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選考委員に観てもらうにはどうしたらいいのか

荻野 そういった助成は充実されてきてはいると思いますが、かといって申請するすべてのカンパニーが通るわけではないというのが現実です。選考委員の方々はいったいどこで判断されているのかという話もしてみたいと思うんですが。詩森さん、今回はいかがでしたか。

詩森 もう全然わからないです(苦笑)。訊きたい、訊きたいです。

荻野 選考委員の方々は、風琴工房を過去にご覧になっているんでしょうか。

詩森 ご覧になっている方もいると思います。助成金が決まってからいただいた書類の中に、選考委員の方のお名前があったんですけれど、観ていただいている方が多かったですね。

荻野 東京が本拠地のカンパニーならいいんですけれど、地域のカンパニーの場合、選考委員の方々も東京在住の方がほとんどなので、いったいどうしたらいいのかというのが率直なところだと思うんですが、その辺はなんとしてでも東京公演をするなりして、観てもらわないといけないと思いますか。

詩森 それはわからないですね、どうなんでしょう。どうなんですか?

松尾 東京に審査員が集中していると、地方の方が不利になってしまいます。地方にもなんらかの形で、審査員でなくてもいいんですけれど、審査員に対して情報を渡せるような人や機関というのは必要なんじゃないかと思います。そうしないと、いつまでたっても東京一極集中ですから。

詩森 そうですよね、カンパニーのほうの希望としては、もちろん企画書は出すわけですから、それに対する評価ではあるとは思うけれども、やっぱりどういう選考基準かはわからなくても、自分のカンパニーの作品に対する姿勢みたいなものが評価されていただけたんだと思いたいというのがあるので、ぜひ公演自体の情報とかがきちんと伝達された形で、選考が行なわれるといいなとは思います。

荻野 ただ、これから伸びていく若手のカンパニーを選考委員の方々に観ていただくというのは、難しいですよね。文化庁の助成金もばらまき助成から拠点助成に移行してますよね。ということは、若いこれから伸びていくカンパニーにとっては非常に厳しくなりますよね。若手はどうしたらいいんでしょう。

松尾 いくら拠点助成が中心になるとはいえ、芸文もある程度は残ります。採択されるにはいくつか条件があると思います。その条件を満たせば必ず採択されるというわけではないのですが、必要最低限の条件としてこれはクリアしておかなければならないということはあります。まず、審査員の方に公演を観てもらわないといけないということ。審査員の方が誰一人観ていなければ、採択に値するカンパニーなのか判断出来ないわけですから。観てもらえないとその時点で不採択になってしまう可能性が大きいと思います。まず観てもらうためにはどうしたらいいかというと、審査員の方たちも非常に忙しいですけれど、熱心に公演のほうは観ています。日本芸術文化振興会のホームページで審査員の方はオープンにされていますので、そこで調べて公演の案内を送って観ていただくというのは大事です。詩森さんも1回芸文は不採択でしたよね。私たちも最初は不採択でした。最初はどういう劇団なのかわからないから不採択になる。ただ、申請したことでこういう劇団が継続して活動しているということが認知されます。そうすると何人かの審査員の方は観に来ていただけると思います。

詩森 セゾン文化財団には言われました。「初年度は無理ですよ」って。はっきり言われました(苦笑)。


様々な助成金にチャレンジしよう

荻野 芸術文化振興基金の話をしてきたわけですが、実際には助成金というのはたくさんあって、東京に本拠地を置いているカンパニーが申請出来るものだけでも、数十はあるはずです。そういった存在を皆さん知らないし、こまめに出そうとしない傾向が強いと私は思うんですね。そのため競争率が低くなっているものもあるんです。非常にもったいないので、fringeのサイトでも申請を呼び掛けてるんですけれど……。書類作成が大変なのはわかるけれど、申請すべきですよね。

松尾 申請すべきですね。申請すると非常にいいのは、やはり自分たちの劇団の活動を改めて考えることが出来ます。青年団は結構多くの助成金に採択されていますが、いちばん大きな理由は公共性のある活動をしているからだと思います。公共性のある活動とはなにかというと、自分たちの演劇の活動が社会に対して開かれているかどうかだと思います。例えばワークショップは、生涯教育や表現教育といった分野とも関連します。自分たちの活動がいかに公共性を持っているかを感じることが大事です。申請書を書く段階になりますと、自分たちは演劇をしているけれども、この活動は公共性があるんだろうかということを改めて考えますから……。書くという作業は自分たちの活動を再認識する上でも大事なので、ぜひ一度書いて出すことをオススメします。一度不採択だったからといって、あきらめないでほしい。だいたい初年度は不採択が多いですから、そこでなぜ不採択だったかを考えて、自分たちの活動に活かしていけばいいと思います。

荻野 詩森さん、ほかに狙っている助成金はあるんですか。

詩森 (笑)そうですね、出来る限り出したいとは思ってるんですけれど……。

荻野 費目も割と似通っていますから、一つ出せば参考になりますしね。助成金の申請書以外に、特別にお付けになっている書類はあるんですか。

詩森 劇団の詳細なプロフィールはつくってありますね。あとは美術が結構凝ってますので、カラーコピーで舞台の写真だけは添付するようにしています。

荻野 なるほど。いまはカンパニー側からの助成金申請のテクニックをお話ししてきたんですけれど、助成金はなにもカンパニーだけが申請するものではなく、公共ホール側も地域創造、文化庁、日本財団などに対して申請することがあると思うんです。そういった考え方として、ホールとの共同企画、共催という形で申請する可能性はないですかね。

