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作品のクオリティをどう保つのか

荻野 詩森さんはプロデューサーであると同時に主宰で作・演出でもあるわけですが、その立場から旅公演に持っていく作品ということで、例えば旅公演向けの小人数バージョンをつくるとか、いわゆるセカンドキャストでキャストを組むとか、本当の本公演を旅公演に持っていけないというのが世の中には多いと思うんですね。カンパニーにとっては、自分たちの本当の本公演を観てもらいたいという気持ちがあると思うんですけれど、その辺はいかがでしょう。

詩森 これは制作の方とは確実に違うんだろうと思うんですが、クオリティというのものがなによりも大切なので、旅公演をする場合にどれだけ東京でやったもの、もしくはせっかく旅に行くわけですから、劇場の力を借りてそれ以上のものをつくれるかをものすごく考えると思うんですね。単純に予算の面とかそういことだけでは考えられない。甘いと言えば甘いんでしょうけれども、考えられない面は絶対あると思いますね。

荻野 これは演出家もプロデューサーも意識することだと思うんですけれど、どうしても旅公演だから全国的に知られている役者さんを客演に呼びたいとか、自分たちの劇団員だけではちょっと弱いから客演をお呼びするということも実際ありますよね。

詩森 そこまでしなくてはいけないなら、特に旅公演はしなくてもいいっていう感じですね。

荻野 逆に言えば、普段の姿を評価していただいて、それで呼んでいただきたいということですね。

詩森 そうですね、そして受け入れカンパニーがあって、そことちゃんと交流がとれて、興行面以上のプラスアルファ――カンパニーにとっての体験の蓄積、地域へのコミュニケーションがないと考えられないかも知れないですね。


買い取り公演と手打ち公演

荻野 青年団の場合、チラシの冠クレジットなどを拝見していると、ほとんど現在は買い取り公演なんでしょうか。

松尾 結構多いですね。買い取りのほうが多いです。

荻野 手打ちでやってみようとは思わないですか。

松尾 いまでも手打ちをやりますよ(笑)。2000年なんですけど、これは別の意図があったんですが、『カガクするココロ』という演目で北海道を回ったんですが、このときは手打ちの公演もありました。いま若い劇団員も結構多くなってきてるんですが、彼らには我々が初めて旅をやったときの記憶がないんですよね。それを話で聞いても、単に歳をとった俳優の戯言に聞こえちゃいますからね。「オレたちが若いころはな、ほかの劇団さんの稽古場に置いてもらってたんだ。おまえたちはホテルのシングルじゃなきゃイヤだとか言って贅沢だ」とかいう話になっちゃうんです。たまたま『カガクするココロ』は若い役――若い俳優が多く出演する作品です。若い俳優たちもそういう経験をしてみたいという気持ちがありまして、北海道で一つ呼んでくれるところがあるけれども、それを軸にして手打ちでもいくつか回ってみようということになりました。

カガクするココロ

青年団第39回公演『カガクするココロ』
(2000年7月、こまばアゴラ劇場公演より) 撮影/青木司

荻野 そのエピソードは非常によくわかるんですけれど、どうしても買い取りですと営業的なリスクがなにもないので、気が緩んでしまうところも劇団員にあると思うんですね。

松尾 うちは気は緩みはしないですけれどね……。昔は苦労したんだけれど、それに比べるといまではかなりのレベルにはなってるんで、劇場に対してですとか、宿泊に対してですとか、交通に対してですとか、俳優側のリクエストが上がってくると「ちょっと待てよ」という(苦笑)、そういうのがありますね。

