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電視游戲科学舘ロゴ

●分割掲載です。初めての方は(1)から順にご覧ください。

――駅貼りポスターも作成されたようですが、宣伝に使用した印刷物の種類と枚数、その展開方法を教えてください。京都以外のエリアにも、今回は特に力を入れられたのでしょうか。

作成したのは以下の通りです(デザインはほぼ同じです)。

チラシ(A4)       :25,000枚
フライヤー(はがきサイズ): 6,000枚
ポスター(A2)      :   500枚

展開方法ですが、チラシは、他劇団への挟み込み(折り込み)や、京都の大学周辺への掲示に使用しました。
フライヤーは主に、お店に置いていただいたり、会場周辺で配布しました。
ポスターは、駅貼り等に使用しました。
京都以外のエリアに関しては、大阪、神戸地域に挟み込みを行ったくらいです。が、今までの公演に比べると今回は大阪エリアへの挟み込みは強化しました。
会場があるエリアは今「京都で一番おしゃれ」と注目される繁華街で人通りも多く、会場周辺でのフライヤー配布は特に効果的でした。
会場前にポスター・新聞・雑誌の切り抜きの掲示、垂れ幕を設け、興味を向けられた方にチラシやフライヤーを配布しました。
ロングラン公演と言うこともあって「次の休みに」と予定も作りやすく、直接動員につながっていきました。 (電視游戲科学舘)

舞台写真

撮影/広上健 (C)Takeshi Hirogami

――ロングランでは、公演前半の観客のクチコミ効果やリピーターの動員が期待出来ます。今回の公演を振り返って、これらの効果を具体的に実感されたでしょうか。新設された5回分回数券はどの程度の効果があったでしょうか。

従来も1週間程度の公演を行っていましたので、元々リピーターの方は多かったのですが、3週間になるとさらにリピーターの方は多くなりました。5回分回数券は前回公演から導入しておりますが、非常に好評を得ています。フルカラーで、一般前売りとも違うデザインのこのチケットは、元々、リピーター(固定客)の方へのサービスの意味合いもありましたので、それを目当てに買っていかれる方もおられます。お友達数名で来られるつもりの場合は、あらかじめ買っていかれるようですし、余った場合はお一人で再度お越しになる場合が多いようです。(電視游戲科学舘)

――3週間ロングランではスタッフ・キャストの健康管理や不測の事態への対応も重要になりますが、制作サイドの対策や特に留意した点があればご紹介ください。

仕込み期間10日のうち9日間は作業や稽古が深夜に及びました。やりたいだけやらせたい、とは思いましたが、殺陣の稽古中に軽い事故があったので、やはり全員が完全に休める時間が必要と判断し、1日は強制的に帰宅させました。(ART COMPLEX 1928)

――現場の感覚として、3週間ロングランになると劇場通いすることがルーティンワークとなり、テンションの持続が難しくなることも指摘されています。この点に関して、皆さんが実際に経験された心理状態について教えてください。

公演前は、ルーティンワーク的な心理状態になるであろうと思っていましたが、実際にはあまりそういう感じはしませんでした。これは公演期間が3週間程度だったせいか、ロングラン公演が初めての体験だったからかは分かりません。役者・スタッフ・制作ともに、毎日反省点があることにはロングランといえども変わりはありませんでした。しかし、公演に専念できる期間が長いと云うことで、作品に対して余裕を持って取り組めたのは確かです。(電視游戲科学舘)

――具体的には演出から毎日ダメ出しがあって、日々作品が変化していったということでしょうか。

特別ダメ出しが多く、日々作品が変化していったと云うことではありません。ただ、出演者・スタッフとも、当然ながら全員が完璧に出来たという回はありませんし、また、期間的に勢いだけでは乗り切れませんので、そういった部分で自己の反省が生まれ、より完成された物をお客様に御覧頂こうと、云う向上心によるものだと思います。(電視游戲科学舘)

舞台写真

撮影/広上健 (C)Takeshi Hirogami

――電視游戲科学舘は今後も1か所でのロングランによる全国からの集客を目指すのでしょうか。それとも東京公演なども視野に入れた、旅公演可能なスタイルも模索するのでしょうか。

