この記事は2004年8月に掲載されたものです。
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劇場閉鎖問題後の大阪の状況考察、「大阪小劇場2005年問題」を乗り越えられるか
2003年3月の扇町ミュージアムスクエア(OMS)閉館、04年2月の近鉄劇場・近鉄小劇場閉館で、大阪の劇場利用は大きな変化を余儀なくされている。その後の変化をまとめておきたい。
小劇場では、従来からOMSと同等のポジションにあったHEP HALL(梅田)の利用が進んでいる。週末の利用はもちろんだが、同劇場・丸山啓吾プロデューサーの進める平日公演支援(2004/1/21付本欄既報)や制作支援(2004/2/29付本欄既報)で、中堅カンパニーの公演長期化も見られる。5月のファントマ(本拠地・大阪市)による11日間14ステージ(5/21~5/31)はその象徴と言えるだろう。12月には劇場プロデュースで、過去最長の15日間16ステージ(12/5~12/19)も予定されている(2004/6/24付本欄既報)。これにAI・HALL(伊丹市)と劇場利用が定例化した芸術創造館(旭区)を加え、OMSクラスの公演は吸収されているのが現状だ。地元カンパニー中心だった一心寺シアター倶楽(天王寺)を少年王者舘(本拠地・名古屋市)が使う(10/1~10/3)など、新たな動きもある。
10月にオープンするin→dependent theatre 2nd(日本橋)(2004/7/12付本欄既報) と精華小劇場(難波)(2004/8/1付本欄既報)、05年4月から本格稼動するウルトラマーケット(大阪城ホール内西倉庫)(2004/5/18付本欄既報)、05年4~6月の大阪現代演劇祭〈仮設劇場〉(2004/7/10付本欄既報)を合わせると、キャパ200名規模の劇場は不足どころか、一挙に供給過剰になる可能性がある。カンパニー側がロングランで稼動率を上げていけるか、観客もそれに応えて平日に来場するか、劇場閉鎖問題の背後にあった課題がいよいよ表面化することになる。fringeではこれを「大阪小劇場2005年問題」と名付けてウォッチしていきたい。
中劇場では、近鉄小劇場(420名)を使っていたカンパニーがワッハホール(千日前、307名)とシアター・ドラマシティ(梅田、898名)にシフトしている。近鉄小劇場の420名は座席数で、消防署の認めた定員は486名。このためワッハホールを小さいと感じたカンパニーはドラマシティを使っているが、その分公演日程は短くなり、観客にとっては観劇機会が減少しているように思える。近鉄小劇場なら4日間公演していたところが、ドラマシティはわずか2日間というケースが目立つ。ワッハホールも演芸専用に設計されたためか客席前方に高低差がなく、「前の席ほど観にくい」という指摘がある。キャパ450名程度の使い勝手のよい中劇場がないというのが、大阪の実情である。
これをカバーするものとしてfringeが期待していたのが演劇向けに設計されたメイシアター中ホール(吹田市、492名~622名)だが、公共ホールとして地元優先のようで、自主事業以外の積極的な誘致が見られない。小ホールでの自主プロデュースは評価に値するが、中ホールを本来の使途である演劇公演に使うのも重要ではないか。広い視野を持てば、大阪市を凌駕する演劇文化の発信地になれる可能性があるのに残念である。
一方、円形劇場のMIDシアター(京橋、550名)は演劇利用が増えてきた。これまで演劇では数えるほどの利用だったが、04年はKOKAMI@network(4/16~4/18)、劇団青い鳥(9/17~9/18)、青山円形劇場プロデュース『ア・ラ・カルト』(12/28~12/30)が入った。関西のカンパニーもぜひ完全円形に挑戦してほしいし、青山円形公演の大阪会場としてもっと活用してほしい。
近鉄劇場(座席数954名、定員988名)については、ドラマシティや大阪厚生年金会館(ウェルシティ大阪)芸術ホール(1,100名)にシフトしている。かなり大きくなるが、大阪厚生年金会館大ホール(2,400名)を使うケースも見られる。異色の劇場としては、大阪国際交流センター大ホール(上本町、1,006名)をヴィレッヂプロデュース(阿佐ヶ谷スパイダースPREMIUM)が使用した(7/30~8/1)。近鉄劇場・小劇場跡地の至近にある1986年開館の施設だが、学会や音楽イベント中心だったため、演劇関係者にも知名度が低かった。観客にも「こんな劇場があったのか」と言われている。料金面では大阪厚生年金会館芸術ホールとほぼ同じである。91年に劇団☆新感線の劇場探しで、誰もが想像しなかった万国博ホール(千里)を使って驚かせたヴィレッヂの伝統を彷彿させる。