荻野 私の経験とか、ほかのカンパニーのエピソードなども加味してお話ししますが、手打ちにするとどうしても宣伝面とチケットのことは現地の主催者にお任せすることになってしまうけれども、実際行ってみたら空席があるとか、現地の友人に訊いてみたらもっと宣伝する余地があったんではないかとかいうこともあるんですよね。だったら自分たちが制作スタッフを先乗りさせて、2週間前から最後の追い込みだけは自分たちでやってみたかったとか……。出演料はいただいてるんだから損ではないんだけど、客席を満杯にするとか、自分たちの存在を現地に知らしめるという最後の押しのパワーの弱さを感じることがあるんですよ。その辺はいかがですか。

松尾 確かに、それは感じることもときにはあります。情熱を持ってやってはくださるんだけど、どこにアプローチしたらいいのかがきちんとわからないと、それが空回りして、客席が埋まるという成果に結び付かない場合がありますから。そうするとお互い寂しい思いをしてしまうので、もし自分が行けてたらもっと出来たのにという思いは、あったりもしますね。

荻野 小劇場系カンパニーを地域でお呼びいただくような場合、現実にはもっと様々な問題があります。なかなかフルタイムのプロフェッショナルのカンパニーになっているところが少なくて、東京でもそれが実態なのは皆さんもご存知だと思います。そういった場合、どうしても旅公演だと長期間東京を離れるのが難しいとか、法人化していない任意団体のカンパニーに関する税金の問題があります。人気だけはどんどん出て、招聘する側はプロのカンパニーだと思っているかも知れないけれど、実際は任意団体という場合も少なくありません。詩森さんのところはこれから評価が高まって、地域から招聘がかかった場合とか、こういった問題に直面するんではないでしょうか。

詩森 ちょっと旅公演から離れるんですけど、やはり仕事を持ちながら劇団の活動をしていますので、一日稽古(昼稽古)をどうするかっていう……。本番が近づくともちろん一日稽古を取るんですが、最初は夜だけ稽古をして、そういうものを全然やってなかったんですね。もうそれだとプロフェッショナルな体制が取れないということで、私がやりたいだけの稽古というのをだんだん取るようになってきちゃってるんです。そうするとそこに対してモチベーションを持てる俳優だけが残っていくわけで、カンパニーのレベルも多少は上がってくる感じというのはあるんですね。そうなるとカンパニーの理念に基づいて旅公演をやっていこうと思ったときに、最初はお金の面とか追い付いていかない面とか絶対出てくると思うんですけれど、カンパニーの体験の蓄積として絶対に必要だと思って、プロフェッショナルを目指す以上はやらなくちゃいけないと思うんですよね。リスクを最初に考えるんじゃなくて、やるべきなんじゃないかとは思うんですけれど、かなり直面する問題だろうなとは思います。


頭が痛い源泉徴収

荻野 法人化という問題で言うと、プロフェッショナルな活動をしているところであっても、現在はNPO法人を選ぶか有限会社を選ぶか、それとも個人事業主のままで行くのかという選択の迷いあって、法人化に踏み切れていないところも多いと思うんです。そこで旅公演でネックになってくるのが出演料の源泉徴収の問題なんですね。これは私も非常に苦労しまして、個人の任意団体ですとガバッと取られますので、これが出演料の交渉をするときの最大のネックなんですが、青年団は法人化されていますからご苦労はあまりないと思いますが。1

松尾 私たちは有限会社ですから、源泉された分は返ってくるので大丈夫です。

荻野 ご存知のとおり100万円まで10%、それを超えた分は20%ですから、例えば300万円のギャランティを提示されても実際は250万円しか手取りはいただけない。残り50万円は翌年の確定申告を待たねばいけない。その50万円の資金繰りが、いかに小劇場系カンパニーにとっては大変かというのを皆さんはご想像つくと思うんですけれど、それをなんとか下げるために、宿泊料・交通費は出演料に含めないでホール側でご手配願えないかとか、そういうのを駆使してやってきたんですね(笑)。

松尾 いろいろありますよね(笑)。源泉がかからないものでうまく調整していただくとか。

荻野 ホール側もあまりそれをやってしまうと、地元の税務署から利益供与になると指摘されるんですよね。そういった話を公共ホールの担当者の方からも聞きますし、非常に難しいですよね。

