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京 チラシアートワーク指南――チラシづくりとは、情報を操作すること。
第3回チラシの企画

●分割掲載です。初めての方は「はじめに」から順にご覧ください。

主宰のイメージが出来ていて
それを言葉に落として伝えてくれた

――ほかに途中で戦略を変えた例はありますか。

途中から戦略が入ったケースがタテヨコ企画ですね。私は立ち上げから参加させていただき、1作目、2作目は処理をした写真を使っていたんですが、ビジュアル的に弱かったなと思ったんですね。タイトルもやわらかい言葉で、インパクトで押すタイプのものではないので、「これではいかん、これがタテヨコ企画だと印象づけるビジュアルをなにか持ちましょう」という話をカンパニーとして、その後イラストを使うことになったんです。それが糠谷貴使さんという方の、とても雰囲気のある絵なんですが、その方のイラスト=(イコール)タテヨコ企画と印象づけていくように戦略を立て直しました。このイラストを使った3作目からは覚えている方が多いのですが、その前はやはり埋もれてしまった感覚がありますね。

初演 再演 1 | 2

タテヨコ企画『風にゆれる、じっと見ている』
1 初演(2000.9)本チラシ(B5) 2 再演(2002.10)本チラシ(A4)

――その重要なビジュアルの決定なんですが、決まるまでに誰とどんな会話があり、どういうステップでイメージが遷移していくのでしょう。

二つ例をお話ししたいんですけれど、一つはものすごくスムーズに異論なく決まった例、もう一つはいろいろな人の意見を取り込んで何度も議論して決まった例です。

前者は青年団若手自主企画『スリヌケル』。この初回打ち合わせのときに私は入院していて、病院で打ち合わせをしたんです。そこで一回話し合いをして、退院してすぐ案を出し、簡潔にすぐ決まったんですね。演出の中埜コウシさんからいただいたオーダーで世界観がはっきりわかったので、完全に一案勝負で行って、即OKをもらいました。これがそのオーダーです。

イメージ、要望など

  • 今回は、「病院の休憩室」が舞台ですが、舞台装置としては、教会のような場所を考えています。建築家・安藤忠雄の「光の教会」がモチーフ。
  • 教会の中央の通路が舞台で、両脇の長椅子が客席。アゴラの客入れ階段から入って、真直ぐに舞台が伸び、その舞台がすーっと、天へと向かう。という絵がうかびます。
  • 特に宗教色を出したいわけではなく、人が集い、また自らと向き合う場所として、劇場と教会の共通点を思い、さらに人が浮遊する可能性のある場所として、教会をイメージしました。
  • 基本色は白。その他、キーワードは(天使の)羽。
  • チラシはシンプルで上品な、ハードカバー本の装丁のようなものを希望します。
(2000年10月31日の中埜コウシ氏→京のメール本文より抜粋)

中埜さんのイメージが出来上がっていて、それを言葉に落として私に伝えてくださっているので、チラシにする作業はとてもスムーズに出来たいい例です。本の装丁というイメージや、教会という神秘的なイメージ、それがすぐビジュアルとして見えたので、私がデザイナーとしてやったことと言えば、カタカナであるタイトルのタイポグラフィのおもしろさを活かしたり、『スリヌケル』の「ヌ」にニュアンスを加えて、グラデーションで消えゆくようにしたことぐらいです。

『スリヌケル』 採用案 不採用案 1 | 2 | 3

1 青年団若手自主公演『スリヌケル』(2001.1)本チラシ(A4変形)
夏のサミット2001(2001.8-10)
2 ポスター採用案(B2) 3 ポスター不採用案(B2)

あとはなにか印象づけることをやろうと、A4やB5という規格サイズにはしたくないねという話をして、その中で判型は具体化されました。縦にすっと長い形が教会や光をイメージし、ホワイトスペースを活かした余白のあるチラシにしています。用紙はライトスタッフです。価格はラフグロス系の紙では比較的手が届きやすいところにありますので、ぜひトライしてほしい紙です。

もう一つはすんなり運ばなかったというわけではないのですが、ものすごくいろいろな人が絡んで、すごく時間をかけて練ってつくったという例で、こまばアゴラ劇場のサミットのポスターです。サミットは新しい演劇祭を立ち上げるということで、私も企画段階からプロジェクトチームに参加し、最初の「夏のサミット2001」でB2のポスターをつくりました。

これにたどり着くまでに、どういう演劇祭にしようかというところから話が始まって、全体の枠組みを決めて、コピーが決まって、ロゴをつくって……と、すごく時間をかけています。その前までアゴラは大世紀末演劇展という名称での演劇祭をやっていて、地方のカンパニーを東京に呼ぶというカラーが定着していたんですね。世紀末が終わって新しい演劇祭を始めるということで、もっと若いカンパニーに広げたいとか、つくり手側が見える演劇祭にしたいというところから話をしていって、中埜さんとreset-Nの夏井孝裕さんがフェスティバルディレクターとして立つということになり、じゃあこの二人の顔を出していこうと。いま実際に東京で演劇をやっている二人の目でつくっていく演劇祭ということを見せていけば、リアルに訴えかけられるんじゃないかと。

――このビジュアルに決まるまでにも時間を要したのでしょうか。

まず、コピーが「演劇に点滴。」なんですが、これも変遷がいろいろあって、演劇を通して我々にいま出来ることを絞り込んだ末にこのコピーになり、じゃあこのコピーでどういうビジュアルで見せていこうかということになりました。私だけではなく、写真家がいて、プロジェクトメンバーやディレクター2人の意見があり、いろいろな話し合いの中で、ポスターはインパクトのあるイメージ戦略で行くことになりました。見る人が見ればわかるこの二人が、平台に押し潰されて、カンフル剤を持っている。これで印象づけられたと思ったので、冬はリーフレットにも同じ写真の手元をクローズアップした画像を使いました。余談ですが、カンフル剤の中の液体の色は、夏がオレンジ、冬が黄色と、サミットロゴの色に合わせてあります。わかりにくいですけど(笑)。

リーフレット『冬のサミット2001』(2001.12-2002.3)リーフレット(部分)

(この項続く)

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