Pocket

京 チラシアートワーク指南――チラシづくりとは、情報を操作すること。
第3回チラシの企画

●分割掲載です。初めての方は「はじめに」から順にご覧ください。

取っておきたいと思うのは
40枚の束だと5枚くらいかな

――東京の劇場で受け取るチラシ束ですと、毎回40?50枚程度あると思いますが、京さんがデザイナーとして取っておきたいと思うのはどのくらいでしょう。

例えば40枚の束だと5枚くらいかなと思います。取っておきたいと思うポイントが何段階かあり、まずデザイナーの目で見てインパクトがあるもの、パッと見て印象が残っていいチラシだなと思うもの。次に一般客の目で見て行きたいと思うもの、企画自体に惹かれたもの。最後にもう一回デザイナーの目に戻って、パーツとして地図や写真の処理、タイトル文字などがおもしろかったり、すごくいいと思ったものは、別々に分けて取っておきます。

――そう思うチラシは、カンパニーが固定化されていますか。

固定化はされていませんが、ここのカンパニーはいつも残るなというのはあります。弘前劇場とか、あとはデザイナー個人で有山達也さん(アリヤマデザインストア)、パパ・タラフマラを手掛けている葛西薫さん(サン・アド)、そしてフィリップ・デュクフレなどダンス公演をよく手掛けている私の師匠の近藤一弥さん(株式会社カズヤコンドウ)。いいなと思って裏でクレジットを見ると有山さんだったり……ということはよくあります。

弘前劇場 http://www.hirogeki.co.jp/
[index]→[過去の公演]参照

弘前劇場は写植の知識もちゃんとある人が、すごく丁寧に組んでいるというのがすごくわかるので読みやすいですし、ビジュアルもシンプルだけれどイメージが広がるようなつくりをしているので。デザイナーの目で見ていつも「いい仕事しているなあ」って思いますね。ムダがない美しさがあると思います。舞台美術の三浦孝治さんがデザイナーとして一通りのことをしてらっしゃると記憶しています。色合いも割と落ち着いた感じですが、象徴的なものを写真でうまく持ってきて、でも目を留めるなにかがある。見習いたいと思いますね。

有山さんは役者の佇まいをすごくシンプルに撮ったりとか、わかりやすい一枚の写真にきめ細やかな趣向が凝らされていて、いつもすごいきれいですよ。この方はなにかやわらかさがあって。

葛西さんはデザインをしっかり押さえた上での遊び心が満載。“遊ぶ”ってこうでなきゃ、と思います。近藤さんはストイックで洗練された奥深いグラフィックを生み出す方。もともとファンだったのが、ちょっとしたきっかけから、いま週に一度アシスタントをさせていただいています。

――若いカンパニーでいいなと思うところはありますか。

高橋歩さん(双数姉妹、グリングなど)は印象に残るつくりをしていますね。ニブロールはまだ実験色がありますけど、目に留まりますね。bird’s-eye viewも世界観がある感じで、上手だと思います。ペテカンは毎回統一感があって、1色なのでコストもそんなにかけていない。でもすぐにペテカンだってわかる。デザイン的に特にうまいというわけではありませんが、イメージを定着させていく手法としては成功していると思います。ほかに、いいむろなおきマイムカンパニー、上海太郎舞踏公司、ポかリン記憶舎なども保存してあります。

双数姉妹 http://www.duelsisters.com/
[home]→[history]参照
グリング http://www.gring.info/
[history]参照
ニブロール http://www.nibroll.com/
[menu]→[dance]参照
ペテカン http://www.petekan.com/
[menu]→[上演履歴]参照
ポかリン記憶舎 http://www.pocarine.com/
[menu]→[花:当舎公演歴]参照

カンパニー内の満足だけでつくっていると
そこから外へ発信出来ていない

――印象に残るチラシが限られているのはなぜでしょう。デザイナーとして、そういう現状をどう思いますか。

私がつくったチラシもそういうふるいにかけられ、1回戦で落ちるとしたら非常にカンパニーに対して申し訳ないことだし、私自身も悲しいことだなと我が身のこととして思っちゃうんですけど、どのカンパニーも一枚のチラシが出来るまでには手間暇をかけていると思うので、40枚中35枚が捨てられてしまうというのは痛いですよね。つらいですよね。なにがそうさせているとかいうと……つくる側なので、逆にどう思います?

