この記事は2002年9月に掲載されたものです。
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助成金と旅公演のテクニック(松尾洋一郎+詩森ろば+荻野達也)(1)
これは2002年8月19日に東京国際フォーラム(東京・有楽町)で行なわれた芸術見本市2002東京(アジア舞台芸術際/芸術見本市実行委員会主催)のセミナー「助成金と旅公演のテクニック」の内容です。松尾洋一郎(青年団制作)、詩森ろば(風琴工房主宰)のお二人をお招きし、荻野達也(fringeプロデューサー)の進行で約90分のトークセッションを実施しました。文章化に伴い、編集した部分もあります。採録にあたっては芸術見本市運営事務局の協力を得ました。
芸術見本市 http://www.tpam.or.jp/
青年団 http://www.seinendan.org/
風琴工房 http://www.windyharp.org/
自己紹介
荻野 それでは、セミナー「助成金と旅公演のテクニック」を始めさせていただきます。進行役を務めさせていただきます荻野と申します。よろしくお願いいたします。私自身は2000年末まで遊気舎(本拠地・大阪市)という小劇場系カンパニーのプロデューサーを務めまして、10年ほどそちらの経験を持っております。その中でいろいろと考えてきたことを小劇場制作の場に活かしたいということで、2001年2月からインターネットでfringeというサイトを開いています。今回はそのご縁がありまして、事務局のほうから特に関心が高いであろう助成金と旅公演についてお時間をいただきましたので、ゲストの方をお招きしてお話をしていきたいと思います。
本日は青年団(本拠地・東京都目黒区)の松尾洋一郎さん、風琴工房(本拠地・東京都品川区)の詩森ろばさんをお呼びしています。松尾さんは日本の小劇場系カンパニーの中でたぶん最も助成金、そして旅公演に関してのご経験をお持ちであろうということでご登場いただきました。それから詩森さん、こちらは風琴工房が今年初めて二つの助成金を獲得されまして、初心者の立場でしゃべっていただこうと思い、ご登場いただきました。よく慣れてらっしゃる方と初めての方という対比になると思います。この場は芸術団体の方だけでなく、公共ホールの関係者の方もたくさんいらっしゃると思います。単に制作者として助成金を受ける側だけの話ではなく、公共ホール側の立場にも立ちまして、「どうすれば招聘されやすいのか」「招聘が実現するのか」ということを、経験を踏まえておしゃべりしていきたいと思います。それではお二人からご挨拶をお願いいたします。
松尾 青年団の制作を担当している松尾です。よろしくお願いいたします。私は94年から青年団の制作をやっています。芸術文化振興基金が平成2年から始まりました。青年団の活動もそのころから大きくなり、私が参加し始めたころから助成金の申請をし始めました。初年度は落ちてるんですけど2年目からいただいてます。そのあとは毎年継続して申請しております。いまは私たちの劇団にとって助成金での収入というものは大きな割合を占めてきています。同じく旅公演も91年にいちばん最初にやりました。それ以来毎年続けています。最初は手打ちだったんですが、だんだん公共ホールからも買い取りの依頼を受けることが増えてきています。今日は旅公演、助成金も主に公共の話が多くなってくると思います。私が制作をやってきて感じたこと、それから体験したことをお話ししたいと思います。
詩森 風琴工房の主宰をしております詩森ろばと申します。風琴工房は1993年に設立されたカンパニーで、私のオリジナル作品を主に上演しているカンパニーです。今回初めて助成金をいただいたということで呼んでいただいたんですけれど、去年初めて申請いたしまして、去年はいただけなくて今年度2年目で助成をいただけたという形になっております。ですから、どのようにすれば助成金がもらえるのかなんていうことは、もちろん私はわかっていないので、むしろ苦労した点とかわからなかった点とかを、本当に初心者の立場からお話ししたり、教えていただけたらいいなと思っております。よろしくお願いいたします。
受け入れ団体の必要性
荻野 早速なんですけれど、松尾さんは青年団がちょうど昨日まで三重公演だったと思うんですが、会場はどちらだったんでしょうか。
松尾 三重県文化会館ですね。津市にある三重県が運営しているホールです。実際には県の外郭団体の財団が運営しているホールです。
荻野 もう何回も三重公演をご経験なさってると思うんですけれど、今回の現地の様子はいかがでしょう。実際行かれてみて、受け入れの体制とかは。
