この記事は2002年9月に掲載されたものです。
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助成金と旅公演のテクニック(松尾洋一郎+詩森ろば+荻野達也)(4)
●分割掲載です。初めての方は(1)から順にご覧ください。
地域のホールはどこで情報収集したらいいのか
荻野 地域との共同作業のきっかけをつくる招聘を進めていく上で、どこにどういうカンパニーがいて、日ごろどういう活動をしているのかという情報収集を、招聘する側――公共ホールの皆さんにアンテナを張り巡らせていただかないといけなんですが、実際問題、逆の立場になって我々が地域にいたとして、どこでその情報が得られるのかというと非常に難しい問題があると思うんですね。地域に行ってお話ししても、『演劇ぶっく』しかないという現実もあるわけですよ。たまに出張で東京に視察に来たとしても、観たい公演が重なって集中的に観られることは少ないですよね。公共ホールの皆さんにどこで情報を収集していただきたいか。それに応えるために、我々はなにをしていけばいいと思いますか。
松尾 それは私もどうしたらいいんだろうと思います。そういった情報が集まる場所や機関がないですから、本当に地域で探してらっしゃる方は苦労していると思います。ホームページを持っている劇団もありますけれど、すべての劇団が持っているわけではないですし、あったとしても最初一度つくっておいて、あとは更新されないで放置されている場合も多いですから、本当に難しいです。青年団に限ると、ホームページは一応整備してあって、データは常に最新のものを見られるようになっています。しかしデータだけだと弱いですからね。やはり公共ホールの担当の方には、芝居を観ていただくのが一番です。その辺はスケジュールが合うか難しいですから、どうしたらいいんですかねっていう感じです(苦笑)。
荻野 この芸術見本市のような企画もその一助という感じでしょうか。
松尾 そうですね。
詩森 想像もつかない面があるんですけれど、インターネットは可能性としてやはりあると思うんですね。あとはやっぱり人だと思うんです。東京の人間ともうちょっとコンタクトをお互い取るようにして、そうすると人から来る情報というのがいちばん確実で、早くて、新しいと思うので、人間同士の交流で情報が行き交うような形が取れればいいんじゃないかなと思うんですが。
荻野 そうしたネットワークをつくっていくというのも、なかなか時間がかかりますよね。
詩森 でも不可能ではないと思うし、実際、私も利賀村に参りまして、それでかなり地域の方との交流であるとか広がった面というのがありますから。*1 やはり出かけていって人と会う――作品を全部観ることは不可能だと思うんですけれど――そういうことで一気になにかが広がる感じというのはあると思うんです。
風琴工房が採択されるまで
荻野 風琴工房は9月にある新作の公演で芸術文化振興基金と東京都歴史文化財団創造活動支援事業のほうでダブル助成をいただいたということで、しかもこれが初めての助成ということで非常におめでたいのですが、どういった点に苦労されましたか。
詩森 書類を書いて出しただけなので、なんでいただけたのかは全然わからないです。申請されて受けてらっしゃるところはどこもそうだと思うんですが、どういう風に書けばいいのかとか、誰からも教えてもらうわけではないので、一つ一つ全部苦労したと言えば苦労したんですけれど……。途中からは来年度以降の活動であるとか芸術に対する理想であるとか、あとは細かな予算の面であるとか、こうして詰めて考える機会というのがあまりないので、そうしたせっかくの機会だというように助成金の申請を捉えて、カンパニーについて一から見直す機会だなと思って、一つ一つ嘘のないように誠実に自分に問い掛けながら書くということをやったという感じなんですね。苦労だったけれども、体験としてはすごくよかったという感じです。
荻野 いままで2回申請されて、前回ダメで今年採択されたということですね。1回目に比べて今年の2回目はどこかを目に見えて工夫されたとか、こういうところが改善されたとかいうのはあるんでしょうか。