――厳しい言い方ですが、独り善がりということでしょう。もちろん本人は真剣につくっていると思いますが、それを見て行きたいと思うチラシになっていないですね。演劇は観客がいてこそですから、話題にならない、集客に貢献しないものは役目を果たしていないことになります。

他人のチラシをそういう風に言うのもつらいんですけど、カンパニー内の満足だけでつくっていて、そこから外へ発信出来ていないという点があると思います。もっと観客側のことや、チラシ束の中でどうアピールしていくかということまで気を配ってつくってほしいですね。なんか自己完結しているなという感じが、いろいろなチラシから見受けられます。


戦略はなにもないところから
私がでっち上げるのではない

――今回は具体的にチラシでどうやってイメージを伝えていくかを考えたいと思います。言葉を変えれば戦略を立てるということですが、カンパニーと京さんのあいだでどのような過程で詰めていくものなのでしょう。

ちょっと話が戻ってしまうんですが、今回の講座のサブタイトルに「チラシづくりは情報を操作すること」とあるじゃないですか。これに対して、この攻撃的な言葉にギクッとしたという感想も受けたんですね。そこを説明したかったんですけど、戦略というのはなにもないところから私がでっち上げるというのではなく、私の仕事はそのカンパニーが見せたいものにより近づいて、それを形で伝えるという仕事なんですよ。だから私はマジックボックスでもマジシャンでもなく、なにもないところからポッと鳩を出せるわけでもなく、「いかにカンパニーの意図を一枚のチラシに流し込むか、誤操作することなく、正しい操作で情報を伝えるよう、ツールとしてのチラシに散りばめるか」ということなんですよ。主宰者なり制作者が、その芝居をどう売っていくかが前段階で戦略としてあった上で、私が本来やるべきことは、それをちゃんと人に伝えるようチラシに落とし込む戦略なんですよね。

――ポリシーとしてはそういうことですよね。その具体的な方法を伺いたいんですが、毎回デザインを統一する戦略もあれば、意図的にバラバラにすることもあるということでした。それを決めるのは誰で、どういった話し合いで決まっていくのでしょう。

私が立ち上げから関わることが出来れば、長期的な線で考えてやっていきたいと思うので、そのカンパニーの方向性を聞いて、それを世の中で定着させるためにどうするかを考えます。プロダクション形式で毎回違う役者さんを使い、特にカラーを決めずに遊び心たっぷりにやっていきたいカンパニーであれば、印象深いロゴを一つつくって、あとは臨機応変にそのときいちばんいいビジュアルを選んでいこうと考えるし、固定の作家や役者によって絞り込んだ作品性でやっていきたいということならば、統一感があってつないでいけるものを考えます。そのカンパニーのコンセプトを総合的に判断しながら、一緒に考えていきますね。

――希望としては、デザイナー側が決めたいということでしょうか。

主宰者からこういう風に行きたいと言われ、ビジュアルに落とし込む作業は私になります。希望は全部言っていただいて、それを取り込むということです。

――旗揚げ時はどれだけ続けていけるか、やる側はあまり先のことを考えられないかも知れません。そういう状況で長期的なコンセプトの打ち合わせは可能でしょうか。

立ち上げならば、やはり今後2年3年とどんな考え方でやっていきたいか、訊きますね。そういうビジョンがしっかりと立っていればチラシの戦略にも組み込めるし、立っていなければ柔軟に対応出来る方法をそれなりに模索します。

――すでにあるカンパニーを途中から手掛ける場合はどうですか。

充分経験を積んでいるところを私が引き継いだ例として、かもねぎショットがあります。先方の意図として、より客層を広げたいというところからお話をいただきました。これから毎回私につくらせていただけそうなのか、それとも一回だけ変えてみたいということなのか、ちょっと探りを入れながら、それではこういう方向性でどうでしょうかと提案型で意識改革していただいて、新しいビジュアルをつくっていきました。

(この項続く)

前の記事 京 チラシアートワーク指南/第2回宣伝美術発注の基本(4)
次の記事 京 チラシアートワーク指南/第3回チラシの企画(2)