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※文中の金額・連絡先は2017年8月現在のものです。

はじめに

チラシの配布方法は、大別して次の4種類があります。

  1. 他公演での折り込み
  2. 劇場などでの置きチラシ
  3. DMによる郵送
  4. 手渡し

1は劇場で観客が手にするチラシ束を指しますが、すべての劇場で折り込みが出来るわけではありません。折り込みが出来る場合でも、作業日時やカンパニー数が制限されている場合がほとんどで、事前の許可が必要です。特に東京はカンパニー数が非常に多いので、他地域より制約が厳しくなっています。これを改善するため、ネビュラプロジェクトの関連会社ネビュラエクストラサポート(Next)がチラシ折り込み代行サービスを実施しています。これは同社にチラシを納品するだけで毎月十数公演に折り込まれるもので(実際には同社で組んだチラシ束が劇場に配達されます)、演劇公演ならA4/B5サイズとも1枚4円(税別)です。青山円形劇場のように外部の折り込みが認められていない劇場でも、同社のチラシ束だけは認められているケースもあります。折り込みスケジュール、申込方法などは同社サイトで公開されています。

有限会社ネビュラエクストラサポート
136-0071 東京都江東区亀戸7-43-5 小林ビル
電話:03-5628-1325 FAX:03-5628-1326
http://www.next-nevula.co.jp/

2は劇場ロビーなどでの置きチラシです。どこもスペースが限られていますので、平積み出来るのは恵まれたほうでしょう。スペースのない東京では、20~30枚程度を紐で吊り下げる方式も一般的です。交渉次第ですが、劇場以外にも学校、飲食店、雑貨店などで置きチラシ出来る場合があります。東京ではポスターハリス・カンパニーがこれらを代行しています。同社はポスター貼りで著名ですが、そのルートを活かした置きチラシも様々なメニューがあります。

株式会社ポスターハリス・カンパニー
150-0043 東京都渋谷区道玄坂2-26-18 朝香ビル103号
電話:03-5456-9160 FAX:03-3463-2992
http://posterharis.com/

3はDMに同封するものです。

4はメンバーが友人知人に直接手渡したり、劇場前や街頭で配布するものです。劇場前での配布は折り込みが出来なかった場合などに散見しますが、このとき重要なのは掛ける言葉です。ウイットに富んだ言葉で、笑顔で受け取ってもらえるようにしたいものです。これは一例ですが、「一生懸命がんばっていますから観に来てください」と叫びながらチラシを配っている集団がいました。いかにも若手カンパニーが言いそうなことですが、がんばるのは当然のことで、それを力説しながら渡すのはどうでしょうか。私自身は好感を持てませんでした。もっとほかに言うべきことがあるのではないかと思います。

東京方式と関西方式

劇場での折り込み作業で知っておいてほしいのが、東京方式と関西方式があるということです。東京方式は各カンパニーが一列になり、自分たちのところでチラシ束そのものを完成させてから、束の山ごと次のカンパニーに渡していきます。これに対し関西方式は、全員が輪になってチラシ束を組んでいくものです。

東京方式の場合、列の前ほどチラシ束が薄いわけですから作業は楽です。いちばん先頭ですと、主催者が用意した当日パンフにチラシを挟むだけで終わりになります。逆に最後尾は厚いチラシ束が山になってくるわけで、束を崩さないようチラシを挿入するのが大変です。カンパニー数が多いと、最後尾の作業半ばで先頭は終了ということもあります。このため東京方式は解散する時間もバラバラで、集合時間も一律ではなく、「×時~×時のあいだに作業をしてください」という案内が多いようです。

関西方式は全く対象的です。全員が決められた時間に集合し、各自が持参したチラシを長机に平積みして、人間のほうが移動しながら束を組んでいきます。これとは別に数名が組み終わったチラシを整えたり、主催者が用意した当日パンフでくるんだりします。統制のとれた共同作業ですから指導者が必要で、提携公演の場合は劇場側スタッフが、貸館公演の場合は主催者が仕切る場合が多いようです。