松尾 それは多いにあると思います。そのような活動をしていただければ、通常の予算よりも豊かな予算が出来ますから……。公演のほうも余裕を持って進められますので、それはカンパニーと相談してぜひ進めていただきたいですね。

荻野 助成金の申請要項を見ていると、地方公共団体や公益法人しか申請出来ないものも少なくないんですね。そうなると、それは公共ホールの側から申請していただかないといけないので……。特にアーティスト・イン・レジデンスなどは費用も多額にかかると思いますので、アーティスト側と相談して数年前からプランを立てて申請していくということが必要だと思います。

松尾 全くそのとおりですね。


カンパニーの財政に占める助成金

荻野 今日来ていただいているお二人はアーティスティック系のカンパニーで、エンタテインメント系カンパニーのようにチケット収入を伸ばしていくという性格ではないわけですが、どうしても「お客さんを選ぶ」というところがあるので、助成金のウエイトは非常に高いと思うんですよ。今年採択された詩森さん、長年継続されている松尾さんに、劇団財政における助成金の重要性を振り返っていただきたんですが。

松尾 やはり非常に大きい収入ですから、本当に大事なんですよね。うちはアーツプラン21が出来た最初の年に採択されて、3年継続したのですが、そのあとの再継続のときに不採択になりました。そこで助成金の額が半分くらいに減りました。半分というのは、アーツプランの団体助成はなくなったのですが、芸術文化振興基金やその他の助成金である程度のお金は集めてくることが出来たからです。いままで順調に準備してきたのが、さあこれからというときに予算が大幅に減りました。これはかなり大きな打撃で、少ない予算で活動出来る体制にするのに、3、4年かかりました。最初あったものがいきなりなくなるというのは、本当に苦労しました。それくらい根幹を担う重要な予算になってきているので、ないと活動に支障を来すというのが正直なところですね。

詩森 ここに使いたい、あそこに使いたいと思っていたところに、潤沢にお金が使えるというのはやはりすごくありがたいことなんだなとは思うんですけど、まだ初年度ということもあって、重要性というところまでは考えが至っていない部分があるんです。……今日ここにお呼びいただいてすごく考えたんですね。ばらまき助成と言われてしまうのは、観客にとってあまりいい表現ではないものに助成が下りていることも一因としてあるように思っていて、制度の問題はもちろんよりよいものにしていかなければならないけれど、観客から「助成金が下りるくらいの作品はさすがにクリエイティビティが高いな」と思ってもらえる作品をつくる責務がカンパニー側にはあると思います。いただいた分をお返し出来るような公演をつくりたいな、といまは思ってるんですね。

荻野 助成金が半分になってしまい、体制を立て直すのに時間がかかったとおっしゃいましたけど、それは具体的にどうやって立て直しをしたんですか。

松尾 具体的には俳優のギャランティを単純に半額にしました。いろんな面で削れるのはギャランティしかないですから。俳優が活動していく上で、ほかの仕事をしないといけなくなりますから、俳優には大変な苦労をかけてしまったという思いがあります。

荻野 それは、舞台以外の収入源を俳優の皆さんが確保する時間的な準備が必要だったということですか。

松尾 そうですね。しかし、そういう活動が起きたからといって、作品のクオリティは落とせないですから……。青年団の場合はシーンに区切って稽古をしていますから、ある俳優が仕事が入って来られない場合はその人がいないシーンだけを選んで稽古して、作品をつくっていきました。


助成金と旅公演の関係

荻野 ここにいらっしゃる皆さんもよくご存知だと思いますが、演劇で旅公演はお金がかかるもので、ステージ数をこなさない公演の場合、どうしても仕込みとバラシに労力とお金がかかります。幕が開いてしまえば、ロングランするための1ステージあたりのランニングコストはさほどではなく、どうしても仕込みとバラシ、そして移動費・宿泊費などのウエイトが高いと思うんですね。ですから、旅公演を実現させるためにも助成金が不可欠ではないかと思うんですが。

松尾 はい。公演をするのには本当にお金がかかります。

荻野 詩森さんもこれから旅公演を実現されていくこともあると思うんですが、今後具体的に旅公演を考えるにあたって、助成金はどういう風に組み合わせていきたいですか。

詩森 そうですね、バカみたいな言い方になっちゃいますけれど、よりよい作品をつくるために使いたいですね。

荻野 芸術文化振興基金の現代舞台芸術創造普及活動の採択先を細かく見ていると、旅公演をするというのが大きな申請理由になっていて、各都市を回るツアーに多額の助成金が降りているというのが現実だと思います。ですから旅公演というのは、助成金の説得力にはなると思うんですよ。詩森さんが理想だとされているアーティスト・イン・レジデンスとも絡めて、ぜひ実現させていってください。本日はありがとうございました。

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