この記事は2010年7月に掲載されたものです。
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2010年からユースチケット急増、学生から25歳前後へ対象広がる
演劇界で従来の学生料金がユースチケットへ移行しつつある。10年になって設定する劇場・カンパニーが増加し、その傾向が強まっている。これまでの動きをまとめる。
ユースチケット自体は1990年代から存在しているが、従来は学生や20歳以下の割引を意味していた。「ジーンズシート」という名称が使われることもあった。これが近年は25歳前後まで適用されるようになり、20代前半を広く取り込む動きを見せている。
こうした動きは京都から始まったと思われる。先鞭をつけたのは、京都造形芸術大学の京都芸術劇場(春秋座、studio21)(京都・北白川)だろう。01年のオープン時からユース料金(25歳以下)を設定し、関係者の学外公演でも一般的になっている。主宰が大学院在籍中のKUNIO、木ノ下歌舞伎も初期から設定している。大学という環境がユース料金を根付かせたと思われるが、京都は人口に占める学生数日本一で知られ、他カンパニーでも07年ごろからユース料金が目立ち始めた。
隣の滋賀も対応が早かった。びわ湖ホール(大津市)では、02年から当日券に残席がある場合は25歳未満の学生に半額販売する「学生割引当日券制度」を実施、03年から25歳未満も対象にした「青少年割引当日券制度」に拡大し、前売も青少年料金を新設した。関西では、AI・HALL(兵庫県伊丹市)も06年の自主企画からユース料金(25歳以下)を設定している。
東京では、ク・ナウカ(本拠地・東京都品川区)が04年に東京国立博物館本館前庭野外特設舞台(東京・上野)で上演した『アンティゴネ』初日を「ユースデー」とし、30歳未満割引を実施したのを皮切りに、07年の公演活動休止までユースチケット(25歳以下)を設定した。これと平行してシベリア少女鉄道(本拠地・東京都中野区)が06年から始めた「若者割引」(25歳以下)など、東京の小劇場系でも徐々にユースチケットが浸透していく。
新劇系では、文学座(本拠地・東京都新宿区)が06年から学生料金をユースチケット(25歳以下)に移行。劇団前進座(本拠地・東京都武蔵野市)は08年から「ジーンズシート」(25歳以下)を開始し、09年から名称をユースチケット(25歳以下)に変更した。青年劇場(本拠地・東京都新宿区)は学生・20歳以下を対象としていたユースチケットを09年から30歳以下までに変更、名称を「U30チケット」として20代全体の割引を行なっている。
10年になると、各地の劇場がユースチケット導入を開始した。主な要因として長引く不況で安価なチケット代が求められていることに加え、09年に東京芸術劇場(東京・池袋)が野田秀樹芸術監督就任記念プログラムで「サイドシート」(両端の見切れ席)による25歳以下1,000円や高校生招待を大々的に実施したこと、英国研修から帰国した長塚圭史氏の阿佐ヶ谷スパイダース(本拠地・東京都渋谷区)が、『アンチクロックワイズ・ワンダーランド』(東京2010/1/21~2/14=本多劇場、他6都市巡演)で「R20シート」を設けたことが挙げられる。いずれも未来の観客の育成、幅広い層の観劇が狙い。
毎日新聞東京本社版6月1日付朝刊によると、野田氏の高校生招待には1,000件を超える申し込みがあり、東京芸術劇場側も「普段、劇場に縁のない方が来てくれたのでは」と手応えを感じたという。これを契機に同劇場では10年度から高校生を1,000円にする割引をスタート、NODA・MAP(本拠地・東京都渋谷区)『ザ・キャラクター』(6/20~8/8、中ホール)から実施している。25歳以下の「サイドシート」大幅割引も継続している。
阿佐ヶ谷スパイダースの「R20シート」は年齢制限がなく、「CINRA.NET」1月26日付によると、「R」にはRestriction(制限)のほかにReasonable(手ごろ、安い)の意味を持たせたという。巡演先主催者もこれに反応、りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)は99年から大学院生まで対象の「演劇ジーンズシート」を設けているが、今回は「阿佐スパ☆U25シート」(25歳以下)を新設し、さらに幅広い観客に訴えた。同劇場では8月のナイロン100℃でも「U25シート」を設定している。
パルコ劇場(東京・渋谷)でも「U-25チケット」(25歳以下)を一部公演で設定、枚数制限付きで販売している。通常、年齢確認が必要なチケットは主催者のみでの販売になるが、同劇場はプレイガイドを使用。当日指定席引換券の形で販売し、会場受付で年齢確認の上、指定席券と引き換える方式を採っている。
世田谷パブリックシアター(東京・三軒茶屋)は、従来からトヨタ自動車の提供で学生向けに主催公演を半額にする「TSSS」(Toyota Student Support at Setagaya)を実施していたが、10年度から「U24チケット」(24歳以下)に移行した。
山口情報芸術センター(YCAM、山口市)では、初の演劇自主制作になった09年のマレビトの会(本拠地・京都市)から25歳以下料金を設定。同カンパニーは主宰の松田正隆氏が前述の京都造形芸術大学教員であるため、以前からユース料金(25歳以下)を設定している。北九州芸術劇場(リバーウォーク北九州内)も、10年から主催公演で24歳以下対象のユース料金を設定している。
他地域のカンパニーでも、ユースチケット導入が10年になって相次いでいる。名古屋では劇団B級遊撃隊が6月公演でユースチケット(25歳以下)を設定。福岡でもvillage80%が9月公演で、地元小劇場系では初と思われるユース料金(25歳以下)を設定した。同カンパニーでは、「これからの社会を支える若い世代のより多くの方に舞台芸術にふれてもらえればと思い、ユース価格を設定いたしました。恋人や友達と映画館へ行くのと同じように、劇場に足を運んでくださるきっかけになることを私たちは願っています」と紹介している。
village80%で制作アドバイザーを務める七緒りか氏(制作修団プレアデス)は、YCAMの25歳以下料金にインスパイアされたとし、学校を卒業して1~2年はお金に余裕がないこと、10代で学生でない人もいるだろうことを個人ブログで説明している。
10年は全国的にユースチケット定着の年と言えそうだ。会場受付で年齢確認が必要なチケットは負荷になってしまうが、パルコ劇場が採用しているプレイガイドでの当日指定席引換券販売なら、決済済みなのでチケットの交換だけでよい。こうした方法もうまく使いながら、若い世代へのアプローチを行ないたい。
青年劇場サイト/季刊青年劇場NO.146「チケット料金改定のお知らせ」
http://www.seinengekijo.co.jp/news/146/ticket.html
東京芸術劇場サイト「東京芸術劇場の高校生割引 必見公演を1,000円で」
http://www.geigeki.jp/U18/
CINRA.NET「阿佐ヶ谷スパイダース新作公演に20席限定のお得な『R20シート』が登場」
http://www.cinra.net/news/2010/01/26/154818.php
asahi.com「英留学の成果新作に 劇作家・長塚圭史の挑戦」
http://www.asahi.com/showbiz/stage/theater/TKY201001150319.html
世田谷パブリックシアターホームページ/お知らせ「TSSSがU24に変わります」
http://setagaya-pt.jp/news/2010/03/tsssu24.html *1
七緒りか(L-project)のどたばたブログ(仮)「village80% 25歳以下のお客様は、前売り1,000円!」
http://l-project.jugem.jp/?eid=832
- 掲載終了のため、Internet Archive「Wayback Machine」(2010年11月28日保存)にリンク。 [↩]