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お手伝いさんチームとはなにか

公演の本番運営は、カンパニー内のスタッフだけではどうしても人手が足りないと思います。その場合、出演しない俳優が多数いたり、劇場側のスタッフが稼動出来る場合などを除き、外部から臨時にお手伝いさんを集めることになります。若手カンパニーでは、お手伝いさんを友人知人に頼ったり、他のカンパニーと人手を融通し合って確保していることが多いようです。これらの多くはボランティアですが、制作者・制作会社に有償で本番運営を依頼する場合もあります。旅公演先で人脈がない場合は、お手伝いさんを含めて現地制作に依頼することになります。

しかし、そのカンパニーが本当に魅力的であれば、臨時にお手伝いさんを集めようと思わなくても、手伝いたいと思う人が自然に集まってくるのではないでしょうか。専任制作者としてカンパニーに入るのは無理でも、シフトを組めば公演期間中だけなら手伝えるという人は相当います。そうした「このカンパニーだから手伝いたい」という人を集めた、自前のお手伝いさんチームを組織出来るかどうかが、カンパニーの進化には必要だと私は考えます。

お手伝いさんが自前がどうかで、現場の雰囲気は全く違います。お願いしてきてもらった人材は、ほかにやりたいことや自分が育てたいカンパニーが別にあるわけで、あなたのカンパニーの未来を一緒に考えてくれるわけではありません。制作会社も長期のマネジメント契約を結んでいるのなら別ですが、単なる制作受託なら一回限りの関係性です。仕事はそつなくこなしてくれるかも知れませんが、目指すところは違うでしょう。

お手伝いさんが一時的なヘルプ要員なのか、カンパニーを共に育てたいと考える同志なのかで、本番運営は劇的に変わります。自前のお手伝いさんチームを早い段階から組織していくこと、定期的にツアーする旅公演先にも組織していくこと、それが重要だと思います。

なぜ自前でないとダメなのか

お手伝いさんには、適性に応じて受付・客入れ・物販・楽屋などを担当してもらいます。いずれもカンパニーごとに特徴があるため、公演回数を重ねて経験を積み、そこに合った最適の方法を見つけるべきものです。「客入れ成功の秘訣」でも書きましたが、ポイントはお手伝いさんの教育です。しかし、本番前の短い時間でどこまで教育出来るかは疑問で、外部の制作者・制作会社の場合は、逆に自分たちのスタイルを持ち込んできます。ここできちんと意識合わせが出来ていないと、カンパニーのポリシーにブレが出てしまい、観客が不信感を覚えることになります。俳優も安心して舞台に専念することが出来ないでしょう。

受付では、招待客への対応で差が出ると思います。外部の制作者が招待受付を担当すると、カンパニーの制作者と招待客が直接接しないことになります。長期マネジメント契約を結んでいるのならいいですが、一回限りの制作受託の場合は、自分の挨拶は簡単に済ませ、カンパニーの制作者に取り次ぐべきです。名刺を出された場合も、自分の名刺を出すのではなく、カンパニーの制作者に取り次ぐか、預かっておいた名刺を渡すべきでしょう。外部の制作者は黒衣に徹するべきです。自前のお手伝いさんなら、ここはしっかりと心得て適切な対応をしてくれるでしょう。

当日券が多いカンパニーも要注意です。当日券は受付に時間がかかり、開演押しの原因になります。並んで入れなかったお客様とのトラブルにもなりかねません。舞台監督との密接なリレーションが不可欠で、外部の制作者が適切に対応出来るとは限りません。レギュラーで本番運営に入り、客層や非常時の対応を熟知したお手伝いさんにしかこなせないと思います。カンパニーの制作者が受付に座ると全体が見渡せなくなりますので、通常はフリーに動ける体制にすると思います。このため、受付に座るお手伝いさんをどれだけ信頼出来るかにかかっており、当日券は現金も扱うのでなおさらです。

自由席の客入れも技術が必要です。混雑時の小劇場は、客入れがきちんと出来るかどうかで、観たいかどうかが決まってしまうほどです。どんなに作品が素晴らしくても、客入れがグダグダなら、それは公演に値しません。観客動員が増えるにつれて、これは深刻な課題になりますので、それまでに現場を仕切れるお手伝いさんを自前で組織することが重要になるでしょう。指定席であっても、開場まで屋外で待つ劇場や、立見席へ誘導する劇場など、フロントスタッフの能力が問われるシーンは少なくありません。これらも経験が必要で、成長するカンパニーにはそれなりのお手伝いさんが不可欠なのです。

