この記事は2016年6月に掲載されたものです。
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東京のアーツセンターはここから始まった。夢の施設「にしすがも創造舎」の軌跡(2)東京国際芸術祭の体育館公演~劇場需要の高まり
●分割掲載です。初めての方は(1)から順にご覧ください。
東京を代表するアーツセンター、にしすがも創造舎(東京・西巣鴨)。2016年での終了に伴い、創設前夜の03年から「F/T」へ移行していく08年までを、fringeの主要記事から再録する。
※記事は掲載当時の内容である。再録に伴い、旧連絡先等は削除した。リンクは移動先が判明したものは変更し、それ以外は削除した。
レジデントアーティスト・倉迫康史氏の仕掛けた
『昏睡』体育館上演が劇場化の始まりだった
東京国際芸術祭2005ラインナップ発表、にしすがも創造舎の旧体育館で初公演(2005/1/5)
東京国際芸術祭(TIF)2005(主催/NPO法人アートネットワーク・ジャパン)のラインナップが、公式サイトで12月24日発表された。今年は前回好評だったパレスチナのアルカサバ・シアターを再び招聘、同芸術祭との国際共同製作とするほか、チュニジア、ドイツからもカンパニーを招聘する。
小劇場系では転形劇場出身の鈴木理江子氏率いるスリーポイント、飛ぶ劇場(本拠地・北九州市)、Ort-d.d(本拠地・東京都立川市+宮崎市)を中心に結成された創作ネットワーク委員会によるプロデュース公演の3本が組まれた。リージョナルシアター・シリーズは発表済み(2004/5/7付本欄既報)。
注目は創作ネットワーク委員会+Ort-d.dプロデュース『昏睡』で、これまでリージョナルシアター・シリーズ、こまばアゴラ劇場サミット、利賀フェスティバルなどで交流を重ねてきた各地の劇作家・演出家5名が、地域同士の連携による演劇界と地域文化の活性化を目指して結成したもの。倉迫康史氏(Ort-d.d)を代表に、久保田修治(POP THEATRE Я、本拠地・山口県柳井市)、泊篤志(飛ぶ劇場)、永山智行(こふく劇場、本拠地・宮崎県都城市)、森本孝文(演劇企画夢ORES、本拠地・鳥取市)の各氏がメンバー。永山氏が書いた二人芝居7本を他の4名が演出する(久保田氏の演出名は自由下僕)。
会場は、にしすがも創造舎(東京・西巣鴨)(2004/12/14付本欄既報)の旧体育館を使った特設劇場(2/24~2/28)。同施設で初めての演劇公演となる。同作品はTIFのほか、宮崎公演(門川町総合文化会館2/12~2/13、三股町立文化会館2/15)、山口公演(山口情報芸術センタースタジオA、2/19~2/20)でも上演される。それぞれ財団法人門川ふるさと文化財団、三股町・三股町教育委員会、財団法人山口市文化振興財団の主催で、山口公演は財団法人地域創造と財団法人全国市町村振興協会の助成も得た。東京公演はアートネットワーク・ジャパンが共催。企画全体を財団法人セゾン文化財団が助成。
公式サイトでは前回好評だった「劇評通信」(2004/2/16付本欄既報)も用意されている。詳細は同サイト参照。
東京国際芸術祭2005がユース・サポート・スタッフ募集(2005/1/5)
東京国際芸術祭(TIF)2005(主催/NPO法人アートネットワーク・ジャパン)では、公演準備や企画運営のサポートを通じ、25歳までの若手に制作の実践の場を提供するYAMP(Youth Arts Management Projects)を今回も実施する。ボランティアだが交通費支給(上限1日1,000円)とTIF公演の招待・優待がある。ボランティア保険料500円が別途必要。
リージョナルシアター・シリーズと創作ネットワーク委員会+Ort-d.dプロデュース『昏睡』の制作アシスタントを担当する制作班、海外招聘カンパニーの通訳や海外ゲストのアテンドを担当するインターナショナル班、高校生のための観劇プログラムをサポートする高校生プログラム班、全体広報を担当する広報班、にしすがも創造舎(東京・西巣鴨)内のカフェ「Camo-Cafe」を企画運営するカフェ班がある。