両方式の比較をまとめると、下記のようになります。

東京方式 関西方式
集合時間 ×時~×時に作業をしてください ×時に必ず集合してください
配置 カンパニー単位で列になる チラシを長机に平積みして囲む
動くのは チラシ束 人間
作業手順 折り込んだチラシ束を山ごと次の人へ 輪になってチラシ束を組み上げる
作業指揮者 いないことが多い 必須
作業時間 参加者の能力に大きく左右される ほぼ一定
作業スペース
参加者の交流 なし あり
仕上がり 汚い 美しい
解散時間 自分の分が終わったら帰る 全作業が終わるまで拘束

作業が終わったカンパニーから帰る東京方式に対し、全員を最後まで拘束して作業分担させるのが関西方式です。熟練した人ばかりで作業すれば東京方式も早いのですが、現実には不慣れなカンパニーのところで停滞しますので、総合的に見れば関西方式のほうが効率的です。また、カンパニー数が多くなりすぎると東京方式では対応不可能ですが、関西方式では長机さえあればなんとかなります。最終的なチラシ束の仕上がりも関西方式のほうが断然美しいので、主催者としては関西方式に魅力を感じると思います。

関西方式導入のために

このように優れた関西方式ですが、関西のカンパニーといえども東京で実施するのは難しく、私も試みては挫折してきました。関西方式は主催者の強力なリーダーシップと参加者の協力が不可欠ですので、個人主義とも言える東京方式から変えるのはなかなか難しいと思います。しかし、最近は不慣れなカンパニーによる東京方式の限界もよく耳にしますので、このサイトをご覧になったカンパニーから、ぜひ導入されてはいかがでしょうか。よいシステムは慣習にとらわれず積極的に導入していくことが大切なのではないかと思います。

私自身の苦い経験をご紹介しますと、東京公演で折り込み希望が殺到し、東京方式では作業スペースが取れないと判断して、関西方式を行なったことがありました。多くの参加者は趣旨を理解して協力してもらえましたが、露骨に嫌味や不平不満を言う参加者もいました。関西方式は最後まで拘束されますので、余分な作業をさせられているような感覚になったのだと思います。しかし、折り込みをさせにもらいに来ていて文句を言うという神経が、私には理解出来ませんでした。東京はカンパニー数が多い分、こうしたマナーのなってない人間も多いんだろうと思いました。

地域性の問題は当サイトでも今後積極的に取り上げていくつもりですが、東京はカンパニー数が多いため、自らレベルアップしてくるところのみを相手にしようという気風が小劇場界全体に強いと思います。それは逞しさを感じる反面、低レベルのカンパニーによる制作面でのトラブルも後を絶たないわけです。特に最近はチラシ折り込みが未熟なカンパニーのせいで、東京方式の流れ全体が停滞してしまう事例をよく耳にします。初心者があまりに多すぎる東京では、東京方式そのものが限界に来ているのでしょう。その対応のためにも、主催者が主導権を取って関西方式を導入する時期に来ているのではないでしょうか。

なお、私は関西方式が優れているとは思いますが、関西での関西方式の実態にも課題があります。それは劇場同士が相互協定を結び、提携公演のチラシを一緒に折り込ませていることです。劇場や提携公演の数が少ない時代は、折り込み参加者だけで充分対応出来ましたが、いまは数がたいへん増えていますので、作業する側の負担は相当なものではないかと思います。提携してもらうカンパニーにとっては、作業要員を派遣せずに自動的に各劇場に折り込まれるわけですから、こんな楽なことはないのですが、やらされるほうはたまらないと思います。関西は元々カンパニーの数が少なかったので、劇場が制作者を育てるという気風があり、提携公演自体の数も多くなっています(東京では提携公演はほとんどありません)。小劇場の過渡期には効果を発揮した制度ですが、これはそろそろ見直さないと、関西方式そのものが破綻してしまう危険があるのではないでしょうか。関西の劇場関係者の皆さん、ぜひ真剣にご検討ください。