この記事は2002年5月に掲載されたものです。
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伊丹AI・HALLが7年間の事業を総括したアウトリーチ報告書を発行
財団法人伊丹市文化振興財団が運営するAI・HALL(伊丹市立演劇ホール、兵庫県伊丹市)では、同ホールが1995年度から重点的に取り組んでいるアウトリーチ事業をまとめた報告書「AI・HALL ACTIVITIES REPORT 1995~2001」を発行した。A4判・本文36ページで非売品。
報告書は2部構成となっており、第1部では95~97年度の「レクチャー&ワークショップ事業」と99~01年度の「グロウアップ事業」を中心に同ホールのアウトリーチ事業を概括、第2部では01年度の「グロウアップ事業」詳細を紹介している。両事業とも財団法人地域創造の「地域の芸術環境づくり支援事業創造プログラム」として助成を受け、この報告書自体もその一環として発行された。この間、狭間の98年度も独自のアウトリーチ事業として実施、途切れることなくプログラムが継続している。これら以外にも同ホールが手掛けるアウトリーチ事業は多く、すべてを合計すると7年間で106事業、のべ20,375名が参加した計算だ。
小劇場演劇とコンテンポラリーダンスの自主事業で全国的に名高い同ホールだが、もともと「アイホール演劇学校」という開館直後から8年間(89~96年度)続いた通年のワークショップがあり、それを発展させた「アイホール演劇ファクトリー」(スタッフワークも含めた通年ワークショップと公演)が97年度からスタート、戯曲については95年度に実施した「北村想演劇ワークショップ」が96年度から「伊丹想流私塾」(北村氏を塾長、関西小劇場界の中堅作家を師範とした少数精鋭の実践戯曲講座)に発展、さらには中高生対象のワークショップやプロデュース公演などにも力を入れ、財政難で自主制作や買い取り公演が難しくなった90年代後半からは、これらアウトリーチ活動が自主事業の中心だったと言っても過言ではない。特に「伊丹想流私塾」は、同ホールの企画以降に各地で類似の戯曲講座が生まれており、全国的に影響を与えたプログラムと言えるだろう。
報告書には、各事業を指導した演劇人やそこから巣立った若手、ホール側スタッフを交えた座談会3本が掲載され、現場のエピソードもふんだんに披露されている。各座談会とも演劇評論家の森山直人氏(京都造形芸術大学専任講師)が聞き手を務め、ホール側で事業を担当する山口英樹氏が参加している。
95年度からアウトリーチ事業が活発化したのは、同ホールプロデューサーの津村卓氏が地域創造チーフプロデューサーを兼務したことが大きいという。津村氏は「自分たち関西の人間は東京の次くらいにきちっと演劇というものをやってるし、できていると自負していた。ところが、地域創造で全国の情報見た瞬間に愕然としたわけですよ。何故なら関西の人間には情報が無かったし、情報を取ろうという意志も無かった」として危機感を覚え、「レクチャー&ワークショップ事業」が始まったという。津村氏は「これまで公立(ホール)では、ある特定の人だけに予算をかけるというのは許されなかった。ただ現在は文化に力を入れている地域では『平等』という概念に関してはかなり薄まってきています」と語り、「これからは劇場もアーティストも説明責任が出てくると思いますよ。美術館の学芸員はものすごく多くの言葉を持ってるんです。(中略)演劇は『観てくれたらわかる』みたいないい加減なことを言ってきたわけですよ。けれどそうじゃない時代になってきたと思います。アウトリーチに関しては『どういうことをやるのか、これは何を目的にしているのか、そのためにどういう手段をとるのか、これは将来どうなっていくのか』をきちんと説明していかないといけない」としている。
山口氏はこう語っている。「伊丹の高校生にとっては、ここで夏休みにワークショップをやったり中高フェスやプロデュース公演があるのを当たり前のことと思ってるんですね。で、よその地域でも同じ状況だろうと思いこんでいて、ところが他の地域の同級生に聞くとびっくりされるそうなんですよね。『演劇がある日常』とでもいうものを、少なくとも彼らは享受してるんだなと思いました。で、彼らに言うんです。『伊丹で良かったね』って」
AI・HALLホームページ
http://www6.ocn.ne.jp/~aihall/