応募はメールで1月14日(金)必着。詳細は同サイト参照。
アートネットワーク・ジャパンが「倉迫康史×にしすがも創造舎」プロジェクト開始(2005/3/2)
特定非営利活動法人アートネットワーク・ジャパン(ANJ)は、倉迫康史氏(Ort-d.d、本拠地・宮崎市+東京都)演出作品の連続上演を7月から「にしすがも創造舎」(東京・西巣鴨)で開始することを明らかにした。
廃校を稽古場に転用した同施設では、開催中の東京国際芸術祭の一環として、倉迫氏を代表とする「創作ネットワーク委員会」による『昏睡』を体育館で初めて上演したが、この連続上演は同体育館の本格的劇場化を目指したものと思われる。『昏睡』当日パンフレットに掲載された速報では、2005年度は7月、10月、3月に上演を予定。作品は国内外の名作戯曲から選定中としている。
これまでANJは稽古場施設や東京国際演劇祭を通してOrt-d.dを支援してきたが、本格的に倉迫氏と作品創造に取り組むことになった。前人未到の道を切り開く同氏の動きは、制作者に刺激を与えるものだろう。
体育館の特設劇場が東京国際芸術祭の主会場へ、
トリのマーク(通称)が教室を利用した公演も
東京国際芸術祭2006ラインナップ発表、にしすがも創造舎での公演増加(2005/9/30)
2月~3月に開催される東京国際芸術祭(TIF)2006(主催/NPO法人アートネットワーク・ジャパン=ANJ)のラインナップが、公式サイトで9月29日発表された。今年はアメリカ現代戯曲のドラマリーディング、クウェートのスレイマン・アルバッサーム・シアターカンパニーを同芸術祭との国際共同製作とするほか、イスラエル、ドイツからもカンパニーを招聘する。国内からは昨年に引き続き、転形劇場出身の鈴木理江子氏率いるスリーポイントが参加する。
今回、ANJがASIAS(NPO法人芸術家と子どもたち)と共同運営するにしすがも創造舎(東京・西巣鴨)での公演が増加している。「にしすがも創造舎演劇上演プロジェクト」として10月7日~10日に上演される『サーカス物語』(演出/倉迫康史) に続き、『4時48分サイコシス』(演出/阿部初美)『ガラスの動物園』(演出/倉迫康史) の2作品が上演されるほか、国際共同製作など3作品もにしすがも創造舎が会場となる。
リージョナルシアター・シリーズは既報のとおり(2005/9/23付本欄既報)。期間中に国際演劇批評家協会シンポジウムも開催される。
詳細は同サイト参照。
東京・トリのマーク(通称)がにしすがも創造舎教室で特別公演、親子ワークショップも連続開催(2006/1/23)
トリのマーク(通称、本拠地・東京都西東京市)が、廃校を稽古場施設として活用しているにしすがも創造舎(東京・西巣鴨)の教室で、1月28日~3月26日の毎週末(計7回14日間)に親子対象の絵本ワークショップを開催する。同施設をANJ(特定非営利活動法人アートネットワーク・ジャパン)と共同運営するASIAS(特定非営利活動法人芸術家と子どもたち)の企画制作。
同カンパニーが展開する「ギロンと探偵のいる事務所」シリーズの一環で、初回の1月28日~29日はその設定を紹介する特別公演を実施する。同施設の教室で演劇公演が行なわれるのは、Ort-d.d(本拠地・宮崎+東京)による2004年8月20日のオープニング企画『銀河鉄道の夜』リーディング以来。
詳細は同サイト参照。※上記ワークショップ後、06年8月に教室で上演された公演『ハリスさん新聞社』へのリンク。
蜷川幸雄氏が体育館でのロングラン上演を希望、
暫定利用の条件下で正式に劇場化するかの岐路
東京・にしすがも創造舎体育館で蜷川作品を今秋2か月ロングラン上演(2006/2/10)
産経新聞東京本社版が2月2日付と7日付で、にしすがも創造舎(東京・西巣鴨)の近況を大きく伝えている。
2日付は、連載企画「『地域再生』最前線」で東京都豊島区の文化芸術創造都市計画を紹介。拠点の一つとして、にしすがも創造舎を取り上げた。NPO法人アートネットワーク・ジャパン(ANJ)の蓮池奈緒子事務局長は「けいこに集中できることで、作品づくりにいい影響が出てきている」、3公演の稽古で体育館を使用した蜷川幸雄氏は「都心でこれだけのスペースを自由に使える場所はなかなかない」と語っている。
