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京 チラシアートワーク指南――チラシづくりとは、情報を操作すること。
第1回デザイナーとのコミュニケーション

●分割掲載です。初めての方は「はじめに」から順にご覧ください。

安いギャランティでは
クオリティが保証出来ない

――ギャラの相場というものはあるのでしょうか。

あるとも言えるし、ないとも言えます。社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)が基準価格は出しているんですね。なにがいくらだというのはJAGDAにあるんですが、そのデザイナーの質的指数がYとして、基準価格×Yとかということになってるんで、じゃあいくらなんだといのは明確に出ないわけなんです。具体的にリサイズならいくら、リピートならいくらというのは出ているんですけど。これは無理やり式にした話で、じゃあいくらなのっていう本当の相場はないです。

――それがチラシかどうかは別として、仕事のボリュームとして考えた場合、A4判4C/1Cを文字だけで組むとしたらこれくらいの料金だろうというのはあるわけですよね。それはいくらなんですか。

それが芝居のチラシか、雑誌広告か、DM用の1枚ものかでやっぱり違ってくるから……(笑)。全部材料が揃っていて組んでもらうだけの状態で、印刷の手配もクライアントがしますということで、最低限のデザインで2万円という数字はなんとなくあると思うんですけど。これに写真やイラスト、印刷の手配なども含めていくらということになります。

――街のプリントショップに頼んだ場合に、それくらい請求されるだろうというイメージですね。2万円が最低限として、実際には文字だけというチラシはないでしょうから、印刷の手配も含めて金額は上がっていくと。京さんの理想の金額はどのくらいですか。

ではおいくらなんですかと先方が訊いてくださったとき、まず5万円からというお話とその条件を説明させていただき、そこから写真やイラストの素材ごとにいくらかかるかをお話しし、カンパニーがどうしてもこれ以上出せないということであれば、じゃあこの部分はそちらでお願いしますというような歩み寄りをするんです。私は個人でやっていますけど、会社単位でやっているところはもっと取るでしょう。

――ほかのデザイナーのギャランティなどはご存知なんですか。

宣伝美術についてはほとんど知りません。

――ご自分では非常に安くやっていると思われますか。

思いますよ(キッパリ)。要はクオリティとの兼ね合いじゃないですか。それを思うと絶対安くやっていると思いますよ。ギャランティの額だけならもっと安くやっている方もいらっしゃると思うけど、私は正直ものすごく安いと思います。

――私も、東京でそれなりのキャリアをお持ちのデザイナーが、こんな安くやってらっしゃるとは思いませんでした。私の経験では10万円以下はありませんから。

そう言っていただけたんで、だんだん上げていこうと思うんですけど……(笑)。予算もある程度見せていただくんですが、私以外にもプロの舞台スタッフさんがいるわけで、そういう方たちへのギャランティを知ってしまうと、私だけ上げるわけにはいかないなと。

――照明・音響などの舞台スタッフも、著名な方のギャラは高いわけです。若手カンパニーはやっぱりその助手クラスに頼むわけです。カンパニーが成長するに従って、助手のギャラも上がっていく。デザイナーの場合も同じことが言えるのではないかと思いますが。

それが理想ですね。ここまで来るのに私も変遷があるわけですよ(苦笑)。5万はあくまでスタートラインであって、理想は10万円ですね。いただけるところからはいただきたいですね。どうしても通販やってた関係でコスト管理までしてしまうので、「この金額なら2時間でデザインする」とか考えながらやってしまいます。充分なギャランティをいただければ、その分余裕を持って取り組めるわけです。ぜひそういう関係で仕事をしたいので、上げていきたいですね。

――発注する側として考えてしまうのですが、例えば演劇チラシだけで生活しているデザイナーがいるとして、仕事量として1か月に何枚くらいを物理的にこなせるものなんですか。

MAX4枚ぐらいじゃないですか。

――となると4枚で月収を保証しないといけないわけです。必要経費もかかるでしょうから、1枚20万円くらいは取りたくなりますよね。

そうですね、15万~20万円になりますね。

――これだと演劇チラシ専門で食べていけるわけですね。

私はそういう肩書きにしたいです(苦笑)。

社団法人日本グラフィックデザイナー協会 http://www.jagda.org/
[デザイン料金表]→[印刷媒体広告]→[リーフレット(A4基準カラー)]参照

相場と言われても
それは「私の相場」でしかない

――それにしてもギャランティは難しいですね。本当にケースバイケースのようですから。かと言って料金表がないというのも、依頼する側からしたら非常に不安なものです。

皆さん、相場はいくらですかと訊いてくるんですが、相場と言われてもそれは「私の相場」でしかなくて、いろいろなデザイナーと話をして交渉を身に着けていくしかないんじゃないでしょうか。

――本当は一定の力量をお持ちのデザイナーなら20万円が正価であって、それをカンパニーの事情に合わせて安くしてくれているという自覚を、カンパニー側がきちんと持たないといけないんでしょうね。動員が増えれば、当然ギャラも上げないと。

こちらも、「いまはそういう時期だからお受けするけれど、これから先々公演を続けていく中で、私も交渉しますよ」ということをガンと言いますよ。ずっとその料金で頼めると思ってほしくないですね。だから最初の交渉が難しいですね。それで基準値というものが出来てしまいますから。