松尾 私自身は行ってないんですよ。うちの劇団はちょっと特殊というか、活動の規模からいってこれくらいが妥当なのかわからないんですが、制作の人間が複数います。国内のツアーは別に担当者がいますので、その人間が現地についています。私は津へは去年行ったんですけれど、非常に受け入れ体制もよかったですね。よいというのは、芝居ですからやはりたくさんのお客さんに観ていただくということが最も大事なんですけれど、情宣がうまく行き渡っていて、予定のキャパがすべて埋まるような感じでお客さんに入っていただいたんです。これはやっていて非常にうれしいことでした。お客さんを埋める上で大事なのは告知なんですけれど、単に行って公演をやっているだけでは情宣が弱いので、私たちはだいたい一月前に代表の平田オリザが現地のほうに行き、ワークショップをやることにしています。このワークショップを前宣伝のような形で行ない、実際に地元で演劇に興味ある方や高校の演劇部の方たちに参加してもらって、ワークショップをしています。そのワークショップ自体は一般公開もしているので、受講出来なかった人でも見学することが出来ます。ワークショップを見て興味が広がって、公演に来ていただくということがあります。
荻野 旅公演の場合、現地制作といったものであるとか、それを置かない場合は受け入れ劇団の存在が非常に重要で、我々はそういったものがないと不安だと思うんですが、その辺はいかがですか。
松尾 全くそのとおりですね。例えば、なにも知らない土地でもホールはありますから、そこを手打ちで借りて公演するだけだったら物理的には出来ます。ただ、やはり演劇ですから、どうしても公演を観てもらわないといけないです。観てもらうのも、単に人が集まらないから動員をかけて、興味がないような家族の人や知り合いの人を呼んできてもらってもダメなんです。劇場自体の空気が非常に緊張感がなくなってしまいますから。ちょっとでも興味がある人に対して情報を流すこと、そしてその人たちの興味を刺激していくことが大切です。劇場に自発的に来てもらって観てもらうことが大事なんで、少しでも興味があるところに向けて情報を流していくという意味では、受け入れ団体や劇団というものは非常に大事です。
荻野 詩森さんは東京に本拠地を置かれているカンパニーを主宰されているわけですが、ご自身が今後旅公演を経験されるようになったとしたら、受け入れ劇団についてどうお考えになりますか。
詩森 もちろん必要だろうなと思いますね。私自身は旅公演をしたことはないんですが、旅公演をするカンパニーの東京制作みたいなものは、一、二度お手伝いをしたことがあるんです。遠隔地のカンパニーだとチラシ一枚配るのにもすごくご苦労されていますし、もし自分がそれを現地での受け入れ団体なしでやろうとしたら、想像がつかない感じがあるんです。
荻野 東京公演をやられている地域のカンパニーがたくさんあるんですけれど、東京のカンパニーの立場として、その受け入れ体制を見て、なにか思われるところがありますか。
詩森 青年団はやってらっしゃると思うんですけれど、東京のカンパニーがもうちょっと拠点を持っていないカンパニーに関わって、自分から受け入れとかをやってみると、自分が逆に出かけていくときにもすごく役に立つんじゃないかなと思うことが多いんですね。いままでやったところは、自分のほうから「私、東京の制作をお手伝いしますよ」という、積極的な形でお願いされてという形ではないんですけれど、自分自身も制作面の勉強になりますし、交流にもなります。地方から来た公演を観に行くというよりは、ちょっと深いところで交流とかノウハウが蓄積するような気がしますね。
カンパニーに志があるかどうか
荻野 松尾さんの場合はこまばアゴラ劇場(東京・駒場)を本拠地にされているということで、アゴラ劇場自身が地域のカンパニーを招く演劇祭を長年やってらっしゃいますよね。そういったご経験やお立場から見て、地域のカンパニーの東京公演についてどう思われますか。
松尾 いい言葉が見つからないんですけれど、カンパニーの志というんですか、いったい東京公演でなにをしたいかということで変わってくると思います。例えば地域のほうである程度評価を受けていて、次は東京に出てきて、ここで新たな評価を受けたい――その場合にはきちんと劇評の対象になるような作品でないといけないですから、新聞社や評論家の方に観ていただくのが大事です。単に地方で芽が出ないからちょっと東京でやってみるかといった感じですと、こちらで評価を受けられないことが多いです。やはり東京に出てくる目的がないと厳しいです。アゴラ劇場では大世紀末演劇展という演劇祭をやってました。いまはサミットという名前に変わったんですけど、自分で言うのもなんなんですが玉石混交のところもありましたから、志が低いとお客さんも声を掛けても入らないこともあります。そうなると東京でやったからといってもあまり意味がないのではと思います。東京でやるとお客さんが入るんだというような幻想を持っている地域の方もいますが、そんなに甘くないですから。そこはどういう意図を持って東京で公演をしたいのかということをきちんと自分の中で決めないと、厳しいですね。
荻野 遊気舎の場合ですと、なかなか関西で人気が出なくて「人気の逆輸入」を図って東京でやったというのがあって、志が低い例かも知れないんですが(笑)、現実問題として出版社が集中しているので雑誌に載るために東京でやるというのと、演劇評論家の方が東京に集中しているという現実があると思うんですが、どうでしょう。
松尾 それはありますね。地方でも大阪や名古屋など、都市圏だと新聞にも載ったりするんですが、都市圏でないとどうしても厳しいですからね。特に雑誌の場合は東京に集中していますから、東京に来て雑誌に劇評が載るというのが、一つの目標になってくると思います。
(この項続く)