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いたみ・まちなか劇場「味わう舞台」

いたみ・まちなか劇場「味わう舞台Vol.2」

第一回なは街ナカ文学演劇祭

演劇を身近に感じてもらう公演形態として、既存の飲食店に演劇人が出向き、食事とリーディング公演を楽しんでもらう「まちなか飲食店リーディング公演」がある。先駆けは仙台市で2008年から開催されている「杜の都の演劇祭」(主催/同プロジェクト)、そして津市を中心に11年から開催されている「M-PAD」(主催/特定非営利活動法人パフォーミングアーツネットワークみえ+三重県文化会館)だ。

残念ながら「杜の都の演劇祭」は18年から休止しているが、16年からは那覇市で両企画にインスパイアされた「なは街ナカ演劇シリーズ」(主催/おきなわ芸術文化の箱)、18年からは兵庫県伊丹市で「いたみ・まちなか劇場『味わう舞台』」(主催/いたみ文化・スポーツ財団+伊丹市)が始まっている。後者はAI・HALLが企画製作し、18年・19年とも市内4店舗で開催している。プログラムもリーディング公演だけでなく、ダンスや一人芝居を含むバラエティに富んだ内容だ。

AI・HALLでは、08年度から「地域とつくる舞台」シリーズを展開しており、12~13年には「いたみ・まちなか劇場」として、劇場を飛び出したアウトリーチ公演を実施した。「味わう舞台」はその発展形になる。伊丹市は元々「伊丹オトラク」に代表される官民一体となった文化イベントの土壌があり、関西で「まちなか飲食店リーディング公演」に最も適したエリアの一つだろう。

関西では、若手による劇場公演の縮小に伴い、特定の店舗を使ったカフェ公演、飲食店公演自体はめずらしくない。だが、演劇ファンに認知された店舗ではなく、伊丹のまちなかで新しい出会いを狙った企画を公共ホールが仕掛けるのは、大きな意義があると思う。考えてみれば「M-PAD」へは関西からの参加が多く、関西での本格的な「まちなか飲食店リーディング公演」は遅すぎた感もあるくらいだ。

注目したいのは今年の隈本晃俊『チンピラB』で、これは一人芝居フェスティバル「INDEPENDENT」(主催/INDEPENDENT)で14年に初演され、「3rdSeasonSelection」として同フェス第3期のベスト10に選ばれている。上演時間約30分の新作一人芝居を生み出す「INDEPENDENT」の本拠地である関西で、リーディング公演だけでなく一人芝居の上演機会としても、こうした飲食店とのコラボレーションは大きな可能性を秘めているのではないだろうか。これは「INDEPENDENT」の地域版「SND」「NGY」「OKN」が開催される各地区も同じだと思う。

18年・19年と店舗が完全に入れ替わっているのも、さすが飲食店が充実した伊丹らしい。18年は25時まで営業しているカフェ&ダイナーを会場にすることで、21時半開演の「バー公演」(宮川サキ『宮川サキのキャラクター大図鑑~伊丹出張編』)も実現している。公共ホール主催しては画期的だと思う。劇場公演の代替ではなく、明確な別の意図を持った企画公演として、こうした「まちなか飲食店リーディング公演」が広がることを歓迎したい。