詩森 私なんか、この(トークセッションの)打ち合わせで源泉徴収の話を聞いて、そういうこともあるんだとか、それくらいの意識ですもんね。


これからの旅公演に求められるもの

荻野 さっきアーティスト・イン・レジデンスやワークショップの話も出たんですが、こういった付加価値は非常に重要ですし、それは呼ばれる側にとっても魅力ですし、呼ぶほうにとっても魅力だと思うんですね。

松尾 いくつか理由があると思います。まず、公演を呼ぶ面でのメリットで言えば、青年団の場合は約1か月前にワークショップやることが多いですから、公演の1か月前に告知が出来るわけです。例えば平田オリザが来てワークショップをします。そのワークショップを受講しておもしろいと思った方は公演に来てくださいます。そうでない場合でもこの講師の公演が1か月後にありますということで、告知になる点でメリットになります。

いま私たちの劇団が非常に大切にしているのは、いかに公共性のある活動が出来るかということです。ワークショップとは演劇教室のようなものですから、受講者に演技をしてもらうということです。いまは生涯教育も盛んになってきていますから、そういうところからの要求にも対応出来ます。ワークショップをやって感じるのは、人はいくつになってもどんな人でも、表現をしたいという欲求を持ってるんだなということです。そのような要求に応える一つのやり方として、ワークショップは非常に有効だと思いますので、今後もいろいろな形で続けていけたらと思っています。

荻野 今回は芸術見本市ということで、その意図とはちょっと反するのかも知れませんが、地域のカンパニーにとっては東京発の作品を買うだけでいいのかという思いがすごくあるんですよ。東京の作品を押し付けて、それを公共ホールが買うだけでいいのかというのがすごくあります。私個人は、今後は東京のカンパニーを買うのではなく、地域のカンパニーとの共同制作とか、そういった方向性に歩むべきじゃないかと思ってるんですけど。

詩森 私自身が岩手県の出身で、田舎にいたころも演劇をやっておりましたので、東京発の文化に対する渇望というのは非常によくわかる部分はあるんですね。けれども、それは結局はそれを観たというだけで、そんなに蓄積されていない感じというのがあるんですね。

荻野 一過性のものであると?

詩森 そうですね。そこで東京側のアーティストも、地域に行って見せるということだけにモチベーションを感じ続けるということは難しいんじゃないかと思うんです。そこで共同作業であるとか、もう少しコミュニケーションの可能性があるときに、初めて東京側のカンパニーにとっても魅力的なものであるし、地域としても体験として蓄積されていくものになると思うんですね。

荻野 実例で言うと、青年団は弘前劇場とか京都の松田正隆さんとかありますね。

松尾 弘前劇場の場合は、平田オリザと青年団の俳優が2名弘前に行きまして、現地の俳優と一緒に作品をつくって、弘前と東京で発表しました。松田さんの作品の場合は、平田が京都に滞在しまして、俳優は京都を中心に関西の方をオーディションで選抜しました。オーディションで選抜するときも、まず最初はワークショップをやります。大人数を対象にワークショップをして、その中から俳優を選抜し、『月の岬』をつくりました。1年くらいかけてつくったので、こういう作業が出来ると本当に演出家はうれしいみたいですね。

(この項続く)

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  1. 芸能分野では個人だけでなく法人にも10%の源泉徴収が定められており(所得税法第174条第10号)、所轄税務署長から免除証明書を発行されない場合は、決算申告による還付までキャッシュフローの問題が生じている。法人にまでこのような源泉徴収を定めている業界はなく、芸団協(社団法人日本芸能実演家団体協議会)などでは同条項の即刻削除を求めている。個人の場合、確定申告で自分が代表になっている任意団体の赤字を税務署に説明せねばならず、それが大変だという意味である。 []