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上演前に携帯電話の電源を切らせるアナウンスはもはや常識となったが、このとき電源を切らずにマナーモードにするだけの人がいる。カンパニーによっては「マナーモードの振動は周囲のお客様のご迷惑になりますので、必ず電源からお切りください」と念押しするところもあるが、最近新たな問題となっているのが携帯電話を時計代わりに使っている観客だ。

上演中に時間を見たくなるのはわかるが、暗転中に折り畳み式の携帯電話を開くと、液晶ディスプレイのバックライトが点いてしまう。本人は気づいていないのかも知れないが、完全暗転中に客席のあちこちで蛍のような光が灯っているのは、演出上どうだろう。完全暗転というのは、やはり真っ暗な闇に包まれてこそ心理効果があるのではないか。弱くてもなにかの明かりが点いているというのは、作品にとってマイナスではないだろうか。

劇場機構上の理由により、薄暗い暗転にしかならない場合は黙認してもいいだろうが、そうでない場合は事前に注意のアナウンスを流すべきではないだろうか。例えば、「暗転中に携帯電話を開かれますとバックライトが演出効果を妨げますので、電源からお切りくださるよう、ご理解とご協力をお願いいたします」という具合に。

携帯電話の規制については、緊急連絡が入る可能性のある職業への配慮から異論もある。しかし、劇場が地下にあって最初から圏外になっている場合はどうしようもないのだから、電波の届く劇場で切れないという主張は論拠が薄いように私は感じる。最も緊急性の高い連絡は人命に関わるものだが、果たして観劇中のその人しか対応出来ないという事態があるのだろうか。どんな組織であれ、必ず代わりの人材がいるはずではないだろうか。そうでないと、逆にその人が倒れたらその組織はどうなるのだろうと思う。

もし本当に一刻を争う立場にいるのなら、入場時に携帯電話を受付に預け、連絡があったら客席まで呼びに来てくれるよう依頼すればいい。客席で携帯が着信することを防げるなら、フロントスタッフは誰でも喜んで引き受けるはずだ。制作者にとって、客席の携帯電話ほど憎むべき存在はないからである。