物販は誰にでも出来るように思えますが、お客様相手に特徴や魅力を説明し、グッズによっては過去の作品知識も問われます。黙っているのと、積極的に売り口上を言うのとでは、当然ながら売れ行きも違います。自前のお手伝いさんなら、少しもグッズが売れるよう、手書きのPOPなどを飾ってくれたり、俳優のサインを入れることを考えてくれます。「このカンパニーだから手伝いたい」という思いがあるからこその行動で、外部のお手伝いさんは自発的にそこまでしないでしょう。物販をするカンパニーは小劇場でも増えましたが、その多くがグッズを並べているだけです。売り子がカンパニーのために必死で売っているところが、どれだけあるでしょうか。

「楽屋担当の役割」に書いたとおり、楽屋での作業も多岐に渡ります。劇場入りする前から動き出しますので、お手伝いさんにすべてを任せることは難しいと思いますが、俳優の信頼感を得た人材をアシスタントとして配置出来れば、現場がずいぶん楽になります。楽屋エリアで動くため、俳優の繊細な感情の起伏を察知出来る人材が求められ、俳優志望者が適任だと思います。若手カンパニーなら、出身母体の学生劇団から人材を探すのもいいでしょう。学生劇団が学外の劇場を利用する機会は少ないため、舞台裏を知るよい経験になると思います。

魅力のバロメータ

観客動員にさえ苦労しているのに、お手伝いさんを自前で組織するのは無理ではないかと思われるかも知れません。しかし、現実はその逆だと思います。魅力があるのに観客が入っていない光景を見て、人は「なんとかしてあげたい」と思うのではないでしょうか。いきなり全員は無理でも、お手伝いさんが自らの意思で少しずつ集まってくるようなカンパニーでなければ、作品自体に魅力がないということではないでしょうか。当然ながら、すべてのカンパニーにお手伝いさん志望者がいるわけではなく、外部の制作者に頼らざるを得ないところもあるでしょう。けれど、それがあたりまえの姿ではなく、なぜ自分たちのカンパニーは志望者がいないのかを考えて、改善を図ってほしいのです。

遊気舎でも、創生期は友人知人の伝手によるお手伝いさんを頼んだり、出番の遅い俳優が客入れをしていました。関西では、南河内万歳一座が俳優による客入れを当然のようにやっていたため、私も最初はそれが普通だと思っていましたが、カンパニー内で「これから出演する俳優の素の姿を見せるのはどうか」との声もあり、しだいにスタッフだけで運営するようになりました。

大阪は一般向けの演劇講座を開講していた関係で、お手伝いさん志望者には恵まれていましたが、東京でも公演を重ねるにつれてお手伝いさん志望者が現われ、大阪・東京でそれぞれ常時4名程度のお手伝いさんチームを組織することが出来ました。これに専任制作者が常時3名いたほか、人手がかかる劇場の場合は演出部・小道具部の専任スタッフも手伝い、フロントスタッフとして10名程度を確保することが出来ました。これだけいれば、どんな劇場でもなんとかなります。

お手伝いさんは当日パンフで募集した程度ですが、集めるのに特に苦労した記憶はありません。重要なのは、動員が増えるにつれてお手伝いさん志望者が集まったのではなく、お手伝いしたいという人は、最初から名乗り出てくれたということです。つまり、創生期の人手不足の時期こそ、お手伝いさんは集まりやすいのです。遊気舎も最初から洗練されていたわけではなく、体制が整うまでバタバタでした。だからこそ、お手伝いさんが来てくれたのでしょう。誰でも人手が足りているところより、人手不足で困っているところを助けてあげたいと思うはず。このため、若手カンパニー同士で人手を融通し合って、フロントスタッフが足りているように見せるのは、もしかしたら逆効果になるかも知れません。

当時よく比較された惑星ピスタチオ、大人計画、ナイロン100℃も、それぞれ小劇場クラスで上演しているときから、お手伝いさんチームを組織していたと思います。遊気舎は人数は少ない部類でしたが、メンバーの結束が固く、素晴らしい働きをしてくれました。正式な劇団員ではないけれど、劇団員と同じ意識を持って公演を支えてくれたと思います。打ち上げでの大入り袋の読み上げは、お手伝いさんへの拍手がひときわ大きかったと記憶しています。

小劇場では、つくり手と観客の境界が薄れ、わかる人だけに観てもらえればいいという風潮もあります。そういう環境の中で、フロントスタッフも互助の精神でまかなわれているのかも知れません。けれど、だからこそ、そこから抜きん出てステップアップするためには、フロントスタッフを自前で組織して差別化するぐらいの意気込みが必要ではないかと思います。演劇に詳しい人でなくてもいいと思います。そのカンパニーの公演に立ち会っていけば、そのカンパニーに詳しくなります。ぜひ、自前のお手伝いさんチームを組織してください。

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