――スタートラインの金額を提示されたら、そこから値切るのは失礼なんでしょうか。

クオリティが保証出来ないので、そういう仕事はしたくないですね。つらいです。向こうがこれしか出せないというなら、じゃあそれを2時間で上げてやるって思ってしまいます。2時間の仕事でいいのかと思います。

――ほかに充分な収入を得ていて、演劇チラシを趣味的にやられている場合は別だけど、そうでない場合は値切るのはあり得ないということですか。

趣味でやるということは、好きなことをやるということになりますから、カンパニー側の意図が反映されないリスクがあるわけです。ちゃんと思うものをつくりたいならば、その金額では出来ないということです。


デザイナーが1案しか出さないのは
制作者がなめられている

――仮に値切った場合、たぶんデザイナーは1案しか出さないと思いますが、その案が気に入らない場合、どうしたらいいんでしょう。だったら最初から値切るなよということでしょうか。

それは最初から何案ということを話しておいたほうが、トラブルは避けられますよね。そのギャラだったら1案しか出せないということは、デザイナーも先に言うべきだし。それで出してダメだったらどうするんでしょうね。それでよしとするしか……。

――確認ですが、私の常識としてデザイナーは複数案を提示するのが当然だと思っているのですが、それでいいでしょうか。

私もなにも言われない場合、2案は出します。

――そのとき1案しか出さない場合、突っ込んでいいんですか。

突っ込んでくれたほうが、この人は制作者としてちゃんとしてるなと思います。

――安いギャラでやっていただいているからといって、最初の1案=決定案と考える必要はないんですね。

ないです。それは言葉が悪いけど、なめられてるんです。切磋琢磨した関係性でないといい作品はつくれないですから、1案だけで受け取られると、こちらもここはこの程度でいいんだと思います。やりたいことの意図を伝えてほしいです。

――2案というのは全くデザインを変えるんですか。それとも色味を変える程度ですか。

ラフ段階で全く違う2案というのが常識だと思います。相当気心が知れていてタイトなスケジュールになると、こちらも「これでOKでしょう」とガッチリはまるときはあるんで、そのときは1案になっちゃうことはありますけどね。


同じ写真を使っても
見せ方や切り口は変えられる

――チラシの素材は写真やイラストを使うことになりますが、それはデザイナーに人選を任せたほうがいいのか、それともカンパニー側で用意したほうがやりやすいですか。

私にとっては、素材を指定してくれたほうが探す手間も省けるし、これを使いたいというカンパニーの意図が形としてはっきりあるわけだから、それを最大限に活かしてデザインしていくほうが劇団カラーを差別化しやすいですね。

――カンパニーのコンセプトを聞いて一から案を練っていく場合に、すでに指定された素材があると、逆にカラーが決まってしまうのではありませんか。

素材を見て「これは……」と思う場合は、「これだと、どんなにがんばってもこうなりますよ」と言います。だったらその素材で1案、私が考える素材で1案という場合もありますし、その写真家のほかの作品を見せてくださいとか、その方に新たに依頼しましょうとか、詰めた話をする場合もあります。ただ多くの場合、同じ写真を使っても見せ方や切り口は変えられると思います。

――イラストレーターの場合、そのカンパニーが継続して起用している場合もありますが、その場合はデザイナーにとっての前提条件になるわけですね。

それはいいことだと思いますね。こういうビジュアルで行くんだという明確な姿勢があり、それを活かしていくのはすなわち「顔」になってきますから。テキスト情報、写真、イラストにしても、もらった素材をどうするかというところから考えるわけですから、それが不利だとは思わない。

――カンパニー側が全く素材を用意出来ない場合、デザイナー側で手配していただけるのでしょうか。デザイン料でさえ充分でないのに、安い写真家を探すのはさらに大変かと思いますが。

フリーなので、3人も4人もカラーの違う写真家が後ろにいるわけではないので、限定されてくるとは思いますが、充分な時間とギャランティがあればそれは探しますし、声を掛けて手配することは可能です。ギャランティ交渉は個別にしてくださいという話にしたり、その辺は全部あからさまに話をしつつ進めるしかないですね。

――写真家の選定でお尋ねしますが、人によって得意分野でカラー/モノクロ、ポートレート/ブツ撮りの得手不得手というのはかなりありますか。

あると思いますよ。得手不得手というより、スタジオ撮り専門など、特徴や分野というものがありますから。デザイナーだって同じことで、デザインが出来るからお願いではなく、やっぱりその特徴を見てほしい。イラストレーターだって、それに合った依頼をするよう考えるべきです。

――カンパニー側はそういう知識は乏しいでしょうから、身近な知人に依頼してしまうことがあると思います。

カンパニーの姿勢として同じビジュアルを継続して見せていきたい、イメージを刷り込んで認知度を上げたいという戦略によると思います。ロゴ1個だけをキープして、あとは毎回全く違うことをやりたいというのも戦略だと思います。例えば、水と油はずっと同じイラストレーター、同じ色構成を続けているのでパッとわかりますし、青年団も橋口譲二さんを使っていた時代は一目でわかる継続の強みがありましたね。

――それでは、コピーライターは誰が担当すべきでしょうか。

立ち上げで、まず作品名よりもカンパニー名を出す戦略の下では主宰者が書くべきだろうし、プロデュース公演ではプロデューサー的な人が書くべきかも知れないし、ホンがメインなら脚本家が書くべきだろうし、見せ方によるんじゃないですか。

(この項続く)

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