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民間劇場として初の文化庁平成15年度芸術拠点形成事業採択が決定したこまばアゴラ劇場(東京・駒場)(2003/4/12付本欄既報)。同劇場は今年度から貸館を廃止し、全公演の劇場プロデュース化と支援会員制度による劇場費無料化を実施しているが、この採択によって芸術拠点形成事業の対象公演については、さらに手厚い上演団体への支援2項目を実施することを決定した。

  • 各上演団体に1週間あたり約50万円の支援
  • 制作費用を前渡金として支給し、チケット売上と共に後日精算

※これら追加措置は、同劇場で上演される作品のうち芸術拠点形成事業に関するものが対象で、全公演に適用されるわけではない。

具体的な流れとしては下記のようになる。

STEP1:演目選定 劇場が上演演目を選定。
STEP2:契約書作成 上演団体側(あるいは演出家個人など)と作品制作についての契約書を交わす。この際に金銭面以外の、スタッフ・キャストのサポートなどの内容を決定。
STEP3:制作立替金支払い 作品制作に必要な費用を、契約に基づいて前渡しする。通常2週間の公演の場合、公演3か月ほど前に300万円を上演団体側に支払う。スタッフ・キャストのサポートがある場合は、この額が実費分だけ少なくなる。
STEP4:作品制作 上演団体はその費用で作品をつくり、従来どおりの広報活動・チケット販売などを行なう。劇場は広報・チケット販売などをサポート。
STEP5:公演 公演(作品提供)。
STEP6:精算 公演終了2週間後に、チケット売上として上演団体は劇場に200万円を入金(差額分の100万円は、そのまま上演団体の収入となる)。

芸術拠点形成事業対象の上演団体は劇場費無料に加え、支払われる制作立替金により制作準備金の負担が一切なくなり、さらに1週間あたり約50万円の制作補助金が受けられることになる。制作立替金の支払時期も公演3か月前と、実際に支出が発生する前段階に設定されており、金銭的負担から解放されるのは確実だ。この制度によって上演団体は持ち出しどころか、場合によっては劇団員へのギャランティ支払いも可能になるだろう。

この画期的な制度は、劇場の自主事業を助成する文化庁の芸術拠点形成事業によって成立している。全公演を劇場プロデュース化し、作品内容に劇場側が深くコミットすることで、単なる共催や買取公演ではない形態を実現しようとしている。この点について、同劇場は次のように説明している。

文化庁側からは、劇場の主催公演であることの明記を厳しく言われております。他の公共ホールが、単なる「買い取り公演」を自主事業と言い換えて助成を受けているのに比べれば、専属の劇団と多くの若手演出家を有しているこまばアゴラ劇場は、作品の制作にもっとも主体的に関わっている劇場であると自負しておりますが、このような劇場が少数派である以上、このシステム自体を理解していただくのには、長い時間がかかるものと覚悟しています。
芸術拠点形成の助成のシステムは、もともと公共ホールを想定したものであり、様々な矛盾を孕んだものとなっています。私たちは、この現状を受け入れつつ、よりよい助成のシステムと劇場運営のシステムを模索していきたいと考えています。

日本の劇場経営において未踏の領域を歩み始めた同劇場。演劇制作の歴史的改革として、記録に残ることだろう。制作者も上演団体としてこの画期的制度を利用出来るよう、積極的に企画を持ち込むべきだろう。所定の提携希望団体調査票は同劇場サイト*1 でPDF提供中。メンバーは公表されていないが、作品選定には外部の客員ドラマターグ(学芸員)も起用されており、幅広い表現に門戸が開かれているようだ。

  1. リンク切れのため、Internet Archive「Wayback Machine」(2004年2月3日保存)へリンク。 []