にしすがも創造舎は平成22年度までの暫定利用で、豊島区の基本計画では敷地にスポーツセンターが整備されることになっているという。継続利用には計画の見直しが必要で、蓮池氏は「まず活動を地域で十分理解してもらうことが重要」としている。
7日付は、10月から体育館で2か月ロングランが予定されている『エレンディラ』(原作/ガルシア・マルケス、脚本/坂手洋二、演出/蜷川幸雄)をピックアップ。上演は蜷川氏からの希望だという。
7日付記事はSankei Webで全文読める。両記事とも取材は東京本社社会部・桑原雄尚記者。
Sankei Web「蜷川公演 劇場は廃校舎 体育館を利用 『社会と演劇つなげたい』」※掲載終了
東京国際芸術祭2006に見る、にしすがも創造舎の多彩な集客・地域戦略(2006/3/27)
2月10日~3月27日開催の東京国際芸術祭(TIF)2006(主催/NPO法人アートネットワーク・ジャパン=ANJ)は、ANJが拠点とするにしすがも創造舎(東京・西巣鴨)の体育館を改装。本格的な特設劇場として公演数が増えたため(2005/9/30付本欄既報)、同施設への集客や地域交流を意図した多彩な企画が見られた。
改装された体育館への導線として、今回は通常クローズされている正門を開放。大通りに面して看板を設置したほか、ウッドデッキの歩道に沿って屋外ディスプレイや照明を設けた。
稽古場施設として使われている本校舎1階には、TIF2005に続いてカフェ「Camo-Café」を特設。今回は保健所の営業許可を取得し、ドリンクだけでなくフードの提供も可能にした。ポストパフォーマンストークが設定された3夜は、作品に呼応して「ISRAEL Night」「ARAB Night」「HARUKAZE Night」と名付けられ、オリジナルフードやカクテルを200~300円の低価格で用意。トーク出席者もそのまま合流、観客との会話を楽しんだという。店内にはインターネット接続されたパソコンや、過去作品のDVD上演コーナーも設けられた。
TIF2006最終作品、にしすがも創造舎演劇上演プロジェクト『冬の花火、春の枯葉』(3/24~3/27)では、カフェに加えて開演前の体育館内に「クラブ斜陽」が出現。太宰治原作にふさわしく、作品の一環として女給姿のスタッフによるアルコール販売や、踊り子によるフレンチカンカンが楽しめる。
TIF2006サイト/TOPICS「学び舎が大人の社交場に・・・『クラブ斜陽』3/24より限定OPEN!」
同施設を訪れる観客や地域住民のため、ANJでは演劇祭期間中有効のクーポン24枚が付いた「にしすがも創造舎周辺まちあるきMAP」を作成。周辺の詳細な飲食店紹介、史跡ガイド、各交通機関の終電案内を掲載した。
同公式サイトは、毎年動画によるリポートやオンライン劇評などコンテンツの充実ぶりが光るが、今回は若手広報アシスタント(宮崎あかり+韮澤大地)によるウェブログ「東京国際芸術祭2006の舞台裏」が2月4日から連日更新され、作品紹介や稽古場リポートにとどまらない多彩な話題で存在感を示した。前述の「まちあるきMAP」と連動した店舗探訪、西巣鴨自体のエピソードなど、わかりやすい写真と共に話題づくりに貢献した。
公式サイト本体(ウェブディレクション/板澤一樹、ウェブデザイン/歌代紘)も、今年からクレジットカード決済可能なショッピングカートを用意。サイト本体へのトラックバックも受け付けるなど、さらなる工夫が見られた。
演劇祭の付帯企画や宣伝手法は多数あるが、演劇祭そのものを地域に馴染ませ、同時に演劇ファンも呼び寄せようという意図が伝わる展開だ。ハイブロウな作品が多いTIFだけに、必ずしも動員増とは直結していないようだが、蜷川幸雄作品ロングラン(2006/2/10付本欄既報)など今後の展開を考えると、地域との関係性構築や特設劇場の認知は着実に進んでいると思われる。
(この項続く)
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