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足場(イントレ)

足場(イントレ)
“scaffold 4” by Lu Dabrowski, on Flickr

最初に強調しておきたいのは、劇場は様々な舞台機構、高所作業、暗所作業があり、常に危険と隣り合わせだということです。大袈裟ではなく実際に死亡事故は起こっていますし、開演中でないと報道されることも少ないため、広く知られていないだけの話です。

労働安全衛生法は労働基準法から分離独立したもので、労働者のための法律ですので、小劇場演劇の現場に多い個人事業主や任意団体メンバーは法律上の対象とはなりませんが、実際には労働安全衛生法に準じた対応を求める劇場や主催者も多いと思われます。また、照明会社や大道具会社と雇用契約しているスタッフは労働安全衛生法の対象ですので、座組メンバーがお手伝いする場合は雇用関係がなくても遵守を求められると思います。なお、労働安全衛生法が定める高所作業とは2メートル以上を指します。

労働安全衛生法の考え方に基づいた公演制作のガイドラインとしては、関連団体が立場を超えて創設した劇場等演出空間運用基準協議会(基準協)が、2012年に「劇場等演出空間の運用および安全に関するガイドライン ver.2」を公表していますので、制作者も手元に置いて目を通してください。

労働安全衛生法第59条では、「危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない」としています。これを規定する労働安全衛生規則が改正され、17年7月1日以降は「足場の組立て、解体又は変更の作業」も「特別教育」の修了が必要となりました。規則自体は15年7月1日から施行されていましたが、経過措置が2年間設けられていました。修了試験はなく、6時間(現在業務に従事している場合は3時間)の受講となります(労働安全衛生規則第36条)。

同時に、「つり足場、張出し足場又は高さが五メートル以上の足場の組立て、解体、変更の作業」には、「足場の組立等作業主任者技能講習」を修了した「作業主任者」の指揮が必要となりました。こちらは実務経験に応じた講習と修了試験があります(労働安全衛生規則第565条)。

今回の改正は「足場の組立て、解体又は変更の作業」なので、組み立てられた足場に上がること自体は対象外です。従って、足場を使って仕込み・バラシをしたり、足場の上で演技をすること自体に「特別教育」は必要ありません。また、「地上又は堅固な床上における補助作業の業務を除く」とありますので、足場の部材を床面で運ぶお手伝い程度は問題ありません。ただし、地上で部材を組むことは「足場の組立て」に該当します。

注意しなければならないのは、足場自体が舞台美術になっている場合や、平土間の小劇場で舞台や客席を足場で組む場合に、座組メンバーが手伝うケースが考えられることです。下記サイトは建設業向けですが、詳細なFAQを掲載しています。

ここで重要なのが足場の定義ですが、これを読むと通常の足場、イントレ、ローリングタワーなどを指し、脚立を単独で使用した場合は対象外です。ただし、脚立と脚立のあいだに板を渡した場合は足場となります。高さは定義されていません。このため、イントレで装置、舞台、客席を組む行為は確実に対象となると思います。実際に、これまで不安定なイントレの客席を何度も経験していますので、足場を組み立てる人が最低限の安全知識を持つのは当然だろうと思います。タッパのある小劇場や中劇場以上はローリングタワーを備えていると思いますので、これを設置・操作する場合も対象となります。

平台を連結した場合はどうなるかですが、次の記述があります。

高さ1.5mほどの、同じ高さの台を連結させ、その上に乗って作業を行う場合、今回の足場作業に該当しますでしょうか?

今回の対象作業は「足場の組立て・解体・変更」の作業であり、ご質問の文章中の「台の連結」作業が「足場の組立て」に当たるかどうかになります。これは、「台」そのものの仕様・構造にもよると思われますので、最寄りの労基署等にご確認頂きたいと存じます。なお、「その上に乗って作業を行う」ことは今回の特別教育の対象作業ではなく、あくまで足場という構造物を正しく組立て、その状態を維持しようとういう観点です。

平台を連結させる場合、箱馬や足を使いますので、ここがグレーゾーンになってくるのではないかと思います。劇場や主催者によっては、舞台や客席を組む場合は「特別教育」が求められるかも知れません。

中劇場以上やタッパのある小劇場では、5メートル以上の作業が恒常的に発生していると思いますが、この場合は「作業主任者」の指揮が義務づけられたため、この資格保持者の人材不足も起こっているようです。希望するスタッフが確保出来ないケースも出てくるかも知れません。これまで以上に早めのスタッフィングが必要です。