うバランスの余白を取り、ロゴはスパッと目に入ってくるようイレギュラーな位置に置く。表にはイメージ的なビジュアルを1点で使い、裏には具体的にその作品の中身を連想させるような3点の写真を使うことにしました。
中埜 まず、boundという名前をお客様に覚えていただきたいということがありました。そのためには毎回違うというよりも、フォーマットで数回はやるべきだろうと思ったので、こういうものが出てきてうれしかったですね。
――ロゴ制作も含めての期間はどのくらいでしたか。
中埜 やりとりの回数はいつもそんなには多くないほうで、なにか言ったことに対し、練ってポンと返ってくることが多いんです。期間にすると実際3か月ぐらいでしょうか。
京 コンセプトワークに取り組みたい時期だったので、かなり集中しました。
――このフォーマットが踏襲されていくわけですね。
京 余白の割合が最初とは若干違っていますが、テーマカラーが1色あって、それがどこかにトンとあって、ロゴがどこか変なところにあってというスタイルは通していますね。
中埜 レーベルということで立ち上げたんですけれど、最初のころはある意味カンパニー的だったなと思って……。レーベル的な活動をするにはやはりしっかりとしたプロデューサーの存在が必要ですね。作家・演出家が中心にいると、どうしてもカンパニー的な形になってくると思います。これまで作が吉田祥二で、演出・中埜だったんですけれど、ある回は吉田が作・演出をしたり、僕が違ったホンを持ってきて演出することもやっていきたいので、レーベルらしくなってくるのは、むしろ今後なのかなと思っています。
(この項続く)
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