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舞台における音響効果のことを音響と呼び、音楽、効果音、マイクによる拡声などを指す。コンサートやイベントではPA(Public Address)と呼ぶが、これは音を大きくする拡声だけのことを指し、音響効果とは性格が異なるものである。従って演劇でPAという言葉を使うのはおかしい。なお、コンサート用語のMC(Master of Ceremonies)は、司会者の意味で演劇界でも用いられる。

効果音はSE(Sound Effects)ともいい、実際の生録(なまろく)や擬似音、サンプラーなどで生成する。効果音集などの音源(おんげん)も発売されている。短いものは直接サンプラーの鍵盤で出す場合が多いが、長いものは選曲された音楽と同様にオープンリールMDに録音し、本番中に頭出しをしながら、きっかけに合わせて再生する。オープンリールはその音質と信頼性、頭出しの確実さから長らく使われてきたが、現在では頭出し操作不要のMDが使われるケースも増えている。

オープンリールは、実際に録音したテープとテープの合間に白いリーダーテープを挟み込んでいくことで、頭出しと終了のタイミングをわかりやすくする。テープがデッキの再生ヘッドを通過する位置を確認し、ダーマトグラフで背面に印を付けてカットし、リーダーテープをつなげていく。消磁された専用ハサミとスプライシングテープによる手作業である。オープンテープはカセットテープやフロッピーディスクなどと同様、磁気記録メディアである。磁力の強いものを近づけてはならない。

音響の調整卓はミキサーと呼ばれ、すべての入出力がここに集中する。オープンリール、MDデッキ、サンプラーなどはミキサー周りに置かれ、アンプを介してスピーカーへ至る。イコライザーリバーブマシン(エコーマシン)を通して音質を調整することも多い。通常、スピーカーは舞台の両端に設置するが、演出効果を高めるために舞台奥や小道具に仕込むこともある。舞台上のバトンやトラスに設置するものはフライングスピーカーと呼ぶ。

小劇場演劇では普通はマイクは使わないが、歌唱シーンで拡声が必要な場合や入浴シーンでリバーブをかける場合などは、ワイヤレスピンマイクを装着したり、舞台床面に仕込んだマイクで拾う場合もある。中劇場クラスになると役者の地声だけというケースは少なく、観客が気づかないレベルで床面のマイクによる補正をしていることが多い。ナレーション用などに、舞台袖に設けたものを影マイクという。使用者自身がアッティネーター(カフ)でマイクのON/OFFをする場合もある。カフは咳のことで、原稿めくりや咳払いの音を拾わないよう、アナウンサー自身がON/OFF出来るようにすることから付いた。スイッチだといきなり無音になってしまうので、フェーダーで自然に上げ下げ出来るようになっている。場当たりなどで、演出や舞台監督が客席で用いるマイクをがなりと呼ぶ。スタッフ間で連絡を取るヘッドセットをインカムと呼ぶが、最も活躍するのは照明のシュートのときなので、劇場備品にない場合は照明スタッフが持参する場合も多い。

プロ用の業務用機材には、信頼性の高いキャノンコネクターが使われている。形状はオスメスがある。ミキサーから舞台まで長い距離を配線するのは大変なので、通常は舞台機構として充分な系統数が配線されている。これらの全配線はミキサー近くにパッチパネルという形で集約され、使用する機材に合わせて短いコードで入出力同士を結線する。このこと自体をパッチするという。また、複数系統を一本にまとめたマルチケーブルも備品として用意されている。

音響ケーブル類は、必ず8の字巻きという巻き方をする。照明では用いられず、音響独自の巻き方である。巻き取る際に利き手を順手・逆手の交互にしていくことにより、結果的に数字の8の形に巻く方法で、もつれにくく、使用時にすぐバラける利点がある。太いケーブルの場合は床に直接置いて、8の字型にしていく方法が取られる。8の字巻きは音響スタッフの基本中の基本で、これが出来ないと仕込み・バラシに参加出来ない。制作者も覚えておいて損はない。

音響スタッフがスピーカーからの音の様子をチェックする時間帯をサウンドチェックという。他の雑音が許されないので、舞台・客席は音響スタッフだけになる。シュートの時間帯が照明スタッフだけになるのと同じである。