詩森 それはありますね。今回は先駆的・実験的という分野でいただいたんですけれども、どこが先駆的でどこが実験的かということを、かなりはっきりわかりやすく書いたりとか、1回目は私は手書きで出したんですけれど、今回はちゃんとパソコンで入力して出したりとか。
荻野 申請分野のお話が出ましたが、芸術文化振興基金で主にストレートプレイの作品が出せる分野として、いま言われた先駆的・実験的芸術創造活動と、一般的に出す現代舞台芸術創造普及活動と二つあります。これは皆さんもよくご存知だと思いますが、この違いがよくわからないところがあると思うんです。この区分に関しては、判断基準があるんでしょうか。
詩森 わからないけれども、初めて助成金を狙うカンパニーだったので、比較的応募の少ないほうが取りやすいという狙いもあったんですけれど、風琴工房の舞台美術がビジュアル的にアピールするものをつくっていたので、先駆的実験的のほうへ出してみたんです。
書類作成上のテクニック
荻野 松尾さんはこうした芸術文化振興基金の分類であるとか、アーツプラン21との併願に関するテクニックはお持ちなんでしょうか。
松尾 その辺は私も実はよくわからないんですよ、演劇(現代舞台芸術)と先駆的がなぜあるのかということも(笑)。ただ実際にありますから、演劇のほうで出すときは演劇であるということを強調しますし、先駆的のほうは活動がいかに先駆的・実験的であるのかということを、きちんと説明します。例えば青年団の場合は、美術館のロビーを使ってやるのが先駆的であるとか(『東京ノート』)、京都に1か月以上演出家が滞在して地元の人と一緒に作品をつくっていくというのが実験的であるとか(『月の岬』)、そういったところを記述しますね。アーツプランと芸文は併願が出来るので、アーツプランは年間の活動全体が対象になるんですけれど、芸文はそれぞれ一つずつの公演になりますから、その場合は正直言うといちばん予算が多い公演で申請するというのはあります。
荻野 松尾さんは毎年申請されていると思うんですけれど、青年団くらいになってくると、芸術文化振興基金のほうでもノーチェックというか、そんな形になっちゃうんですか。
松尾 いえ、そんなことはないと思います(苦笑)。さすがにそれはね、まずいでしょうから、チェックはしていると思います。
荻野 実際様々な費目の書き方とか、実務上のことをこの場で全部をご紹介するのは難しいと思うんですが、こういうことを知っておいたらいいとか、参考になることがあれば教えていただきたいんですが。
松尾 予算を赤字にしないといけないんですよね。実際どうやって赤字の予算にするかというと、主に人件費になってきます。小劇場のカンパニーだと主宰者が作・演出であることが多いですから、作家に対する劇作料、演出をすることに対する演出料を実際の予算組みだと計上しないんですが、やはりこれはその作家・演出家に対する正当な報酬であると考えるのが正しいんですね。なので、やはりそれは計上しますし、俳優に対するギャランティも、あっても少なかったり、あるいはないところも多いと思うのですが、これも本来ならば2か月くらい俳優を拘束するわけですから、それに見合うギャランティが発生するという形で予算をつくります。
荻野 今年は新世紀アーツプランということで、さらに予算的に拡充されて、新しい助成金もいろいろ出来てきているんですけれど、その辺の動向であるとか、文化庁はこうしたいんだよという情報などは入っていますか。
松尾 その辺はまだそんなに情報が入ってきてないんですけど、劇場に対する拠点形成事業助成が始まりましたから、これに期待しています。
荻野 芸術拠点形成事業というのは、初めて劇場そのものに対する助成ということで、民間劇場も対象になるということで話題になった助成金ですよね。
松尾 いままでは、カンパニーあるいはそれに準ずるプロデュース団体しか助成の対象になってなかったのが、劇場自体が行なう事業――公演やワークショップなどを対象にして文化庁が助成を行なうことになりました。これには本当に期待しています。
(この項続く)
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- 2001年に富山県利賀村で行なわれた次代の演劇を考える勉強会「ネクスト・リーダーズ・キャンプ」で、詩森は運営委員を務めた。 [↩]