この記事は2001年4月に掲載されたものです。
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『Weeklyぴあ』演劇情報掲載問題
ぴあ本誌の首都圏版『Weeklyぴあ』が年頭のリニューアルで誌面を刷新し、演劇情報の選別有料化による議論が起こったことは皆さんもよくご存知だろう。首都圏以外の方のために整理しておくと、下記のとおりである。
- ぴあ全体のWeb化が進行し、ぴあ本誌は「@ぴあ」のカタログという位置づけになった(これに伴いページ数が大幅に増えた。本誌単体で利益を出すのではなく、ぴあ全体で収支計算するような構造改革が行なわれたと思われる)。
- 「@ぴあ」で扱わない公演=チケットぴあに委託しない公演は、前売情報・公演中情報とも掲載されなくなった(その代わり、委託している公演は毎号必ず掲載されるようになった。これまで『Weeklyぴあ』は間引き掲載だった)。
- 公演中情報そのものが簡略化され、集団名しか掲載されなくなった。
- 従来の編集記事に加えて、有料記事枠が新設された。これにより資金力のある主催者は情報を目立たせることが可能になった。
- チケットぴあ興行登録料が大幅値上げ(1万円から3万円)になった。
演劇の場合、3では情報誌の意味を成さないという批判が噴出し、公演タイトルがすぐに追加されたが、2と5に関しては、興行登録料が支払えない若手劇団は情報が一切掲載されないことを意味し、大きな問題として各方面で取り上げられた。そして通巻900号となる4月23日号から方針を再び変更し、公演中情報の網羅化と詳細化が実現した。これにより、チケットぴあに委託しない公演でも、公演中だけは掲載されるという従来のスタイルに戻った。また、興行登録料もチケット料金に応じた3区分となり、若手劇団に配慮したものになった。
なるほど、ただでさえ少ない演劇情報掲載の機会を増やすという観点からは、今回の措置は理想的とも言える解決策だと思う。しかし私が気になるのは、ぴあへの今回の批判が、情報が載る載らないという次元の問題に終始し、プレイガイドとカンパニーがどう付き合うべきかという観点が欠落しているように思えるからである。情報誌への掲載はカンパニーにとって非常に重要なので感情的になってしまい、プレイガイドでいかにチケットを売っていくべきかという冷静な議論がなにもなかったように感じてしまうのだ。
『ぴあ』は情報の網羅を目標に創刊された雑誌である。その企業理念からすれば、公演中情報ではチケットぴあの扱いにかかわらず掲載してほしいという願いは正論だろう。しかし、それと興行登録料値上げとは全く別の問題だと私は思う。この二つはきちんと切り分けをし、冷静な視点で別々に議論されるべきことなのだ。
カンパニーが本気で動員を増やしていこうとすれば、手売りや直接販売だけでなく、プレイガイドでの販売が不可欠となる。プレイガイドへ配券するからには、そこでの販売数を増やしたいと考えるのが筋だろう。ところが実際には、チケットぴあに委託しても1枚も売れないという若手劇団が少なくない。つまり興行登録料を丸々損しているわけだが、それでもなぜ委託をやめないのかというと、ぴあ本誌に情報掲載される機会が増えるからである。つまり、チケットが売れなくてもいいから雑誌に載りたいという気持ちで委託しているわけで、これは本末転倒ではないだろうか。
興行登録料が大幅値上げになれば、これまでのようにチケットが売れなくてもいいという考えは通用しなくなる。当然ながら採算分岐点を意識し、最低何枚プレイガイドで売らないといけないかを判断する必要が生じる。目標が出来ればそれに向けてがんばるわけで、これまでのように「売れなくても情報が載るからいい」という甘い考えはなくなるはずだ。つまり、興行登録料値上げは本気でチケットぴあをプレイガイドとして使うかどうかの踏み絵であり、カンパニーの覚悟を問う好機だと私は感じていた。それが若いカンパニーにハードルが高すぎるという理由で批判するのは、おかしいのではないかと思う。演劇は興行である。ならばプレイガイドでチケットを売る努力をするのは当然ではないだろうか。
今回の問題は、キャラメルボックス/ネビュラプロジェクトの加藤昌史氏が自身のサイトで大批判を展開されたことで小劇場界に広まったが、興行登録料値上げについて加藤氏は、関西劇団の東京初公演を例に出しながら「初めての東京公演でチケットぴあで25枚売れる、なんてことは、あるわけがありません」と書かれている。
「加藤の今日2000」2000/12/24付「『ぴあ』よ、何故?」
しかし、関西のカンパニーだからこそ東京に友人知人は少ないわけで、観客のほとんどが一般のお客様のはずだ。ならばチケット販売はプレイガイドに頼ることになるわけで、加藤氏の主張は私の経験からしてもおかしい。真実はこの逆で、関西劇団の東京初公演だからこそプレイガイドで売らなければならないのではないか。私が所属していた遊気舎の東京初公演(1992年)では宣伝の限りを尽くし、本当に死に物狂いになって動員443名の大半をチケットぴあとチケット・セゾンで販売した。それ以降も、本拠地の大阪より東京でのプレイガイド販売数が常に上回っていた。
旅公演ではこれくらいの必死さが必要なはずで、その厳しさを熟知されているはずの加藤氏が、なぜこの問題ではこのような主張をされるのか、とても不思議である。加藤氏がよく紹介されるエピソードだが、無名時代のキャラメルボックスがぴあ編集部にプロモーションに行き、「動員1万人になったら載せてやる」と言われ、それを発奮材料にがんばった話がある。今回の件もそれと全く同じで、若いカンパニーは3万円の興行登録料を出せるよう、ぴあを見返すためにがんばったらよかったのではないか。プレイガイドとはチケットを売るために付き合っているという当たり前のことを、いま一度見つめ直してほしいのだ。若いカンパニーが育つ環境を整えたいという加藤氏の主張はわかるが、安易に公演を打てる環境が逆にカンパニーをダメにしている事例も、近年増えていると思うのだ。
情報誌の演劇欄の充実、プレイガイドに委託する目的。今回の騒動には性格の全く異なる二つの問題が内包されていることを理解し、若いカンパニーは結果だけを見て安堵しないようにしてほしいものだ。