ロングランにこだわっているわけではないのでいろんなスタイルでの公演を行っていくと思います。ただ2、3都市公演といった旅公演のスタイルではなく、1カ所での公演でじっくり舞台を作り上げ多くの集客を目指す。といったスタイルになると思います。(電視游戲科学舘)

――最後に、ロングランをためらっている他の若手カンパニーに対して、経験者としてアドバイスがあればお願いいたします。

ロングラン公演には短期間の公演ではけして得ることが出来ないやりがいや、お客様からの反応があります。私たちはART COMPLEX 1928からこの機会を頂くことが出来ました。もし、同じ様な機会を前にためらっているカンパニーがあるのでしたら、是非挑戦していただきたく思います。(電視游戲科学舘)
「とことんこだわる気持ち」と「こだわりを形にするエネルギー」が大切だと思います。(ART COMPLEX 1928)


「ロングラン公演を終えて」

 この2月「電視游戯科学舘」のロングラン公演を企画し、主催した。10日間の仕込み期間と3週間に渡る26公演を行った。ロングランといえば公演期間の長さが注目されるが、私にとっては仕込み、稽古期間を十分にとるという事が重要事項だった。作品の完成度を高め、ひいては全体のクオリティーを高めることが、舞台作品をより多くの方々に楽しんで頂くための重要な要素であると思ったからだ。

 「静かな演劇」からスペクタクルまで、演劇には様々な作品がある。作り手のコンセプト、演劇に対する考え方、あるいは才能は別にしても、料金を取って作品を見せる限りは、少なくとも完成度の高いものを提示すべきであり、妥協にまみれた、未完成な作品を発表することは演劇人口を減少させる要因になるとさえ思われる。

 「電視游戯科学舘」は10日間の仕込み期間、仮眠を取りながらの24時間作業で9日間の徹夜作業を敢行した。作業を中止した1日は安全性や効率を考慮して、私が強制的に帰宅させたものだ。とにかく彼らの「より良いものを作りたい」とするこだわりには改めて脱帽する思いだった。

 客席も含め、ホール全体を劇空間に仕上げた舞台美術や大仕掛けを用いた演出等、出来上がった作品に対する評価は、内容の賛否両論は当然としても「小劇場でここまでやれば大したものだ」という意見が大半だった。

 動員も1週を過ぎる頃にはほぼ満員となり、3週目には連日入場できないお客さんが出る程になった。総動員数は1,650名、京都の小劇団としては記録的といえるだろう。裏方も含め電視游戯科学舘全てのスタッフのこだわりが、観客に伝わったのだと理解したい。

 短期の公演と違い、ロングランにはいい評判を聞いたお客さんが観に来られる期間的余裕、あるいは役者も含めて作品が熟成していくというメリットはあるが、経済的なリスク等もかなり大きい。しかし、そのリスクによって作り手は必然的に「いい加減なものは出せない」という意識がより強くなり、その意識が作品のクオリティーを上げる要因の一つになればと思う。

 アートコンプレックス1928は今後も、より良い形でロングラン企画を続けていきたいと思っている。ひいてはブロードウェイのように舞台芸術が一つの投資対象となり、たとえ小劇場であっても確かな経済効果を生むようなシステムが実現できないものかと日々考えを巡らせている。

アートコンプレックス1928
小原啓渡

ART COMPLEX 1928 PRESENTS
『ノスフェラトゥ』

脚本・演出/国本浩康
主催/ART COMPLEX 1928 共催/電視游戲科学舘
2002年2月7日~2月27日
ART COMPLEX 1928(京都・三条御幸町)

制作/樋口貞幸+端野真佐子+小川貴砂子+尚+谷伸一+朝平陽子+大快和子+安藤きく+梶本かなえ
製作総指揮/北川耕平(電視游戲科学舘)
プロデューサー/小原啓渡(ART COMPLEX 1928)

電視游戲科学舘 http://www.denyu.org/
ART COMPLEX 1928 http://www.pan-kyoto.com/ac1928/


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