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南河内万歳一座(本拠地・大阪市)で役者と制作を兼務し、同カンパニーの公演活動を長らく取り仕切ってきた制作チーフの松下安良氏が、今年2月に休団したことがわかった。

同カンパニーをマネジメントする奈良歩氏(On The Run)が南河内万歳一座サイトに連載している「万歳一座マネージャーの太腕繁盛(?)記」によると、2002年2月24日付で「松下が劇団を休団することになったので、荷物の仕分けを手伝った」、3月23日付で「松下の荷物を片づけてくれている」、4月4日付で「今日はDIVEの総会。今までは、松下が担当していたので、何が何やらわからない」などの記述がある。同カンパニーは1年間の充電期間を経て今年6月から本公演を再開するが、その制作クレジットからは松下氏の名前が消え、「南河内万歳一座制作部」となっている。

fringeでは役者と制作者の兼務には疑問を呈し、専任制作者を置くことを推奨しているが、松下氏の両立ぶりにはそうした理論を覆すだけのパワーがあった。役者が開演直前まで場内整理や受付を手伝う同カンパニー独特の雰囲気が、両立を物理的に可能にした面もあっただろうが、若手中心となるチラシ折り込み作業にも自ら率先して足を運び、慣れない他カンパニーの若手に折り込みのテクニックを指導する場面も少なくなかった。松下氏に鍛えられた制作者は数え切れないはずである。南河内万歳一座のことだけでなく、絶えず関西小劇場界全体を視野に入れた発言を行ない、大阪現代舞台芸術協会演劇部会(DIVE)の事務局長を務めるなど、行動で示そうという姿勢を貫いていた。まさに関西小劇場界を支えた制作者だった。

松下氏の仕事の中で、いまも忘れらないのが1991年3月のF.W.F.実行委員会大テント興行『日本三文オペラ』である。大阪・JR片町駅構内の特設テントに南河内万歳一座と劇団☆新感線を中心とした13カンパニーが集結した大規模プロデュース公演だった。制作総指揮としてクレジットされた松下氏は、そのパンフレット冒頭で次のように述べている。

いつまでたってもマイナーな小劇場界。知る人ぞ知るマニアックな文化とも言えるでしょう。悔しい限りです。映画、コンサート程のステイタスを「演劇」が持ち得ることは、今の関西においては土台無理なのかもしれませんが、無理と知りつつも我々は走り続けます。今回のプロジェクトのために集結する我々ですが、その意志は、次代を担う関西演劇人たちの中にも必ずや潜んでいるはずです。今回限りでなく、関西演劇界の未来への祈りを込めて、ここに我々は宣言致します。F.W.F.(Future of Western Federation~関西の未来を担う若者たちの会~)参上!!

11年後の現在、小劇場から商業演劇やマスコミへの進出は増えたが、演劇そのものを楽しむライフスタイルは生まれただろうか。平日のアフター5に映画の最終回を楽しむように、平日のソワレ公演に社会人が気軽に行ける環境づくりに、関西小劇場界は真剣に取り組んでいるだろうか。松下氏の宣言は、いまも私たちに重く問い掛ける。